3Rの魔法師〜魔力零の異端児は今日も誰かの魔力を糧にする〜
第15話 新入生
僕はニックとジェラールの三人で校内にある魔闘技場の裏手に向かっていた。なんでも、そこは告白の名所らしく、ジェラールの話していた新入生もそこで告白されるらしい。そういう事に鈍感であるという自覚がある僕でも、もう少し色気がある告白場所があるんじゃないかって思う。
「やっぱり僕の情報通りだったね」
「あぁ……なんだこれ? 戴冠式が何かか?」
ニックは目の前に広がる光景を唖然とした顔で見ていた。僕も似たような気持ちだ。
告白の名所……僕はてっきり人通りが少なく、二人きりで思いを告げるのに適した場所だと想像していた。だが、実際は違うみたいだ。
そこら中、学生で埋め尽くされている。それこそ、足の踏み場もないくらいに。
「……この学院の告白っていうのは、女王の演説みたいなものなの?」
僕が尋ねると、ジェラールは苦笑いを浮かべた。
「さて、と……大輪が咲くやもしれない新芽が気になる連中がこんなに集まるとは僕も思わなかったけど、どうする?」
「どうするって聞かれても……」
僕の目的はグレイスから逃げる事だから、新入生を見なくても問題ない。だが、この異常な状況を見て、変なスイッチが入った男が一人いた。
「ここまで来て手ぶらで帰るわけにはいかねぇだろ。……なんか負けた気がする!」
バチンッ! と自分の拳を手のひらにぶつけると、ニックは不敵な笑みを浮かべる。熱血漢のニックはなぜか燃えていた。誰か彼のやる気スイッチの発動条件を僕に教えて欲しい。
「よし! 最前列まで行くぞっ!!」
「やれやれ……言い出しっぺは僕だから文句をいうのは筋違いか」
意気揚々と人混みに飛び込んでいったニックの背中をジェラールが追っていく。かなり迷ったが、僕も嫌々ながら二人の後についていった。
人の圧にもみくちゃにされる自分。まったく……何が悲しくてこんな事をしなくちゃいけないんだ。これが任務なら、なんの感情も抱かずに遂行するのに。現にデボラ女王が式典に出た時、人混みに紛れて命を狙っていた暗殺者を仕留めたことだってある。あの時はこの比じゃないくらいの密度だったっていうのに、不快感や不満は一切抱かなかった。なのに今は一刻も早くここから去りたいと心が叫んでる。
人が密集しているせいか熱気が凄まじい。牡牛の月だというのに制服の中が汗ばんできた。
まぁ、いい。最前列まで行けばニックも満足するだろう。彼の目的はもはや新入生を見ることではなく、人壁を越えることなのだ。もう一度、同じ道を戻ることを考えると胃もたれしそうだが、仕方がないと割り切る他ない。可愛い新入生を見るために、これだけの苦労をしなくてはならないことはまったく腑に落ちないのだが、氷の女王の手から逃れたと思えば──。
「えいっ!!」
その時、僕の目の前を人間が飛んでいった。男はきりもみ回転しながら、集まった学生の群れの中へと突っ込んでいく。
「歯ごたえがないなーもー!」
いつの間にか一番前まで来ていたらしい。人だかりの中心には、なぜか男子生徒の屍の山が形成されていた。
「なーにー? もういないのー? もしも勝ったらあたし達を好きにしていいっていう破格の条件、今しかないよー?」
「……私を巻き込まないで欲しいんですけど」
そこにいたのは美少女と言っても文句のつけようのない二人の女の子。一人は茶色いショートカットの髪に可愛いヘアピンをつけており、こちらを挑発するようにくいくいと手のひらを動かしていた。
もう一人はヘアピンをつけた女の子と髪の色が全く同じで、こちらはさらさらロングストレート。銀縁メガネの奥はひたすらに迷惑そうな光が宿り、もう一人の女の子にジト目を向けている。
「なによーファラ。あたしが負けると思ってるの?」
「そういう問題じゃないです。ファルの遊びに付き合いたくないって言ってるんですよ」
ファラと呼ばれたメガネの女の子は、面倒臭そうに返事をしながら不意をついて突っ込んできた男をヒラリとかわし、顔面に上段蹴りを叩き込んだ。
「す、すげぇ……」
