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彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ

necoaya

74.ああ、もう分かってるよ

 婚約者を披露する――そう周知させた。ほとんどの帝国貴族は参加するだろう。招待状を送った家名を確認した。特に問題はないかな。まあ、何かあればその場で処断するけどね。

「今日はドレスの試着だっけ」

 舞踏会まであと3日。トリシャのドレスは最終調整に入っていた。騎士に嫁いだ未亡人を集めて作った店は、宮廷の衣装すべてを一手に引き受ける。侍女や下働き用の制服から、騎士、皇族に至るまで。すべて未亡人が手がけていた。

 帝国と皇帝のために戦った騎士の中には、帰ってこられない者も出る。殉職した者の家族を切り捨てたら、その妻子は露頭に迷う。その上、帝国は親族から恨みを買うだろう。それを防ぐ目的で、未亡人達を集めて十分な給与を与える代わりに、衣服の製作を頼んだ。彼女達にしたら、元々得意な裁縫で身を立てることができる。デザイナーも未亡人の中から選ばれた。

 この施策が成功を収めたと感じたのは、次の戦で騎士の働きが凄まじかったことだ。生きて帰れなくても、家族は国が養ってくれる。そう知ったことで、彼らの士気が格段に上がった。

 トリシャのドレスも頼んだけど、美しさと優雅さを兼ね備えたプリンセスタイプを選んだ。デザイナーが言うには、腰の細さを強調しつつ、痩せ過ぎの体をふっくら見せる効果があるそうだ。細い彼女の脚を誰かの目に触れさせなくていいし、華奢な感じが強調される。今はスレンダータイプが人気らしいけど、事前に情報を流したからプリンセスの注文が入ってると聞いた。

 事前の仕掛けと根回しは重要だ。トリシャの試着を覗きたいけど、さすがにまずい。それに当日の楽しみに取っておきたい気持ちもあった。手元の書類を処理して押印し、続いて報告書に目を通す。ちらちらと、トリシャの寝室の様子を窺う僕に気づいて、ニルスが笑った。

「陛下、紳士らしい振る舞いをお願いしますね」

 絶対に覗くなよ、だろ? 言われなくてもわかっている。もう1枚書類にサインをして、ペンを置いた。

「お茶にしよう、ダメだ。集中できてない」

 この後は飾り物を肌に当てての最終確認があって、最後に髪やメイクもチェックするんだっけ。女性の支度は本当に大変だ。男性の薄化粧と違い、時間がかかるし崩れやすいと聞いた。コルセットも含め、女性の美への努力は感心する。

 トリシャの場合、すでに細い腰を締め上げる必要がないので、柔らかめのボーンが入った物を巻くだけになるらしい。事前説明ではよくわからないけど、抱き寄せて腰に手を回すダンスだと違いがわかるかも。想像して口元が緩む僕に、珈琲を淹れたニルスが釘を刺した。

「陛下、くれぐれもご自制ください」

「わかってるさ」

 ああ、もう……わかってるよ。美しく着飾るトリシャを自慢したい僕の気持ちを、同時に彼女を誰にも見せずに隠しておきたい本音が塗り潰していく。皇妃にするんだから、ある程度は顔を見せないと不審がられてしまう。可能なら年1回くらいのお披露目で、後は鳥籠にいて欲しいものだ。心の底からそう願って、苦い珈琲を飲み干した。

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