3Rの魔法師〜魔力零の異端児は今日も誰かの魔力を糧にする〜
第67話 力の使い方
まさか僕が対抗戦の代表になるだなんて。冗談じゃない、という以外に言葉が見つからないよ。実技の時間に僕を指名したことに対するちょっとした仕返しのつもりだったのに、やっぱり憎しみは悲しみしか生まないという事なんだね。
「おい、そこの平民」
完全に思惑が外れた代表決めを思いながらため息を吐きつつ、放課後の廊下を歩いていると、後ろから突然声をかけられた。振り返ると、ガルダンとその手下であるデコボココンビが立っているのが目に入る。
「ちょっとツラ貸せ」
ガルダンは短い言葉で首をクイッと動かし、僕に背を向けて歩いて行った。手下の二人は僕が逃げないように背後に回っている。ガルダン君……憎しみは悲しみしか生まないよ、と言いたいのを我慢しつつ、僕は大人しくその後について行った。
やって来たのは定番中の定番でもある校舎裏。何の定番かと言うと、告白の場所としてもそうだし、気に入らない奴と#スキンシップ__・__#をはかる場所としてもだ。要するに人目が付かない場所。
ガルダンは足を止め、腕を組みながらこちらに振り返る。後ろから手下のどちらかが足を出してきたのは分かっていたが、僕はあえて何もせずにぼーっと立っていた。そのまま背中を蹴り飛ばされ、無様に地面に倒れこんだ僕を手下二人が上から抑え込む。ガルダンはそんな僕にこれ以上ないくらいに蔑んだ視線を向けていた。
「相変わらず情けない野郎だ。こんな奴がうちのクラスの代表になったかと思うとすげぇむかつくぜ」
「……ごめん」
こういう時は下手に言葉を出さない方が吉だ。何を言っても相手の神経を逆なでしてしまう。今日はクロエを送らなければいかないから、あまり時間をかけるわけにはいかないんだ。
「てめぇ、グレイスと何があった? やけに仲がよさそうじゃねぇか?」
ガルダンが僕の頭を踏みつけながら尋ねてきた。仲がよさそうって言われてもなぁ。やられたからやり返しただけなんだけど、そう言ってもどうせ聞く耳持たないだろう。
「……僕達は平民同士だから気が合っただけだよ」
「けっ! 地位も権力もねぇ奴らの傷のなめ合いかよ!!」
ガルダンは思いっきり足を振り上げ、僕の頭めがけて蹴りを放つ。僕はばれないよう咄嗟に身体をずらし、それを肩で受けた。
「てめぇが代表になることなんて誰も望んじゃいねぇんだよ。さっさとその権利を姫に返しやがれ」
僕の頭を蹴ったと思っているガルダンはしゃがみこんで髪の毛を引っ張り僕の顔を上げると、どすの利いた声を出してくる。なるほど、大好きなクロエと一緒に対抗戦を戦って絆を深めたいってところか。いいねぇ、青春だねぇ。
でも、こんな面倒くさい権利を一番譲りたいのは僕自身だってこと分かってる?そんなこと絶対に彼女が許してくれないって。グレイスに黙って代表を降りたせいで第零騎士団の事とか色々話されたら目も当てられないよ。
……まぁ、短い付き合いながら彼女はそんな事しないとは思うけどね。念には念を入れておかないと。それなら最初からグレイスを代表なんかに推薦するなって話だよね。反省。
「そこで何をしていらっしゃるのですか?」
僕がガルダンになんて答えようか考えていると、鋭い声が耳に届いた。よかった、相変わらずイザベルはいいタイミングで来てくれるよ。またしてもガルダンに絡まれているところを助けてくれるとは。流石は生徒達の悪行を取り締まる生徒会長だよ。…………いらっしゃる?
