彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ
16.君の好みが知りたくて
贅を尽くした朝食を、トリシャは驚いた顔で見つめた。まだ彼女の好みが分からないから、ありとあらゆる料理を用意したんだ。
卵ひとつとっても、調理方法がたくさんある。目玉焼き、スクランブルエッグ、ゆで卵にオムレツ、火の加減も変えて数種類並べさせた。紅茶もフレーバーを含め10種類はなくちゃ選べないし、コーヒーやジュースも。パンは黒糖を使ったり、白パンも甘い種類だけじゃない。
「エリク、多すぎます」
果物も大量に籠に積み上げさせた。好きなのを指差してくれたら、執事のニルスが給仕する予定だ。
「安心して。君の好みがわからなくて用意しただけ。好きなのを教えてくれたら、残りは騎士や侍女にさげ渡すから」
無駄にするわけじゃない。僕達が手をつけない食事は、上級使用人から順番に分け与えられる。今回はたくさんあるから、騎士や執事、侍従に与えても残ると思うけど。捨てる選択肢はないと伝えれば、ほっとした様子で笑ってくれた。
王族ってなぜか長細いテーブルに料理を並べて、端に座るよね。話が遠いし、料理が見えないし、非効率的な慣習だ。皇帝になって最初に僕が撤廃したのは、この部分。料理も手をつけなければ捨ててたんだよ。材料だって無限じゃないのに。
「卵料理はどれが好き?」
「ゆで卵をいただけますか」
「半熟でいいの?」
「はい」
照れた表情も可愛いね。料理を並べたテーブルとは別に、丸テーブルを用意させた。これなら僕と距離が近い。選んだパン、サラダ、スープ、紅茶、ゆで卵……目の前に僕の知りたかった情報が溢れていた。
トリシャの好みを覚えるのは、世界情勢を学ぶより重要だ。柔らかい白パンを千切る指先に、傷があるね。夜会の時は気づけなかった。明るい光の下で、僕が渡した指輪が光る白い手をじっと見つめる。
「エリク?」
「なんでもないよ。果物も好きなものを選んで」
肉より魚が好きで、コーヒーより紅茶なのかな。サラダの味付けは酸味が強いもの、スープはトマトが好きなんだね。毎日同じでは飽きるし、栄養も偏るだろう。トリシャの暮らした環境が好ましいものでないことは、痩せ過ぎの細い体を見ればわかる。
調査結果が届いたら、トリシャのいた公爵家の処分も考えないと。早まって首を落とした後、もっと厳しくすれば良かったと嘆くのはもったいない。王族ですでに失敗したから、今回は上手にやろう。
魚を綺麗に食べるトリシャの唇に、ソースの油が艶を添える。色っぽい。淡いピンクの唇を奪って、優しく吸いながら舌を絡めたら、どれほど満たされるだろう。
うっとりしながら、トリシャの食事を見守った。だが、彼女は少量でカトラリーを置く。僕が普段食べる量の半分ほどだった。驚いたのは僕だけじゃなく、ニルスや給仕を行う者も動揺する。
「トリシャ、もういいの?」
「……はい」
返答の際のわずかな間が、僕の中で様々な予測を立てる。料理が口に合わないのか、味が嫌い? 普段から少量しか与えられなかった? さげ渡すと聞いて、遠慮したのかも。
たくさん残そうと遠慮したなら、途中でお腹が空くよね。細すぎる腰も魅惑的だけど、僕としては軽すぎて心配だ。もっと健康的にまろやかな体を手に入れてほしい。無理矢理食べさせると、馬車で気持ち悪くなるか。
迷った末、僕は執事のニルスに合図した。さっと料理の皿やカトラリーが下げられ、新しいカップで紅茶が用意される。果物の籠を移動させると、トリシャは指先でいくつか指し示した。それを美しくカットする間に、パンに肉や野菜を挟んだ軽食を用意させる。