隣に目を向けると、ポカンとした表情でニックが二人の少女を見つめている。ジェラールは出来のいい演劇を見ているかのように楽しげな表情をしていた。ちなみに僕はまったくの無表情。
「ひゃーファラは容赦ないなー! よーし、あたしも頑張っちゃうぞ!」
最初は可愛い女の子とお近づきになりたいという軽い気持ちでゲームに参加したのだろう。だが、年下の女にいいように恥をかかされ、引っ込みがつかなくなったと見える。ここにいるのはプライドばかりが高い貴族ばかり。その証拠に、息も絶え絶えで二人と向き直っている男どもの目からは狂気が見え隠れしていた。生意気な女を是が非でも自分のモノにしなければ、おさまりがつかないとでも言わんばかりに。
そんな野獣のような男子生徒達の視線を受け、ファラがあからさまな嫌悪感を示す。
「私をそんな目で見ていいのはこの世にただ一人だけだと言うのに……ファル、私も協力しますからさっさと蹴散らしましょう」
「えー……まぁ、しょうがないか! そろそろ授業も始まっちゃうしね!」
ファルが目をキラキラさせながら、その場で軽く跳躍をする。そして、取り囲む輩を見据えると、凶暴な笑みを浮かべながら構えをとった。
なるほど、まだ暴れるみたいだね……これはお仕置きが必要かな?
僕は一瞬だけ殺気を放つ。微量で希薄な殺気。この場にいる者達は誰も気がつかないだろう。……ただ、二人を除いては。
同時に双子がバッとこちらへと振り返った。そして、僕とばっちり目が合ってから数秒。二人の額から大量の冷や汗が吹き出して止まらなくなる。
えーっと、なんだっけ? 勝ったら二人を好きにできるっていうルールだったかな? 当然、それは僕も参加していいんだよね?
そういう意味を込めてニコッと笑いかけると、二人はブルブルと震え始めた。
「ねねねねねねぇ、ファラ? そそそそそそろそろききききき教室に戻らない?」
「そそそそうですね! ははは早く戻りましょう!」
急激な態度の変化に呆気に取られる観衆達を残して、二人は脱兎の如く逃げ出していく。
しばらく静寂が訪れたこの場で、ニックがポツリと言葉を漏らした。
「なんだったんだ、一体……」
僕も全く同じ意見だよ、ったく。
「やっぱり僕の情報通りだったね」
「あぁ……なんだこれ? 戴冠式が何かか?」
ニックは目の前に広がる光景を唖然とした顔で見ていた。僕も似たような気持ちだ。
告白の名所……僕はてっきり人通りが少なく、二人きりで思いを告げるのに適した場所だと想像していた。だが、実際は違うみたいだ。
そこら中、学生で埋め尽くされている。それこそ、足の踏み場もないくらいに。
「……この学院の告白っていうのは、女王の演説みたいなものなの?」
僕が尋ねると、ジェラールは苦笑いを浮かべた。
「さて、と……大輪が咲くやもしれない新芽が気になる連中がこんなに集まるとは僕も思わなかったけど、どうする?」
「どうするって聞かれても……」
僕の目的はグレイスから逃げる事だから、新入生を見なくても問題ない。だが、この異常な状況を見て、変なスイッチが入った男が一人いた。
「ここまで来て手ぶらで帰るわけにはいかねぇだろ。……なんか負けた気がする!」
バチンッ! と自分の拳を手のひらにぶつけると、ニックは不敵な笑みを浮かべる。熱血漢のニックはなぜか燃えていた。誰か彼のやる気スイッチの発動条件を僕に教えて欲しい。
「よし! 最前列まで行くぞっ!!」
「やれやれ……言い出しっぺは僕だから文句をいうのは筋違いか」
意気揚々と人混みに飛び込んでいったニックの背中をジェラールが追っていく。かなり迷ったが、僕も嫌々ながら二人の後についていった。
人の圧にもみくちゃにされる自分。まったく……何が悲しくてこんな事をしなくちゃいけないんだ。これが任務なら、なんの感情も抱かずに遂行するのに。現にデボラ女王が式典に出た時、人混みに紛れて命を狙っていた暗殺者を仕留めたことだってある。あの時はこの比じゃないくらいの密度だったっていうのに、不快感や不満は一切抱かなかった。なのに今は一刻も早くここから去りたいと心が叫んでる。