なんとなく口調に違和感を感じた僕はガルダン達と一緒に声のした方へと顔を向ける。
「貴族ともあろう者が弱い者いじめをなさっているのですか?呆れてものが言えませんわ」
僕達の視線の先にいたのは険しい顔をして立っているソフィア・ビスマルクだった。なるほど、助けてくれたのはビスマルク家の才女だったか。これであればガルダン達に殴られていた方がまだましだったね。
僕はため息が出そうになるのを堪えつつ、ガルダン達の様子を窺う。彼らはソフィアの姿をとらえると慌てて僕から離れた。
「確か、ドルー家とエイミス家、それにガードナー家ですわね。どのお家もよく存じておりますわ」
「そ、そうだよ! ビ、ビスマルク家のご息女に知っていてもらえるなんて、う、嬉しいぜ! な?」
取り繕ったように笑いながらガルダンが視線をやると、手下の二人は首がもげるんじゃないかと心配になるほどの速度で何度も首を縦に振る。そんな三人にソフィアは冷たい視線を向け続けていた。左右に垂れ下がっている銀色のドリルも心なしかいつもより尖っている気がする。
「……私の家は衰退の一途をたどっており、以前ほどの力はございませんわ。ですが、貴族の二三、潰す程度の余力は持ち合わせております」
「っ!?」
「平民だからといって虐げる悪しき貴族など無くなってしまった方がいいと私は思いますのよ。あなた達はどうでしょうか?」
……なるほどね。そういう力の使い方をするのか。
三人の顔から血の気が引いていく。目の前にいるのは国を作った御三家の一つであるビスマルク家の少女。今言った言葉がはったりでもなんでもないことくらいは三人とも理解していた。例えそれが上級貴族であろうと、御三家の当主が全力を出せば、潰すことなどわけない。
こういう展開になったか……別に放っておいてもいい気がするけど、そういうわけにもいかないのが辛いところだね。
「ごめんなさい、ソフィアさん。誤解を与えてしまったみたいだね」
「……えっ?」
僕は服についた土埃を払いながらその場で立ち上がり、笑顔を向けながら言うと、彼女は怪訝な表情を向けてくる。
「僕達は秘密の特訓をしていたんだよ。今日の実技で結構恥をかいてしまってね。ガルダン君達に頼んで格闘術を教えてもらっていたんだ。そうだよね?」
僕が目を向けると、ガルダン達は呆気にとられた表情でこっちを見ていた。話を合わせてもらわないと困るんだけど。そんな思いを込めて咳ばらいをしたところで、ようやく三人が頷き返してくる。
「……こんな人目につかないところで?」
「誰かに見られるのは恥ずかしくってね。ほら、努力しているところを見られると照れくさいじゃない?」
「私はそうは思いませんけど……」
全然納得していないようだけど、とにかくへらへら笑ってごまかすしかない。僕はソフィアに愛想笑いを向けながら、ちらちらとガルダン達に目で合図した。
「じ、じゃあ俺達はこの辺で!!」
「あっ! ちょっと……!!」
僕の意図に気が付き、そそくさとこの場を後にしようとするガルダンに、慌ててソフィアが手を伸ばす。僕はその間に入り、わざとらしくガルダンに声をかけた。
「今日は色々と助かったよ。ありがとう」
「お、おう! ま、また明日な!!」
返事もそこそこに、逃げるように走って校舎へと戻って行く三人を見送ったところで僕は大きく息を吐く。
「……どうして彼らをかばったりしたのですか?」
若干刺々しさの混じった声でソフィアが聞いてきた。僕は彼女に顔を向けると、再び笑顔を張り付ける。
「ソフィアさんもありがとうね! 勘違いとはいえ僕なんかを助けてくれようとしたんだよね?」
「質問に答えてください!」
