彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ

necoaya

18.魅力的な告白だね

 僕が君に飽きたら、この手で殺せ――なんて魅力的な告白だろう。血塗られた一族の末裔である赤い手に、天使の白い命が委ねられた。

 意識するより早く、頬が緩んで口元が綻ぶ。僕が願う最期を聞いたら、トリシャは何て言うの? 少しでも君に好意をもってもらえたらと考えたけど、こんな言葉で異性を喜ばせるなんて、悪い子だ。

 出会って間もない僕みたいに壊れた男に、そんな嬉しがらせを口にしたら……取り返しがつかない。二度とトリシャの手を離してやれないし、君が逃げたら殺してしまうかも。無垢な天使の願いは、この悪魔が確かに聞き届けた。泣いて許しを乞うても遅いからね。

「いいよ。飽きることはないけど、僕は君を置いて行かないと約束する……だから、逆もいいかい?」

 不思議そうに目を見開き、首をかしげる所作に微笑みを深めた。しゃらんと髪飾りが音を立てる。そうだ、トリシャへ可愛い鈴を贈ろうか。彼女が動くたびに音を奏でる様は、さぞ素敵だろう。

 3人掛けのベンチタイプの椅子に斜めに腰掛け直し、トリシャの方へ向き直った。

「もしトリシャが僕から逃げようと思ったら、必ず息の根を止めて。じゃないと僕が何をするか分からないからね」

 トリシャに逃げられたら気が狂う。泣いて叫んでも聞かず、無体を強いて君を閉じ込める。どんな蛮行に及ぶか、自分でも想像できなかった。権力や地位があるから、僕は逃げた君を捕まえてしまう。そしたら酷いことになるのは間違いなかった。

 だから、逃げる前に僕を殺して。君が刃を向けたら、微笑んで必ず受け入れるから。君の心が離れるなら、体も離れる前に僕の器を壊して欲しい。君が埋めてくれた隙間を抱きしめて、僕は粉々に散ろう。

「っ、それは……罰ですか」

 ああ、勘違いさせてしまった。まだ僕を理解できていないから当然かもね。トリシャを怖がらせたいわけじゃない。首を横に振った。

「違うよ。君に罰を与える必要はないし、そんな奴は僕が片付ける。そうじゃない」

 逃げるなら皇帝殺しの罪を背負え。そう言われた気がしたんだね。なぜだろう、他人の感情なんて推し量ったこともないのに、君が何を心配しているか。気にしているのか、わかる気がした。心が引き合ってるのかな? 

「僕はトリシャのいない世界で生きられない。捨てるなら殺して――君と同じだよ」

 トリシャが口にしたのと似てるでしょ? ただ込めた想いや意味は重いけどね。君が僕を放置して逃げたら、間違いなく天使の羽をもいで地に繋ぐだろう。美しい体を壊し、心を壊し、君が抜け殻になっても離してやれない。壊し尽くしたら、君の息の根を止めて僕も死ぬんだ。

 僕は君のいない世界で生きたくないだけ。ただ息をして、報告を聞いて指示をする。誰かの幸せや不幸を指先で、遊戯盤のように弄るだけの日常は耐えられなかった。

 事実、今までどうやって生きてきたか。もう思い出せないんだ。僕は天使を手に入れて守るために生まれ変わった。

「皇帝陛下、到着のお時間です」

 僕達以外で同じ馬車に乗ったのは執事のニルスのみ。まるで話を聞いていなかったように、彼は穏やかに己の職責に従って言葉を挟んだ。

「ご苦労、この季節なら何の花が綺麗だろうか」

 どうしろと命じる必要はない。それを判断するのは彼の仕事だった。ニルスは長く僕に使えていて、いちいち言葉にしなくても汲み取ってくれる。今もそうだろう。僕が望んだ通り、美しく咲き乱れる花がある場所にお茶の用意をしてくれるはずだよ。

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