彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ

necoaya

24.遠慮がない君も好ましい

「トリシャ、一緒に庭の散策でもしない?」

「はい」

「ああ、先に着替えた方がいいね」

 クローゼットへ促し、侍女ソフィを付けて扉を閉める。振り返った僕が指示を出す必要はなかった。専属執事のニルスが、宮廷付きの侍従に修理と補強を命じる。テラスごと交換してもいいけど、時間が足りないからね。ひとまず安全を確保するのが優先だ。

 護衛の女性騎士を手配するため、双子の兄マルスが一礼して下がった。頷いて見送る。散歩する僕達の護衛は、宮廷騎士と指揮を執る弟アレスがいる。ニルスはよく心得ているから、わざわざ命じなくても離宮内の設備の再検査を行うだろう。

 散歩を終えたら、何か理由を付けて時間稼ぎをしないとね。宮廷内の案内でもしようか。侍女もソフィ以外に必要だから選ばないといけないな。ああ、今夜は眠っている時間もないね。トリシャのためなら構わないけど、気付かれないようにしなくちゃ。

「こちらでいかがでしょう」

 ソフィという侍女は本当に拾い物だった。トリシャに仕えていた時間分、彼女に似合うものをよく理解してる。大量のドレスや飾り物の中から、組み合わせたセンスも見事だ。柔らかなオレンジの薄絹が重なる花びらのドレスに、同色の帽子を合わせた。さらに首飾りは金銀ではなく、淡い緑の玉を連ねた物を二連にして胸元で結んでいる。

「うん。よく似合う」

 僕が満足したのを見て、ソフィが嬉しそうに頷く。その表情を見て、トリシャが頬をほんのり赤く染めた。着替えた直後に「私には華やかすぎる」とトリシャが言ったのかな? なんとなく想像がつく。

 手を差し出し、彼女の指先が触れたら誘導して腕を組む。そのまま離宮を出て、説明しながら庭を回った。長い裾で隠れているけれど、ヒールを履いていないトリシャは歩きやすさを重視したのだろう。僕もその判断は正解だと思うよ。庭を歩いている間に、君の美しい足に傷がついたら、悲しい。もちろん痛そうな素振りを見せたら、抱いて歩く予定だった。

 離宮前のハーブ園を作る予定の庭を歩き、膝丈までの小さな花をたくさん植える計画を説明する。大きな噴水、迷路を作った低木の庭を抜けた先で、ベンチにハンカチを敷いてから座らせた。

「足は痛くない?」

「はい。甘えて楽な靴を選びましたので」

「正解だよ。疲れてしまうし、足に良くない。ヒール姿の君も素敵だけど、あれは普段使いに向かないと思う」

「エリクは……その。王族や貴族にない考え方をなさいますのね、あ、失礼いたしました」

 ふふっと笑う。遠慮がなくなってきたのは、いいことだよ。それに怒るべき部分なんてなかった。気づかずに謝るトリシャの唇を、優しく指で押さえる。柔らかさに誘われて、口付けを強請りたくなるけど。ぐっと指を握り込んで堪えた。

「構わない。僕には何でも言って。家族になるんだからね。それはそうと、僕は少し変わった育ち方をしたんだ。皇帝らしくないのはそのせいかも」

 軽く濁して、あまり深刻に聞こえないように話す。嘘は言わないけど、本当のことを話すのは早すぎた。僕が欲しいのは愛情で、君の同情じゃないから。

「すこし宮廷内を見ようか。宝物庫や絵画を収納した部屋なんて、意外と面白いと思うよ」

 通常なら出入り禁止の部屋を幾つかあげて、彼女の興味を惹く。トリシャに似合う物や気に入った物があれば、後で届けさせようか。好みを知る上で、色々な品を見る機会は重要だ。小さく頷いたトリシャを連れて、僕は宮廷内で時間を潰した。

 途中で軽食を挟んで休憩し、宝物庫や過去の皇帝が収集した絵画も見終わった。騒がしくなる宮廷内のざわめきで、僕はトリシャを離宮へ返す。ここから先は物騒な話があるから、後でね。

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