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彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ

necoaya

80.毒にも薬にもならない

 起きてすぐ、届いた報告書を手に取る。欠伸をしながら読む僕の寝癖を、ニルスが手際良く処理した。ローゼンタール公爵家は、意外と近くにいたようだ。帝都の賑わいの中に紛れ込んでいた。

 一通りの財産を持ち出したらしく、避暑地や観光地として名を馳せる地域を巡っていた。それがようやく帝都に到着し、屋敷を購入する。その購入記録から足がついた。愚かにも程がある。逃げ回る罪人が、家を購入しただって?

「おもしろい連中だね。誰がいいと思う?」

 あれこれ省略した計画を突きつけられ、ニルスは「そうですね」と考え込んだ。というより、振りだろうね。君が考えもなしに報告書を持ってくるはずがない。読み終えた報告書を置き、処理前の書類にさっと目を通した。急ぎがあれば処理したけど、明日以降で問題なさそうだ。

「ユリウス殿下にお任せしてはいかがかと」

 今回主犯で裁かれる弟の名を出した腹黒さに、さすがは僕の腹心と口元が緩んだ。

「手配したの?」

「はい。あとは陛下の下知ひとつです」

 頷く。襟足にかかる髪を手早く結んだニルスの手が離れた。一礼して出ていく彼が手配した先で、複数の不幸が起きるだろうけど……僕の所為じゃないね。トリシャの周囲をもう少し固めておこうか。

 身の安全を図るのは、双子の騎士の従姉妹に任せる。地位や権力を振り翳す者への対処は、ソフィに仕込んであるし。あとは……そう。少しだけトリシャが僕を信じてくれたらいい。何があっても僕を頼って、僕を呼んでくれたら、絶対に傷つけさせやしない。

 一人になった部屋で、大きく息を吐き出した。立ち上がって、用意されたシャツに袖を通す。この時はいつもニルスは席を外したり別の作業で目を逸らした。僕の背についた傷痕を知っているから。僕はこれを見せたくないし、見られたくなかった。

 馬鹿な弟だ。大人しくしていたら、命だけは助けてあげたのに。生活に不自由しないだけの金銭や屋敷も与えている。それはニルスが頼んだからだ。そうでなければ、父上達の横にお前の首も並んでいただろう。僕に弟を愛でる気持ちなんて、欠片もなかった。目障りだと思う認識すらなく、ただ存在するだけ。脅威にもならず、邪魔もしない。

「踊るなら、足元をよく確認しないと、ね」

 階段の上かも知れない。すぐ脇が崖の可能性もある。山の頂上で回ったら、落ちるだけだろう? お前はそんな危険すら理解しないが、踏み出した足の先に地面があると信じる単純さは才能だった。

「毒にも薬にもならないから生かしたけど、終わり」

 ニルスが見限った。ならば処分しても構わない。僕の基準はそれだけだった。血の繋がった弟? そんなことを気にするなら、血の繋がる親兄弟の首を切り離した時点で狂ってるよ。僕は自分が残るために、周囲を掃除した。それが間違った決断だとは思わない。

 シャツとズボン姿で飾りのリボンタイを結び、大量のボタンと勲章がついた上着を羽織った。今日の舞踏会ではトリシャと踊る。紺色の上下を確認して、面倒なボタンに手をかけた。そこへ戻ってきたニルスが駆け寄り、代わりにボタンを填め始める。

「完璧だね」

 鏡の前でくるりと周り、衣装の乱れがないか確認した。準備も含めて、今日の舞踏会は完璧だ。楽しもうじゃないか?

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