彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ

necoaya

33.眠れぬ2人の夜が明けて

 朝日を浴びたトリシャの銀髪は美しい。そうだ、この紫がかった独特の髪色は、大賢者そっくりだ。どうして忘れていたのかな。不思議な気持ちになる。この赤瞳は母親似だろう。大賢者は紫の瞳だったからね。

「おはよう、トリシャ……ベッドが合わなかった?」

 化粧でソフィが誤魔化してるけど、顔色が悪いね。目蓋も腫れた感じだ。眠れなかっただけじゃなく、もしかして泣いていた?

「いいえ、とても柔らかくて上質でした。ただ、まだ落ち着かなくて」

 ベッドが悪いと言わないところが、トリシャだよね。僕に媚びて寄ってくる女は、みんな何かのせいにするんだよ。お茶が美味しくないのは茶葉の産地、侍女、添えた蜂蜜……そんな会話に疲れた僕にとって、トリシャの言い訳はとても新鮮だった。

 ……でも、言い訳だね。何か別の原因があって眠れなかったのは、泣いた目元が物語ってる。根掘り葉掘り聞いても、きっと教えてくれない。それを言わせるのも楽しいだろうけど、僕はトリシャを溺れさせたいんだ。僕がいないと生きていけないように、僕に愛されないと微笑みを浮かべられないように、ね。

「そう。心配だな、午後に昼寝するといいよ」

 近づいてハーフアップにした彼女の髪に触れる。さらりとした手触り、心地よいけど毛先が傷んでるみたい。手入れは侍女にやらせるけど、少し切らせる? もう少し様子をみようか。

「はい。あの……ご予定は」

「溜めた書類は終わらせたし、今日は離宮を整える予定だよ」

「整えるのですか?」

「あれこれ足りないだろ。僕が勝手に用意した家具を入れ替えたり、君のドレスを新しく用意したり、することはいっぱいある」

 トリシャのための庭は、今日から手入れの職人が入る。離宮の中庭だけど、女性の庭師を用意した。最初の庭造りが終われば、後は女性以外は入れないよう規制する。玄関ロビーのシャンデリアも入れ替えるから……そうだな、トリシャと新しいシャンデリアを選ぼう。

「入り口のシャンデリアを交換するんだけど、一緒にデザインを選んでよ」

 朝食へ向かうためにエスコートしながら、提案した。今朝は甘いフルーツも用意させたし、彼女との距離を縮めたい。ステンマルク王国で見た禁欲的なドレスも似合うけど、少し胸元が開いたドレスを作らせようか。僕と2人の時だけ着用すれば、問題ないよね。

 頭の中をトリシャのことで埋め尽くすと、報告書にあった彼女の境遇が思い出される。大賢者は妻と我が子を守る手は打っていた。殺されたり粗雑に扱われないよう、体を守る手段は講じた。だが……心は守れなかったね。

 愚かな男だ。あれだけ賢いなら、なぜ自分ごと家族を守らなかった? 自分の地位を固めておけば、公爵家に娘を人質に取られることはなかった。トリシャが虐げられることもなかったはず。

「エリク?」

 ごめん、少し怖い顔をしたかな。僕は大賢者のような愚行はしない。君を守るために、僕自身も傷つけられるわけにいかないんだ。

「すごく鮮やかで甘いフルーツを取り寄せたから、一緒に味を見てくれるでしょ?」

「はい」

 今日のドレスは緑、鮮やかな新緑の色ではない。君はパステル系の淡色がよく似合う。薄い絹を何枚も重ねたスカートは柔らかく弧を描き、痩せすぎの体を女性らしいラインで隠す。しっかり食べさせなくちゃ。

 わざと多めに用意させた朝食を、困ったような顔で眺めるトリシャ。僕は気づかないフリで隣に腰掛けた。

「さあ、いただこうか」

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