S級魔法士は学院に入学する〜平穏な学院生活は諦めてます〜(仮)

マッサン

第2話



「本日は私たちのために、このような盛大な式を挙行していただき誠にありがとうございます。新入生を代表してお礼申し上げます。 ──── 伝統あるナヴァロ学院の一員として、責任ある行動を心がけていきます。先生方、先輩方、ご指導をよろしくお願いいたします。以上をもちまして、新入生代表の挨拶とさせていただきます。 新入生代表、リリス・エルドラ」

新入生挨拶を終えたリリスが頭を下げると拍手が会場に鳴り響く。


『やっぱり六魔公の一族は違うな』
『さすがとしかいいようがないよね』
『お近づきにならないと…』
『でも今年は第三皇女も入学してるのに代表挨拶は皇女じゃなくていいのかしら』


周りからはリリスを褒める者、どうやったら取り入れるか考える者、皇女の事を気にする者等様々な小声が聞こえてくる。


そう言えばあの第三皇女も同い歳だったから同じ学年になるのかー
あの皇女はどうにも苦手だから今から憂鬱になる。無視する訳にもいかないこの国最高権力者の娘であるのだから。

そしてなぜ皇女が入学するのに挨拶は皇女ではないのかと言うとこの学院は完全実力主義というまぁ学院あるあるド定番の学院であるからだ。

高い倍率の狭き門を越えてきた貴族、士族、平民の中から選ばれた新1年生として200人が入学しており、そのトップが我がご自慢の従兄弟であらせられるエルドラ公爵家長女のリリス・エルドラである。

一応分家ではあるがエルドラ家に連なる者として恥も晒せないし成績は上位の方であるので自分の中では無難な所だなと結果に満足していた。



今日は入学式で終わりという事で学院から屋敷まで歩いて帰っているのだが、リリスが明らかに不機嫌で落ち着かない…。

自分が何か怒らせる事をしたのだろうか
考えるのはそればかりであり
自然と右手は胃の辺りを押さえていた。

胃が、胃が痛い──

無言の帰り道、最初に言葉を発したのはリリスであった。

「ねぇ、レイ」
「どうしたリリス?」
「何で私が代表挨拶なのよ」
「え、そこ!?そこで不機嫌だったの!?
まぁ新入生にあの皇女がいたけど、学院は成績トップがするのが通例で──」
「そんなの分かってる!だから何で私なのよ。それで言ったらレイ!貴方が挨拶するべきじゃない」


俺の言葉を遮り不機嫌な口調から荒々しい口調に変わり俺に問いかけてきた。


「実力至上主義で行くのならレイ、あんたが首席じゃない。」
「リリス分かってるだろ。俺は分家だしそれに俺の素性…まぁ色々と表に出すわけにはいかない」
「それは分かってる!分かってるけど…あんたの不遇にはどうしても……」

言葉が続かないリリスには歯を食いしばり目には小さな涙の雫を浮かべていた。

エルドラ家、それに連なる分家達の中でもリリスだけだった。

俺を兵器や道具として見るのではなく1人の人間として家族として友として接してくれる存在は──
だから俺はあの時武器をとった。大事なものを守る為に奪われない為に戦場に立つ事を選んだ。

気づけば俺は右手でリリスの頭を撫でていた。

「ファッア!エッゥ」

顔を真っ赤にし何とも間抜けな声を出した事に俺は思わず吹き出して笑ってしまう。

「レーーーーーーイィィ!!!」

自分がおちょくられたと思ったリリスからの手加減のない腹パンが炸裂

───「ウヴゥべッェ」

奇妙な声を上げた俺は地に伏していた。


「私が当主になったらあんたには誰も文句言わせない。あんたを道具なんかにさせない。あんたは私の…大切な家族なんだからッ!」

顔を上げた時にはこっちを見ず背中を向けていたからリリスがどんな表情をしていたのかは知らない。

自己中心的で我儘で暴力的なリリスだが俺の数少ない大切な人の1人で唯一家族と言ってくれる人。命に代えても必ず守ると新たに誓いを立てた。

「ほ、ほら!帰るわよ!!」
「はいはい」
「はいは1回よ!」

服に着いた汚れを払い歩き出していたリリスの後を追い帰路に着いた──



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