異世界に来ましたが俺はスローライフを送りたいだけです

ベレット

帰り道での出来事

「ぎゃあああああ!」


「きゃあああああ!」


忘れてた、マジで!マンティコアの存在を!


人生で初めてという位、肺を酷使し懸命に走るが焼け石に水。
獣に足で勝てるべくもない。特に俺とリンカは遅いのだ。逃げ切れる筈がない。
それでも必死こいて走っていると。


「君達!そのままこっちに走ってくるんだ!」


なんかフルプレートの鎧を来た茶髪のイケメンが剣を振り下ろした。


そいつに向かって全力疾走していると、ふと後ろが気になり、リンカとタイミングを同じくして振り替える。


「ふおおおおおお!」


「いやあああああ!」


もう牙が目の前まで迫ってきていた。
だが俺達に牙が届く瞬間、俺とリンカの間を衝撃波が走り、マンティコアを真っ二つにした。


「「は?」」


どちゃっと肉の塊になり、地面を滑るマンティコアを引き気味に見下ろしていると、先程の男がすぐ近くまで近づいてきていた。


「君達大丈夫かい?おや、その髪と目はもしかして地球人かい?」


「え?もしかしてあんたも?」


「私達の他にも居たんですねー」


その男はリンカを見るなり手の甲にキスをした。


「助けるのに遅れてしまい申し訳ありません。お怪我はありませんか?」


くっそキザやん。こいつ嫌いだわ。イケメンだし。


「あ、はい...大丈夫です....ユウトさん、なんかこの人、気持ち悪い....」


「女の子はイケメン好きじゃないのか?こいつ....イケメン....だろ....」


自分で言っといてなんだが、落ち込みながらも怒りが込み上がってきた。泥かけてやろうか。


「私は別に...かっこ良すぎない人が良いですけど....」


「ふーん」


「ふーんって何ですか!折角教えたのに!」


何故そんな怒ってるんだ...怖い...


理不尽に怒るリンカを宥めていると男が笑い始めた。


「なんだよ?」


「はは....いや、別に。さっきはすまなかったね。挨拶のつもりだったんだ」


お前は中世の貴族か何かなのか?


「それよりもその剣、凄いな。どこで手にいれたんだ?」


刀のようなその剣に目を向けると男は愛おしそうに眺めている。


「これは神様に貰ってね。僕の宝だよ」


「はあ?あのギャル神がか?」


俺のその言葉の何かに引っ掛かったのか、顔をしかめ睨み付けてきた。


「君のその神様を敬わない言葉遣いなんとかならないのかな?」


「んな事言われてもな。着の身着のまま放り出されたからな。恨みもするだろ」
                                                                

「いや、そんなはずは...あのお優しい女神様が....」


今こいつ、女神と言ったのか?それに優しいだと?
どうも話が噛み合わないな。


「それってもしかして他の神様とか?神様って一人だけなんでしょうか?な~んて....」


「「それだ!」」


まるで長年の友のようにハモりながらリンカを指差す。


「その女神様ってどんな人?」


「白銀の短い髪で穏やかな笑顔をしていらっしゃったよ。僕がこの世界に来るときも何度も怪我をなさらないでくださいと.....」


「あのくそ神がぁ!!何で俺の時に限って!」


羨ましすぎるんだがっ!!


ふと思い出した。俺のスキルに不運があったな。
あれって元からなのだろうか....だとしたら....マジしんどいだけど。




ーー「そ、そんな事が....すまない。事情も知らずカッとなってしまって...」


「気にすんな。ただ俺がイケメンが嫌いなのは覚えとけよ。イケメン。もしお前が女連れだったらスライム地獄へ連れてってやる」


「君はイケメンに恨みでもあるのかい?」


どうやらこの智也という男、俺達を町に無事送り届けてくれるらしく、申し出てくれた。


リンカはキモいから嫌ですと言っていたが頼んだら了承してくれた。


「ないけど、ただ単に嫌い」


「なんだい、それ....君ちょっと性格歪んでるじゃないかい?」


失礼にも程があるだろう。全身泥パックにするぞ。


「ユウトさんは優しいです!あなたみたいな気持ち悪い人に言われたくないですから!」


ーー「ここまでだね。それじゃあ....また会いに来て良いかい?」


「「断る」」 


すごすごと帰っていった。
意外と寂しかったのかもしれないな。
それはそれとして、イケメンはやっぱり嫌いだ。

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