食べたイチゴが酸っぱかったのか、口元を押さえる仕草に誘われそうだよ。僕は穏やかな笑みで本音を隠しながら、トリシャを見守った。
卵ひとつとっても、調理方法がたくさんある。目玉焼き、スクランブルエッグ、ゆで卵にオムレツ、火の加減も変えて数種類並べさせた。紅茶もフレーバーを含め10種類はなくちゃ選べないし、コーヒーやジュースも。パンは黒糖を使ったり、白パンも甘い種類だけじゃない。
「エリク、多すぎます」
果物も大量に籠に積み上げさせた。好きなのを指差してくれたら、執事のニルスが給仕する予定だ。
「安心して。君の好みがわからなくて用意しただけ。好きなのを教えてくれたら、残りは騎士や侍女にさげ渡すから」
無駄にするわけじゃない。僕達が手をつけない食事は、上級使用人から順番に分け与えられる。今回はたくさんあるから、騎士や執事、侍従に与えても残ると思うけど。捨てる選択肢はないと伝えれば、ほっとした様子で笑ってくれた。
王族ってなぜか長細いテーブルに料理を並べて、端に座るよね。話が遠いし、料理が見えないし、非効率的な慣習だ。皇帝になって最初に僕が撤廃したのは、この部分。料理も手をつけなければ捨ててたんだよ。材料だって無限じゃないのに。
「卵料理はどれが好き?」
「ゆで卵をいただけますか」
「半熟でいいの?」
「はい」
照れた表情も可愛いね。料理を並べたテーブルとは別に、丸テーブルを用意させた。これなら僕と距離が近い。選んだパン、サラダ、スープ、紅茶、ゆで卵……目の前に僕の知りたかった情報が溢れていた。
トリシャの好みを覚えるのは、世界情勢を学ぶより重要だ。柔らかい白パンを千切る指先に、傷があるね。夜会の時は気づけなかった。明るい光の下で、僕が渡した指輪が光る白い手をじっと見つめる。
「エリク?」
「なんでもないよ。果物も好きなものを選んで」
肉より魚が好きで、コーヒーより紅茶なのかな。サラダの味付けは酸味が強いもの、スープはトマトが好きなんだね。毎日同じでは飽きるし、栄養も偏るだろう。トリシャの暮らした環境が好ましいものでないことは、痩せ過ぎの細い体を見ればわかる。
調査結果が届いたら、トリシャのいた公爵家の処分も考えないと。早まって首を落とした後、もっと厳しくすれば良かったと嘆くのはもったいない。王族ですでに失敗したから、今回は上手にやろう。
魚を綺麗に食べるトリシャの唇に、ソースの油が艶を添える。色っぽい。淡いピンクの唇を奪って、優しく吸いながら舌を絡めたら、どれほど満たされるだろう。
うっとりしながら、トリシャの食事を見守った。だが、彼女は少量でカトラリーを置く。僕が普段食べる量の半分ほどだった。驚いたのは僕だけじゃなく、ニルスや給仕を行う者も動揺する。
「トリシャ、もういいの?」
「……はい」
返答の際のわずかな間が、僕の中で様々な予測を立てる。料理が口に合わないのか、味が嫌い? 普段から少量しか与えられなかった? さげ渡すと聞いて、遠慮したのかも。
たくさん残そうと遠慮したなら、途中でお腹が空くよね。細すぎる腰も魅惑的だけど、僕としては軽すぎて心配だ。もっと健康的にまろやかな体を手に入れてほしい。無理矢理食べさせると、馬車で気持ち悪くなるか。
迷った末、僕は執事のニルスに合図した。さっと料理の皿やカトラリーが下げられ、新しいカップで紅茶が用意される。果物の籠を移動させると、トリシャは指先でいくつか指し示した。それを美しくカットする間に、パンに肉や野菜を挟んだ軽食を用意させる。
食べたイチゴが酸っぱかったのか、口元を押さえる仕草に誘われそうだよ。僕は穏やかな笑みで本音を隠しながら、トリシャを見守った。
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