彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ

necoaya

34.愛情という甘い蜜を

 遠慮がちなトリシャから聞き出して選んだシャンデリアは、今日中に手配可能だ。夜には新しいシャンデリアがロビーを照らすだろう。仕掛けのされてない、安全なシャンデリアが……ね。

 ロビーを通らないようして、半日を離宮の中で過ごした。午後になったらトリシャにお昼寝をさせて、そうだな。その間に不届き者を片付けようか。

 本来、皇帝の仕事は決断のみだ。全体の方向性を定めれば、その後の細々とした処理は専門の文官がいる。僕が必要とされるのは、国の向かう方向を定める舵取りと、決断の証として署名押印すること。彼らがそれをこなせないなら、貴族なんて不要だ。高い金を取って特権を振りかざすなら、仕事は出来て当たり前なんだから。

 昨夜積まれていた書類の半分は、文官へ返した。僕が決断する前の段階だよ。判断は各部署で行って、ある程度の結論を出してから僕に渡すべきだろう。無能で使い物にならない文官なら、交代させればいい。貴族として高度な教育を受けたはずの者より、平民出身者の方が有能なのは何故だろうね。いっそ全部入れ替えようか。

 トリシャとの貴重な時間が削られるのは、我慢ができない。その辺は後で検討しよう。侍女ソフィの判断も混ぜながら、一部の家具は入れ替えを決めた。天蓋付きベッドは気に入っているみたいだけど、天蓋のレースは種類を増やしてみようか。

 君のためにあれこれ想像して手配するのは、思っていたより楽しい。ぐるりと離宮内を確認したため、私室の間にあるリビングへ戻った。選び抜いた女性騎士を引き合わせる。護衛だから会話も不要だし、何かあれば家ごと処分すればいい。実力は双子の騎士の折り紙付きで、性格や素行も含めてニルスが太鼓判を押した者達だった。

 僕の私室が置かれるため、離宮周囲は近衛隊の管理領域となる。緊急時以外の立ち入りを禁じているが、双子のマルスとアレスは、近く入宮許可を与えるつもりだ。

 異国には男性を完全に禁じたハレムがあると聞いたけど、そこまでする必要はなかった。だって鳥籠に捕らえたのは逃げる鳥じゃない。美しい蝶なのだから。外へ出たら生きられないことを自覚する蝶は、僕の手から飛び立たない。僕は蝶のために蜜を運ぶ。

 愛情という、甘くて中毒性がある蜜――トリシャを雁字搦めに縛り、美しい羽を観賞用に落とす蜜だった。一度でも口をつけたら、もう逃さないよ。

 用意させたお茶に甘い蜜を垂らし、彼女の前に置いた。

「ありがとうございます、エリク」

「構わないよ、僕はトリシャの世話をしたくて仕方ないんだから」

 微笑んでお茶を飲み干す。同じように口をつけないわけにいかないだろう? 君はとても真っ直ぐな性格の持ち主だ。気遣うようにお茶を飲んだ。蜜で味を誤魔化した薬草茶を2杯飲ませたところで、トリシャは欠伸を噛み殺した。効いてきたかな?

「眠いから、少し休もうか」

 問いかけのようでいて確定した結論を突きつけ、トリシャを抱き上げてベッドに運んだ。気持ちとしては隣で眠りたいけど、まだ仕事があるからね。残念だよ。

 我慢できずに眠ってしまったトリシャの寝顔を堪能し、握った手をそっと解いた。大切な大切な僕の宝物、何も知らずに眠っていて。君に汚い場面は見せず、片付けてくるからね。

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