3Rの魔法師〜魔力零の異端児は今日も誰かの魔力を糧にする〜
第55話 会議
今、リビングにいるのは僕を含めて第零騎士団のメンバーである五人だけ。状況が変わったということでイザベルとグレイスには帰宅していただいた。二人とも割と素直に帰ったけど、グレイスは明らかに不満そうな顔をしていたな。そりゃそうか。何のためにここに来たかわからないもんね。これは埋め合わせをしないといけないかもしれない。
「……それが来たってことは厄介なことが起きたって事っすね」
ヴォルフは僕が手に持つ赤い封書を見ながら面倒くさそうに言った。まだ頭に三角巾が付いているところを見ると、掃除していたところをファルに呼ばれたんだろうね。まぁ、ヴォルフがこんな顔になるのもわかる。普段、女王の依頼として届けられる封書は白いものだ。それに対してこの封書は赤。
「赤ってことはそこまで緊急性はないけど」
「機密レベルは高いってことですね」
「そういうことだね。……とりあえず見てみようか」
双子の言葉に頷くと、僕は慎重に封書を開けた。……うん。割と衝撃的な内容だね、これは。
「カシラ、焦らさないで早く教えてくださいよ」
ヴォルフが待ちきれんとばかりにせかしてくる。僕は書いてある内容を頭でかみ砕きながら、書面をみんなに見せた。
「……サリバン・ウィンザーが何者かに殺害されたらしい。同時に研究者のアクールと闇奴隷商のエタンが行方不明」
僕が静かな声で書いてあったことを代弁すると、リビングが静寂に包まれる。反応は三者三様であった。ファルは心底驚いたという感じで、ファラは驚きつつも口元に手を当て、何かを考え込んでいる。ノーチェが特に反応を示さないのはいつものことで、ヴォルフに関しては鋭い眼光をのぞかせた。多分、彼は僕と同じ可能性に気づいたんだろう。
「……サリバンの野郎は刻命館にいたんじゃないんすか」
「そのはずだよ」
「なるほどねぇ……」
ヴォルフは顔を顰めると、胸ポケットから煙草を取り出し、口に咥えて火をつける。彼の言った刻命館とは簡単に言ってしまえば刑が決まるまでの間、罪を犯した貴族が滞在する館のことだ。貴族相手にいきなり地下の独房へってわけにはいかないため、城と騎士団の詰所の間に建てられている。
「あのぽっちゃりバカ貴族が殺されちゃったなんて……」
「おそらく口封じのためでしょうね。何か知っているようでしたし。それにしても、相手側は中々に手際がいいですね」
ファラの言う通り、口封じに間違いないだろうね。でも、彼女は最も重要なことを失念している。そこに女王様が白ではなく赤い封書で送ってきた意味がある。
ヴォルフはゆっくりと煙を天井へ向けて吐き出すと、双子に向き直った。
「双子ちゃん達、これは単なる貴族殺しじゃねぇぞ?」
「え?」
「どういうこと?」
首をかしげる二人を見ながら、ヴォルフは灰皿の淵に煙草をトントンと当て、灰を落とす。
「確かに、べらべらと余計なことをしゃべる前に始末するっていうのは悪党の常套手段だな。だが、サリバンは一体どこで殺されたんだ?」
「どこって……刻命館でしょ?」
「そうですね。彼はそこに幽閉…………あっ」
途中で何かに気がついたファラが口元に手あてた。
「そういうことですか」
「え!? なになに!? 全然わからないんだけど!?」
完全に置いてけぼりを食らったファルが目で僕に助けを求めてくる。やれやれ、もう少し彼女には自分で考える力を養ってもらわないと困るな。
「ファル、あそこは厳重に警備されているんだ。今回のように裏で手を引いている者に捕まえた貴族を抹殺させないように」
「知ってるよー。無駄って思えるくらい騎士達が見張っているよね」
「そうだね。そうでなくても城の敷地内に侵入するのですら一苦労だよ。セントガルゴ学院と同様の警備システム、いやそれ以上かもしれない城の警備を抜けて、そこら中にいる騎士達の目を欺き、裏の仕事に鼻が利く僕達の目をかいくぐる……並大抵のことではないね」
「なるほど! よっぽどすごい使い手が雇われたって事か!」
合点がいったようにポンと手を打つファルに僕は静かな声でもう一つの可能性を示唆する。
「もしくは……本来護衛にあたるべき者が実は刺客だった、とかね」
「えっ? それって……」
信じられない、といった表情を浮かべるファルに、ファラが無言で頷いた。まったく……本当に厄介だね。内部に裏切り者がいるかもしれないとか、気が休まる時がないでしょ。
「まだ騎士の誰かがやったとは決まっていない。ただ、その可能性があることは頭に置いておかないといけないね」
「仮にファルの言った通り凄腕の暗殺者を雇っていたとしても面倒くさいっすよ。生半可なスキルの持ち主じゃない」