「それにしてもここなら絶対に人なんて来ないと思ったのに、そんなことはなかったんだね。今度からはもっと人がいないところで特訓することにするよ」
「だからっ!!」
「ちょっと急いでいるから僕はもう行くね」
「ちょっと!! お待ちになって!!」
ガルダン達に倣って僕も駆け足でこの場を立ち去った。しばらく背中に視線を感じていたが、校門付近まで来たところでそれもなくなったのでホッと安堵の息を吐く。……なるべく彼女と関わりたくはないんだよ、僕は。
「おい、そこの平民」
完全に思惑が外れた代表決めを思いながらため息を吐きつつ、放課後の廊下を歩いていると、後ろから突然声をかけられた。振り返ると、ガルダンとその手下であるデコボココンビが立っているのが目に入る。
「ちょっとツラ貸せ」
ガルダンは短い言葉で首をクイッと動かし、僕に背を向けて歩いて行った。手下の二人は僕が逃げないように背後に回っている。ガルダン君……憎しみは悲しみしか生まないよ、と言いたいのを我慢しつつ、僕は大人しくその後について行った。
やって来たのは定番中の定番でもある校舎裏。何の定番かと言うと、告白の場所としてもそうだし、気に入らない奴と#スキンシップ__・__#をはかる場所としてもだ。要するに人目が付かない場所。
ガルダンは足を止め、腕を組みながらこちらに振り返る。後ろから手下のどちらかが足を出してきたのは分かっていたが、僕はあえて何もせずにぼーっと立っていた。そのまま背中を蹴り飛ばされ、無様に地面に倒れこんだ僕を手下二人が上から抑え込む。ガルダンはそんな僕にこれ以上ないくらいに蔑んだ視線を向けていた。
「相変わらず情けない野郎だ。こんな奴がうちのクラスの代表になったかと思うとすげぇむかつくぜ」
「……ごめん」
こういう時は下手に言葉を出さない方が吉だ。何を言っても相手の神経を逆なでしてしまう。今日はクロエを送らなければいかないから、あまり時間をかけるわけにはいかないんだ。
「てめぇ、グレイスと何があった? やけに仲がよさそうじゃねぇか?」
ガルダンが僕の頭を踏みつけながら尋ねてきた。仲がよさそうって言われてもなぁ。やられたからやり返しただけなんだけど、そう言ってもどうせ聞く耳持たないだろう。
「……僕達は平民同士だから気が合っただけだよ」
「けっ! 地位も権力もねぇ奴らの傷のなめ合いかよ!!」
ガルダンは思いっきり足を振り上げ、僕の頭めがけて蹴りを放つ。僕はばれないよう咄嗟に身体をずらし、それを肩で受けた。
「てめぇが代表になることなんて誰も望んじゃいねぇんだよ。さっさとその権利を姫に返しやがれ」
僕の頭を蹴ったと思っているガルダンはしゃがみこんで髪の毛を引っ張り僕の顔を上げると、どすの利いた声を出してくる。なるほど、大好きなクロエと一緒に対抗戦を戦って絆を深めたいってところか。いいねぇ、青春だねぇ。
でも、こんな面倒くさい権利を一番譲りたいのは僕自身だってこと分かってる?そんなこと絶対に彼女が許してくれないって。グレイスに黙って代表を降りたせいで第零騎士団の事とか色々話されたら目も当てられないよ。
……まぁ、短い付き合いながら彼女はそんな事しないとは思うけどね。念には念を入れておかないと。それなら最初からグレイスを代表なんかに推薦するなって話だよね。反省。
「そこで何をしていらっしゃるのですか?」
僕がガルダンになんて答えようか考えていると、鋭い声が耳に届いた。よかった、相変わらずイザベルはいいタイミングで来てくれるよ。またしてもガルダンに絡まれているところを助けてくれるとは。流石は生徒達の悪行を取り締まる生徒会長だよ。…………いらっしゃる?
