彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ

necoaya

22.女狐は鳥籠の外で処分しよう

 帰るなり待ち構えていた女狐が駆け寄ってきた。鼻が曲がりそうな香水の量に顔を顰め、僕は無視して歩く。エスコートするトリシャを上から下まで眺めた後、口を開いた。

「あら、ずいぶんと貧相な女だこと。どこで拾ったの」

 はぁ……僕は溜め息をひとつ。それが合図とばかりに周囲が動き出した。遅いよ。

 不敬罪の適用事案だ。真っ先に動いたのは双子の騎士だった。腕を掴みねじ上げ、悲鳴を上げる女狐を後ろの騎士に引き渡す。慣れた様子で宮廷騎士は受け取り頭を下げた。

「きゃぁ! 痛いわ、なにっ!! ちょっと、私を誰だと思って……やめなさい! やめて、お願い」

 最後に僕の名を呼ぼうとした口に、騎士がハンカチを詰め込んだ。賢い選択だよ。そうしなければ、その女の首はこの場で落とされただろうから。

 馬鹿な女だ。どうして僕が、事前にお前を片付けなかったと思ってるの。周到な根回しで皇帝になった僕が、役に立たないお前を生かしたのは、いつか見せしめに使う気だったから。当然、今より役に立つ時期はないから活用させてもらうよ。

 僕のトリシャに失礼な口を利いて、無事でいられるわけないだろう。平然としているトリシャだけど、僕に触れる手が少し震えていた。ごめん、気遣いが足りなかったね。トリシャに暴言を吐いたらこうなるという見せしめに使う予定だけど、もっと早く口を封じさせるべきだった。

 でもね。僕はずるい計算もしてる。君はそうして傷つくたび、助ける僕に依存するんじゃないかって。期待してしまうんだ。だから完全に排除できない。俯いたトリシャを慰める今、僕は満たされた気分になる。やはり壊れているのかな。こんな奴に愛され捕まるなんて、男運が悪いね。

「大丈夫、もう近寄らせない。配慮が足りなくてごめんね」

 首を横に振るトリシャを連れて、まず向かったのは離宮だった。休憩したいよね。入るなり女狐に絡まれたし、嫌な思いをさせた分しっかり罰を受けさせるよ。手足を切ってダルマにして、それから城壁に吊るそうか。殺してからだと反省する時間が足りないから、生きたまま吊るすけど、切り落とした手足の手当てはさせないと。あんまり早く死んだら勿体ない。

 ああ、もちろん優しいトリシャの目に触れることはないし、噂も届かないよう気遣うことは忘れない。自分のせいだ、なんて勘違いさせたら可哀想だもの。君はきっと心を痛めるだろう?

 離宮へ向かう途中で、僕の寝室の前を通った。現在は僕の私物を離宮へ移動させる引越しの最中だ。クローゼットの中身と書斎の本くらいなのに、大騒ぎだった。興味深そうなトリシャに、僕は柔らかく説明する。

「トリシャの部屋と続きになってる部屋に、僕が移動するんだ」

「それは……」

「夫婦になるんだもの、当然だよね」

 照れて下を向くトリシャは、肯定も否定もしない。それを僕は肯定と受け止めた。離宮へ続く廊下の両側は整えられた庭が続く。散歩道や東屋も用意され、刈り込まれた低木に花が咲いていた。

「美しいですね」

「よかった。あとで別にハーブを集めた庭も作らせようと思ってる。トリシャはタリアン国の庭、気に入ってたでしょう?」

 驚いた顔をしたトリシャは、ぐるりと庭園を見回す。立派だけど、これは帝国風庭園と呼ばれる木々で迷路を作ったり、薔薇などの手入れが難しい花を自慢げに飾る庭だ。彼女が美しいと笑ってくれた野花の咲く庭じゃない。促しながら歩いて、神殿に似た柱の太い離宮の近くで足を止めた。

「この辺りを全部、タリアンの庭師に任せる予定だよ。明日から手を入れるから、希望があれば教えて。それとこちらへ」

 エスコートして中に入る。数段の階段を上ると、やたら豪華な扉が現れた。天井付近まである大扉は、専門の侍従をつける。騎士を一緒に配置して安全も確保した。ここまでは男性も入れるけど……。

「この先は僕以外の男は入れない」

 侍女と女騎士、伝令もすべて女性に限定する。万が一にでも間違いが起きてはいけない。もちろん、彼女達も厳しく家柄や性格を精査して選ばせた。

 トリシャを守り閉じ込める僕の――大きな白い鳥籠だよ。気に入ってくれるかな。

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