人が密集しているせいか熱気が凄まじい。牡牛の月だというのに制服の中が汗ばんできた。
まぁ、いい。最前列まで行けばニックも満足するだろう。彼の目的はもはや新入生を見ることではなく、人壁を越えることなのだ。もう一度、同じ道を戻ることを考えると胃もたれしそうだが、仕方がないと割り切る他ない。可愛い新入生を見るために、これだけの苦労をしなくてはならないことはまったく腑に落ちないのだが、氷の女王の手から逃れたと思えば──。
「えいっ!!」
その時、僕の目の前を人間が飛んでいった。男はきりもみ回転しながら、集まった学生の群れの中へと突っ込んでいく。
「歯ごたえがないなーもー!」
いつの間にか一番前まで来ていたらしい。人だかりの中心には、なぜか男子生徒の屍の山が形成されていた。
「なーにー? もういないのー? もしも勝ったらあたし達を好きにしていいっていう破格の条件、今しかないよー?」
「……私を巻き込まないで欲しいんですけど」
そこにいたのは美少女と言っても文句のつけようのない二人の女の子。一人は茶色いショートカットの髪に可愛いヘアピンをつけており、こちらを挑発するようにくいくいと手のひらを動かしていた。
もう一人はヘアピンをつけた女の子と髪の色が全く同じで、こちらはさらさらロングストレート。銀縁メガネの奥はひたすらに迷惑そうな光が宿り、もう一人の女の子にジト目を向けている。
「なによーファラ。あたしが負けると思ってるの?」
「そういう問題じゃないです。ファルの遊びに付き合いたくないって言ってるんですよ」
ファラと呼ばれたメガネの女の子は、面倒臭そうに返事をしながら不意をついて突っ込んできた男をヒラリとかわし、顔面に上段蹴りを叩き込んだ。
「す、すげぇ……」
隣に目を向けると、ポカンとした表情でニックが二人の少女を見つめている。ジェラールは出来のいい演劇を見ているかのように楽しげな表情をしていた。ちなみに僕はまったくの無表情。
「ひゃーファラは容赦ないなー! よーし、あたしも頑張っちゃうぞ!」
最初は可愛い女の子とお近づきになりたいという軽い気持ちでゲームに参加したのだろう。だが、年下の女にいいように恥をかかされ、引っ込みがつかなくなったと見える。ここにいるのはプライドばかりが高い貴族ばかり。その証拠に、息も絶え絶えで二人と向き直っている男どもの目からは狂気が見え隠れしていた。生意気な女を是が非でも自分のモノにしなければ、おさまりがつかないとでも言わんばかりに。
そんな野獣のような男子生徒達の視線を受け、ファラがあからさまな嫌悪感を示す。
「私をそんな目で見ていいのはこの世にただ一人だけだと言うのに……ファル、私も協力しますからさっさと蹴散らしましょう」
「えー……まぁ、しょうがないか! そろそろ授業も始まっちゃうしね!」
ファルが目をキラキラさせながら、その場で軽く跳躍をする。そして、取り囲む輩を見据えると、凶暴な笑みを浮かべながら構えをとった。
なるほど、まだ暴れるみたいだね……これはお仕置きが必要かな?
僕は一瞬だけ殺気を放つ。微量で希薄な殺気。この場にいる者達は誰も気がつかないだろう。……ただ、二人を除いては。
同時に双子がバッとこちらへと振り返った。そして、僕とばっちり目が合ってから数秒。二人の額から大量の冷や汗が吹き出して止まらなくなる。
えーっと、なんだっけ? 勝ったら二人を好きにできるっていうルールだったかな? 当然、それは僕も参加していいんだよね?
そういう意味を込めてニコッと笑いかけると、二人はブルブルと震え始めた。
「ねねねねねねぇ、ファラ? そそそそそそろそろききききき教室に戻らない?」
「そそそそうですね! ははは早く戻りましょう!」
急激な態度の変化に呆気に取られる観衆達を残して、二人は脱兎の如く逃げ出していく。
しばらく静寂が訪れたこの場で、ニックがポツリと言葉を漏らした。
「なんだったんだ、一体……」
僕も全く同じ意見だよ、ったく。
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