なんとなく口調に違和感を感じた僕はガルダン達と一緒に声のした方へと顔を向ける。
「貴族ともあろう者が弱い者いじめをなさっているのですか?呆れてものが言えませんわ」
僕達の視線の先にいたのは険しい顔をして立っているソフィア・ビスマルクだった。なるほど、助けてくれたのはビスマルク家の才女だったか。これであればガルダン達に殴られていた方がまだましだったね。
僕はため息が出そうになるのを堪えつつ、ガルダン達の様子を窺う。彼らはソフィアの姿をとらえると慌てて僕から離れた。
「確か、ドルー家とエイミス家、それにガードナー家ですわね。どのお家もよく存じておりますわ」
「そ、そうだよ! ビ、ビスマルク家のご息女に知っていてもらえるなんて、う、嬉しいぜ! な?」
取り繕ったように笑いながらガルダンが視線をやると、手下の二人は首がもげるんじゃないかと心配になるほどの速度で何度も首を縦に振る。そんな三人にソフィアは冷たい視線を向け続けていた。左右に垂れ下がっている銀色のドリルも心なしかいつもより尖っている気がする。
「……私の家は衰退の一途をたどっており、以前ほどの力はございませんわ。ですが、貴族の二三、潰す程度の余力は持ち合わせております」
「っ!?」
「平民だからといって虐げる悪しき貴族など無くなってしまった方がいいと私は思いますのよ。あなた達はどうでしょうか?」
……なるほどね。そういう力の使い方をするのか。
三人の顔から血の気が引いていく。目の前にいるのは国を作った御三家の一つであるビスマルク家の少女。今言った言葉がはったりでもなんでもないことくらいは三人とも理解していた。例えそれが上級貴族であろうと、御三家の当主が全力を出せば、潰すことなどわけない。
こういう展開になったか……別に放っておいてもいい気がするけど、そういうわけにもいかないのが辛いところだね。
「ごめんなさい、ソフィアさん。誤解を与えてしまったみたいだね」
「……えっ?」
僕は服についた土埃を払いながらその場で立ち上がり、笑顔を向けながら言うと、彼女は怪訝な表情を向けてくる。
「僕達は秘密の特訓をしていたんだよ。今日の実技で結構恥をかいてしまってね。ガルダン君達に頼んで格闘術を教えてもらっていたんだ。そうだよね?」
僕が目を向けると、ガルダン達は呆気にとられた表情でこっちを見ていた。話を合わせてもらわないと困るんだけど。そんな思いを込めて咳ばらいをしたところで、ようやく三人が頷き返してくる。
「……こんな人目につかないところで?」
「誰かに見られるのは恥ずかしくってね。ほら、努力しているところを見られると照れくさいじゃない?」
「私はそうは思いませんけど……」
全然納得していないようだけど、とにかくへらへら笑ってごまかすしかない。僕はソフィアに愛想笑いを向けながら、ちらちらとガルダン達に目で合図した。
「じ、じゃあ俺達はこの辺で!!」
「あっ! ちょっと……!!」
僕の意図に気が付き、そそくさとこの場を後にしようとするガルダンに、慌ててソフィアが手を伸ばす。僕はその間に入り、わざとらしくガルダンに声をかけた。
「今日は色々と助かったよ。ありがとう」
「お、おう! ま、また明日な!!」
返事もそこそこに、逃げるように走って校舎へと戻って行く三人を見送ったところで僕は大きく息を吐く。
「……どうして彼らをかばったりしたのですか?」
若干刺々しさの混じった声でソフィアが聞いてきた。僕は彼女に顔を向けると、再び笑顔を張り付ける。
「ソフィアさんもありがとうね! 勘違いとはいえ僕なんかを助けてくれようとしたんだよね?」
「質問に答えてください!」
「それにしてもここなら絶対に人なんて来ないと思ったのに、そんなことはなかったんだね。今度からはもっと人がいないところで特訓することにするよ」
「だからっ!!」
「ちょっと急いでいるから僕はもう行くね」
「ちょっと!! お待ちになって!!」
ガルダン達に倣って僕も駆け足でこの場を立ち去った。しばらく背中に視線を感じていたが、校門付近まで来たところでそれもなくなったのでホッと安堵の息を吐く。……なるべく彼女と関わりたくはないんだよ、僕は。
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