ヴォルフの指摘は尤もだ。内部犯にしろ、外部犯にしろ、城の敷地内で殺害された事実は変わらない。
「とりあえず僕達にできることは女王と王女の安全確認と、騎士であっても不用意に信じない、ということだね。……ノーチェさん」
「敷地内にいる限り、そのお二人には私の『影』が常に張り付いております。侵入者に襲われても五秒程『影』が時間を稼いでくれさえすれば、いつでも私が向かえるようにはなっています。ですので、私の『影』を瞬殺するほどの使い手であるとすれば、守りは万全とはいいがたいでしょうね」
僕が視線を向けると、ノーチェは淀みなく返答した。それを聞いたヴォルフが顔を引きつらせる。
「叔父貴の『影』を瞬殺……? あぁ、悪いっす。もしそんな奴がいたら俺は一抜けさせてもらうっすわ」
「そうだね。僕も勘弁願いたい」
そんな相手と戦っても死体が増えるだけだよ。女王どころか城にいる人達全員殺せるって。
「とりあえず二人の守りは完璧ってことで、他の騎士達の問題だけど……そもそも、僕達の方が信頼されていないよね」
「案外、俺達が疑われてるんじゃないっすか?」
「うわー、ありそう」
「甚だ不本意ですね」
ヴォルフが軽い口調で告げると、二人が嫌そうな顔で呟く。疑われていてもいなくても、どうせそこまで態度に差が出るとは思えないから別にいいんだけどね。
「もしかしたら他に何かアクションを起こすかもしれない。それまで僕達は見の姿勢を貫くってことでいいかな?」
「はーい」
「わかりました」
「了解っす」
「承知いたしました」
最後に僕達がとるべき行動をまとめて話し合いは終了となった。みんながリビングを離れて行く中、僕は一人、もう一度書面を手にする。
サリバン・ウィンザーを傀儡にしていた者がいる。それはとっくにわかっていた。だが、その傀儡師は僕が想像していたよりもずっと大物なのかもしれない。
サリバンは男か女か、ということに異常なこだわりを見せていた。つまり、彼は男尊派。要するに、女王の敵勢力ってことだ。反女王勢力が何やら動きを見せているっていうのは前にジェラールが言っていた。商人である彼の情報は信憑性が高ので、まず間違いないだろう。おそらく、ジェラールの言っていた勢力とサリバンが所属していた勢力は同じはずだ。
そうなると、騎士団の中にすら子飼いの者がいるほどの巨大な勢力が動き出したってことになる。はぁ……骨が折れる任務になりそうだ。
これは当分、女王の周りに目を光らせておかないといけないかもしれないね。
「……それが来たってことは厄介なことが起きたって事っすね」
ヴォルフは僕が手に持つ赤い封書を見ながら面倒くさそうに言った。まだ頭に三角巾が付いているところを見ると、掃除していたところをファルに呼ばれたんだろうね。まぁ、ヴォルフがこんな顔になるのもわかる。普段、女王の依頼として届けられる封書は白いものだ。それに対してこの封書は赤。
「赤ってことはそこまで緊急性はないけど」
「機密レベルは高いってことですね」
「そういうことだね。……とりあえず見てみようか」
双子の言葉に頷くと、僕は慎重に封書を開けた。……うん。割と衝撃的な内容だね、これは。
「カシラ、焦らさないで早く教えてくださいよ」
ヴォルフが待ちきれんとばかりにせかしてくる。僕は書いてある内容を頭でかみ砕きながら、書面をみんなに見せた。
「……サリバン・ウィンザーが何者かに殺害されたらしい。同時に研究者のアクールと闇奴隷商のエタンが行方不明」
僕が静かな声で書いてあったことを代弁すると、リビングが静寂に包まれる。反応は三者三様であった。ファルは心底驚いたという感じで、ファラは驚きつつも口元に手を当て、何かを考え込んでいる。ノーチェが特に反応を示さないのはいつものことで、ヴォルフに関しては鋭い眼光をのぞかせた。多分、彼は僕と同じ可能性に気づいたんだろう。
「……サリバンの野郎は刻命館にいたんじゃないんすか」
「そのはずだよ」
「なるほどねぇ……」
ヴォルフは顔を顰めると、胸ポケットから煙草を取り出し、口に咥えて火をつける。彼の言った刻命館とは簡単に言ってしまえば刑が決まるまでの間、罪を犯した貴族が滞在する館のことだ。貴族相手にいきなり地下の独房へってわけにはいかないため、城と騎士団の詰所の間に建てられている。
「あのぽっちゃりバカ貴族が殺されちゃったなんて……」
「おそらく口封じのためでしょうね。何か知っているようでしたし。それにしても、相手側は中々に手際がいいですね」
ファラの言う通り、口封じに間違いないだろうね。でも、彼女は最も重要なことを失念している。そこに女王様が白ではなく赤い封書で送ってきた意味がある。
