彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ

necoaya

21.白亜の鳥籠へようこそ

 帝都に入ると途端に騒がしくなる。宮廷に常駐する騎士が応援に駆けつけ、馬車が通る道を確保した。大通りと呼ばれる広い道は馬車にとって十分な広さがある。だが皇帝の馬車に駆け寄ろうとする馬鹿が多いので、護衛を並べると幅が足りない気がした。

 窓の外を眺めながら、あの辺の建物をまとめて壊したら道をもう少し広げられる、なんて考える。僕は自分やトリシャの快適さを追求するためなら、他人の迷惑なんて気にしないよ。うん、あの家は壊そう。どう見ても道にはみ出た違法建築だ。

 僕の呟きと指示を、執事のニルスが書き取っていく。街並みに気を取られたトリシャは気づいていない。危険がないか確認しながらも、彼女に聞こえないよう指示を続けた。次に走る時は、もっと美しい風景を見せてあげたい。

「エリク、すごく賑やかですね」

「そうだね。ステンマルクと比べたら、騒がしくない?」

「いえっ! 街並みも綺麗ですし、みんな笑ってますもの。エリクの治世が素晴らしい証拠だと思います」

 お世辞ではなく、そんな言葉を言われたら……もっと頑張れるよ。君の言葉があれば、世界はきっと明るく眩しいくらい輝いて見えるんだろう。いつか僕も君にそんな景色を与えたい。

「ありがとう、トリシャ。そろそろ貴族街に入って、景色が変わるね」

 洒落た青銅色の門があり、ゆっくりと門兵によって開かれる。通れるのは爵位を持つ家紋の馬車か、騎士爵以上の騎乗のみ。ここから格段に治安が良くなる。迷い込んだ難民も減るため、馬車の護衛が半数に減らせるんだ。先に駆け戻る騎士は、迎えの準備に忙しいだろう。

 窓のすぐ脇を固める双子の騎士は、僕の専属だけど……トリシャにも女性の専属騎士が必要だ。愚かではなく腕の立つ女騎士か。ニルスに頼んで探させよう。休んだ分だけ、書類も溜まっているはずだ。明日からの仕事量を想像してげんなりする。

「ほら、あれが僕の宮殿だ」

「……凄い、真っ白なのですね」

 白亜の宮殿。そう呼ばれる真っ白な建物は、途方もない年月と財力の賜物だった。掘り出すのは遠くの山だが、馬と人の力で下ろして川を遡る。まだ完成してないらしいけど、僕はこれ以上広い必要は感じなかった。トリシャのための離宮を作るなら、予算案を通しておこう。

「気に入ったなら良かった」

 貴族街は、それぞれの家が権力と財力を見せつけ合うため華やかな雰囲気がある。その分だけ、一際高い位置に立つ宮殿の白さが際立った。先祖もよくこんなこと考えついたものだ。見栄の張り合いをやめられない貴族の争いを利用して、自分が目立とうなんて……頭がおかしいんじゃないか。

 小さな揺れの後、馬車が正面玄関に横付けされる。ニルスが先に出て、僕が続く。そしてトリシャは馬車の扉の前で僕を見た。頷く。伸ばした手に彼女が指先を触れさせた。

 ステップを降りる彼女の髪飾りが、しゃらんと軽やかな音を立てる。この日のために急ぎ用意させたドレスは、白に青い小花を散らせた柔らかなラインのものだった。思った以上に白いドレスが似合う。金銀糸の刺繍がびっしりと施されたレースの裾は重く、しっとりとトリシャの細い体を強調した。

 指には僕が渡した指輪が光る。陽の光に目を細め、トリシャは少しだけ笑った。天使の降臨、この姿を絵に写し取らせたなら、そう名付けるに相応しい。

「「「おかえりなさいませ、皇帝陛下のお帰りをお待ちしておりました」」」

 決まりきった挨拶を無視し、僕はトリシャと共に宮殿へ足を踏み入れた。まずは女狐や古狸の相手をしなくちゃね。

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