異世界に来ましたが俺はスローライフを送りたいだけです

ベレット

ギルド登録しちゃったよ

リンカの足は俺と同じかちょっと遅いくらいで、なかなか距離を縮めれず、ようやく腕を掴んで止めた頃にはギルドとおぼしき建物の前に居た。


「待てっての!ほんとにギルドに登録するのかよ!?危ないかもしれないんだぞ!?」


「そうなんですか?んー...でも大丈夫ですよ!だって神様がくれたパンフレットに載ってるんですから安全です!」


この能天気女が....!


「だーかーらー!危険かもしれないんだって!」


「そうかもですけど....私達他にやれることも無いですよ?」


「ぐっ!...そ、それはそうだが....」


確かにこのままじゃ飢えるか殺されるかの二つに一つ。
せめて食いぶちくらいは稼がないといけない。
半ば無理矢理納得しているとリンカが俺の手からするりと抜け、入ろうとするので今度は手を掴む。


「だから待てっちゅーに!」


「もう!さっきから何なんですか!」


可愛らしく頬を膨らましている。
外見だけは完璧だなと思う。外見だけは。


「お前....自分の格好見てみろよ。ついでに周りを見渡したら、ブレザーだけでも脱がないか?」


俺の忠告に徐々に顔を赤くさせているリンカは大人しくブレザーを脱いだ。


こいつ、結構胸あるな...目のやり場に困る。


「何処見てるんですか...行きますよ!っていうか早く言ってくださいよぉ!」


ごめんなさい....でも理不尽だと思います。


◇◇◇


「ふあ~、これがギルドってとこなんですね~!凄いです、ユウトさん!」


「市役所やん。」


景観としては、ただただ木材になっただけの市役所でした。
カウンターの先に受付嬢が三人おり、その手前には待ち合い室や整然と並べられた椅子。
日本生まれなら誰でも知っているあの場所だ。
リンカは何が楽しいのか、くるくる回りながら市役所...もとい、ギルド内観に眼をキラッキラさせながら見渡している。


しかし、往来の邪魔にしかなっていないリンカの襟首をひっ掴み引きずっていくことにした。


「邪魔になるから止めろ!ほら、行くぞ!登録するんだろ!」


「うぐ....首が.....一旦...一旦止まって....」


だが断る。
そうこうしながらカウンターに辿り着いてしまった俺達にギルド員の美人お姉さんが爽やかに微笑みかけてきた。


「本日はどのような御用でしょうか?」


「はい!ギルド登録?したいです!」


良く分かっとらんのに話を進めるな。


「あー、その....どうやって、登録手続きをすれば....」


「あ、はい。冒険者登録ですね。ではこちらに記入を」


紙を二枚、それぞれ渡されたが文字が読めないことに気が付いた。
そりゃそうだ、異世界の文字なんて読めるはずがない。


「えーと...どうしたらいいんだ....」


「もしかして文字、読めませんか?」


「どうしよう、ユウトさん....最初から詰みだよ....」


二人して読めず、お姉さんから顔を背けていると、顔色を一切変えず、登録書を二枚とも回収した。


「冒険者になる方は読めない方も居ますからそれはもう良いですよ。では次はこちらをお願いします」


お姉さんがカウンター下から取り出したのは地球儀みたいな球体の装置だった。


「こちらは冒険者ランクを測る、アナライザーという魔法具です。」


「魔法具....!うわあ、漫画みたい....」


今さら過ぎないか、リンカ?


「この窪みに名前を声に出しながら手をおいてください。」


「どっちからやる?」


「ちょっと怖いからユウトさんからどうぞ?」


こいつ、乗り気だったくせに日和やがった。


「わかった....俺からやるぞ....ふう.....ユウト。....これで良いですか?」


アナライザーの窪みに右手を置き、名前を呟くとお姉さんがアナライザーの裏側から飛び出したカードを拾い確認する。


だが、その時初めて表情が曇った。


「な、何ですか....」


「え、ええと....非常にお伝えしにくいのですが、ユウト...様は....その....最低ランクのFです...」


お姉さんからカードをひったくり、カードの内容を確認するなり、膝から崩れ落ちる。


「そんな....」


『冒険者ユウト
職業 便利屋
力 E 魔力 E 素早さ E 武器適正 F
防御 F 知能 C 耐久 E 習熟度 S
スキル一覧
文字解析 売買優遇 不運        』


便利屋....便利屋ってなんやねん....
これ、あれか?手先は器用だったりするあれだろ。
戦闘は無理やん....くそぉ....
まだ文字が読めるようになっただけましかもしれんが...


「ユウトさん、ちょっと通るよ」


ショックの余り四つん這いになっている俺をよけ、カウンターまで行くと歓声が沸き起こった。
何事かと立ち上がるとどうやらリンカがアナライザーを使っている様だ。


「こ、こ、これは....バトルマスター!?こんな田舎町で、こんな人物が現れるなんて!」


バトルマスター?...バトルマスターってあれだよな。近接なら敵はいないという....


「はあ!?....ちょ、ちょっと見せて!」


お姉さんからまたもやカードを奪い、覗き込む。


『冒険者リンカ
職業 バトルマスター


力 S 魔力 F 素早さ F 武器適正 S
防御 B 知能 F 耐久 C 習熟度 F
スキル一覧
ストレングス              』


......なんだ、この知能と素早さは。
象か、お前は....
これじゃあバトルマスターの能力が発揮できないじゃないか。


ギルド全体がバトルマスター登場により。


「これでこの町も安泰だな!」


「俺んとこのパーティーに来てくれー!」


凄い盛り上がりを見せているが俺はここで予言しておく。
絶対に泣きを見る結果になるに違いない。

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