ヴォルフはゆっくりと煙を天井へ向けて吐き出すと、双子に向き直った。
「双子ちゃん達、これは単なる貴族殺しじゃねぇぞ?」
「え?」
「どういうこと?」
首をかしげる二人を見ながら、ヴォルフは灰皿の淵に煙草をトントンと当て、灰を落とす。
「確かに、べらべらと余計なことをしゃべる前に始末するっていうのは悪党の常套手段だな。だが、サリバンは一体どこで殺されたんだ?」
「どこって……刻命館でしょ?」
「そうですね。彼はそこに幽閉…………あっ」
途中で何かに気がついたファラが口元に手あてた。
「そういうことですか」
「え!? なになに!? 全然わからないんだけど!?」
完全に置いてけぼりを食らったファルが目で僕に助けを求めてくる。やれやれ、もう少し彼女には自分で考える力を養ってもらわないと困るな。
「ファル、あそこは厳重に警備されているんだ。今回のように裏で手を引いている者に捕まえた貴族を抹殺させないように」
「知ってるよー。無駄って思えるくらい騎士達が見張っているよね」
「そうだね。そうでなくても城の敷地内に侵入するのですら一苦労だよ。セントガルゴ学院と同様の警備システム、いやそれ以上かもしれない城の警備を抜けて、そこら中にいる騎士達の目を欺き、裏の仕事に鼻が利く僕達の目をかいくぐる……並大抵のことではないね」
「なるほど! よっぽどすごい使い手が雇われたって事か!」
合点がいったようにポンと手を打つファルに僕は静かな声でもう一つの可能性を示唆する。
「もしくは……本来護衛にあたるべき者が実は刺客だった、とかね」
「えっ? それって……」
信じられない、といった表情を浮かべるファルに、ファラが無言で頷いた。まったく……本当に厄介だね。内部に裏切り者がいるかもしれないとか、気が休まる時がないでしょ。
「まだ騎士の誰かがやったとは決まっていない。ただ、その可能性があることは頭に置いておかないといけないね」
「仮にファルの言った通り凄腕の暗殺者を雇っていたとしても面倒くさいっすよ。生半可なスキルの持ち主じゃない」
ヴォルフの指摘は尤もだ。内部犯にしろ、外部犯にしろ、城の敷地内で殺害された事実は変わらない。
「とりあえず僕達にできることは女王と王女の安全確認と、騎士であっても不用意に信じない、ということだね。……ノーチェさん」
「敷地内にいる限り、そのお二人には私の『影』が常に張り付いております。侵入者に襲われても五秒程『影』が時間を稼いでくれさえすれば、いつでも私が向かえるようにはなっています。ですので、私の『影』を瞬殺するほどの使い手であるとすれば、守りは万全とはいいがたいでしょうね」
僕が視線を向けると、ノーチェは淀みなく返答した。それを聞いたヴォルフが顔を引きつらせる。
「叔父貴の『影』を瞬殺……? あぁ、悪いっす。もしそんな奴がいたら俺は一抜けさせてもらうっすわ」
「そうだね。僕も勘弁願いたい」
そんな相手と戦っても死体が増えるだけだよ。女王どころか城にいる人達全員殺せるって。
「とりあえず二人の守りは完璧ってことで、他の騎士達の問題だけど……そもそも、僕達の方が信頼されていないよね」
「案外、俺達が疑われてるんじゃないっすか?」
「うわー、ありそう」
「甚だ不本意ですね」
ヴォルフが軽い口調で告げると、二人が嫌そうな顔で呟く。疑われていてもいなくても、どうせそこまで態度に差が出るとは思えないから別にいいんだけどね。
「もしかしたら他に何かアクションを起こすかもしれない。それまで僕達は見の姿勢を貫くってことでいいかな?」
「はーい」
「わかりました」
「了解っす」
「承知いたしました」
最後に僕達がとるべき行動をまとめて話し合いは終了となった。みんながリビングを離れて行く中、僕は一人、もう一度書面を手にする。
サリバン・ウィンザーを傀儡にしていた者がいる。それはとっくにわかっていた。だが、その傀儡師は僕が想像していたよりもずっと大物なのかもしれない。
サリバンは男か女か、ということに異常なこだわりを見せていた。つまり、彼は男尊派。要するに、女王の敵勢力ってことだ。反女王勢力が何やら動きを見せているっていうのは前にジェラールが言っていた。商人である彼の情報は信憑性が高ので、まず間違いないだろう。おそらく、ジェラールの言っていた勢力とサリバンが所属していた勢力は同じはずだ。
そうなると、騎士団の中にすら子飼いの者がいるほどの巨大な勢力が動き出したってことになる。はぁ……骨が折れる任務になりそうだ。
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