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彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ

necoaya

92.思いがけない願い事

 様子見していた幾つかの国が、襟を正す。僕がかつて父や兄を討つと決めた時、協力した国々の王族達だった。皇帝になる僕の見極めは終わり信用しているが、妻になるトリシャを判断する材料が足りなかったのだ。彼らは今の彼女の振る舞いを見て、女主人として仰ぐにふさわしい存在と認識した。

 僕が余計な策略を巡らさなくても、トリシャは自分で居場所を作り出していく。それが誇らしくもあり、同時に怖くもあった。いつか僕の手を離れて、鳥籠の外へ飛び立ってしまうのではないかと。翼を抜き、足を切る方法もあるけど……。

 いま考えることではないね。首を横に振り、トリシャと次のテーブルに向かう。しっかりと腰を折って挨拶した国王が、自ら果物を説明した。普段から甘い果物が大好きなトリシャは、鮮やかな果物に目を輝かせている。味見用に切り分ける国王から受け取ったソフィが、確認してから差し出した。

 礼を言って口に運ぶトリシャの頬が綻ぶ。どうやら好みの味みたいだ。ニルスに注文を指示し、ソフィも果物の見分け方を質問したりと心地よく過ごした。そこから幾つかのテーブルは、僕やトリシャに好意的な国が続く。微笑みが増えたトリシャだが、最後のテーブルの前で足が鈍る。

 ステンマルク、属国の中でも末席に格下げとなった。持ち込まれた鉱石は珍しいものもあるが、トリシャが視線を向けたのは飲み物だ。鉱山の斜面に植える葡萄が作り出すワインは、酸味が強い。そのワインを睨みつけるトリシャの表情は、嫌悪感に近い暗いものだった。

 ソフィが気遣わしげにトリシャを見る。何か嫌な思い出があったみたいだね。あの王太子のことだから、腐ったワインでも飲ませたか? 殺すわけにいかないが、苦しむくらいはいいだろうと遣りかねない。

「ステンマルクは特筆するものがない。行こう」

 促して通り過ぎる。王族が処刑され、筆頭公爵家も捕まった。大量の罪人を輩出した国は、周辺国に狙われている。それも自業自得だけど。あの国でのトリシャへの対応を知らせたら、大商人がこぞってそっぽを向いた。食料ひとつとっても、今は入手困難だろう。

「エリク、お願いがあります」

「どうしたの? 言ってごらん」

 トリシャのお願いなら、大抵のことは叶えてあげられる。僕から離れたいとか、言わなければね。微笑んで待つ僕へ、トリシャは意外なことを口にした。

「ステンマルクの立て直しを……」

「君を虐げた国だよ?」

「国民が悪いわけではありません。王侯貴族の傲慢な振る舞いは許されないものですが、民が困窮するのは違う気がします」

「一理あるね」

 叶えるともダメだとも言わない。僕の曖昧な返答に、トリシャは困ったような顔で首を傾げた。

「叶えてくださいませ」

「……ずるいね。そう言われたら、君の願いを叶えない理由はない」

 驚いた顔のソフィに頷くトリシャは、僕の腕に絡めた手に力を入れる。何やら裏事情がありそうだ。その辺はゆっくり聞き出すとして、ひとまず……トリシャに笑顔を取り戻すのが先決だね。

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