彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ
15.良い夢が見られそうだ
用意された部屋でトリシャを休ませるつもりだったけど、あんな女の出る王宮は信用できない。処罰の残酷な決断を下す姿に怯えられるのも嫌。皇帝である僕をここまで悩ませるなんて、この国は滅びたいの?
執事のニルスが侍女ソフィと一緒に同席し、トリシャを休ませることにした。王宮の誰であっても、入室は許さない。双子の騎士の兄マルスをドアの前に立たせた。もちろん窓の外にも騎士を配置する。この国ではなく、僕の護衛騎士達をね。
ステンマルク国は、トリシャを虐げた罪で王家を取り潰した。先ほど下品な女が出たバルテルス国は、どんな処罰が相応しいかな。ステンマルクの鉱山を管理させようと思ったけど、僕を舐めてかかる国は悲惨な末路が待ってるよ。
滅ぼすと難民が出るのが問題。考えながら、用意された王座に座る。バルテルス国の玉座は、あまり座り心地が良くないね。見下ろした段下に国王がひれ伏していた。妹だか娘だか知らないけど、あの下品な女の許しを請う様は、反省の色が見えない。
「僕は怒ってるけど、それはさっきの女に対してだった」
ほっとした顔をしてるけど、国や君が助かるとは言ってない。それに気づいてる? 僕は過去形で話したんだけど……まあ気づくくらいなら、あの女を野放しにしないね。こうやって希望を抱いたところを踏み潰すのが、一番効果が高いんだ。
「でも今はお前も気に入らない。この国の王族はバカなのかな? なんで許されると思ったの。宗主国の皇帝に許可なく話しかけ、腕に触れた。あまつさえ僕の大切なトリシャを睨むなんて! 今もあの香水が残って頭痛がするよ」
汚らわしいと吐き捨て、僕は笑顔を作った。表情を作るのは慣れているよ。君主たるもの、いつでも穏やかに笑ってなくちゃね。それが誰かの首を刎ねる瞬間であっても、だ。
自主的にあの女の首を持ってくるくらいの覚悟があれば、もう少し存続できたのに。ステンマルクもバルテルスも、立地はいいから誰かに褒美で与えよう。それまで直轄領で管理すれば問題ない。
当然だけど、直轄領に王族は不要だ。民は財産だから虐殺なんてしない。使えない頭を交換すれば、手足の民はちゃんと機能するから安心して。
斜め後ろに控える双子の騎士の、弟アレスの腕に軽く触れた。合図はそれでいい。無粋な命令を、口にする必要はないんだよ。
「ひっ、お許し」
最後まで言い切る前に、首が落ちた。アレスの剣技はいつ見ても惚れ惚れするね。一閃で首を落とした。首の骨は背中に繋がるから太くて硬い。その関節を上手に見極めて切り離す技術は、見事の一言に尽きた。
転がった首や倒れた胴が赤い血を噴き出す。それを一瞥し、僕は興味のない玉座から立ち上がった。
「寝る前にトリシャの顔が見たいな」
本当はトリシャと同室がいい。ベッドは別でいいから同じ部屋で眠りたいけど、彼女の名誉は守ってあげなくちゃ。未婚の女性が同衾したと噂されたら、可哀想だ。いくら未来の夫である僕が噂の相手でも、トリシャを傷つける可能性は見逃せなかった。
だから顔を見るだけ。少し浮かれた足取りで廊下を歩く。薄暗い気がするけど、トリシャに会えば明るくなるはず。僕の世界はいつだってモノクロで、彼女がいるところだけ美しく彩られた。
僕らしくないけど、自らノックする。ニルスの開けた扉の隙間から入り、天蓋の中で横になる美女を見つめた。お風呂に入ったのかな、薔薇の香りがするね。トリシャなら、薔薇より百合や鈴蘭が似合いそうだ。白く揺れる上品な香りの花……用意させよう。
あまり近づくと、さっきの香水女につけられた臭いが彼女に移ってしまうか。残念に思いながら、頬が少し赤いトリシャの寝顔を目に焼き付け、隣室に移動した。侍女のソフィを残して、ニルスが僕の世話についてくる。もし残ったら、その手足を切り落とすけどね。
入浴して、執事の用意した石鹸で赤くなるまで肌を擦った。くそ、せっかくトリシャの手に触れた手も洗う羽目になるなんて。肌を1枚剥ぐ勢いで洗い、ニルスに髪を洗わせた。薔薇の香りが浴室に漂う。気の利く執事は、トリシャと同じ石鹸を使ったらしい。
「ありがとう、さっぱりしたよ」
同じ香りを纏ったことで、気持ちを落ち着けてベッドに横たわる。明日の夜には帝国に入るから、辺境伯の屋敷に泊まろうか。先触れを出すよう指示し、僕は目を閉じた。深呼吸するとトリシャが纏った薔薇の香りがする。良い夢が見られそうだ。
執事のニルスが侍女ソフィと一緒に同席し、トリシャを休ませることにした。王宮の誰であっても、入室は許さない。双子の騎士の兄マルスをドアの前に立たせた。もちろん窓の外にも騎士を配置する。この国ではなく、僕の護衛騎士達をね。
ステンマルク国は、トリシャを虐げた罪で王家を取り潰した。先ほど下品な女が出たバルテルス国は、どんな処罰が相応しいかな。ステンマルクの鉱山を管理させようと思ったけど、僕を舐めてかかる国は悲惨な末路が待ってるよ。
滅ぼすと難民が出るのが問題。考えながら、用意された王座に座る。バルテルス国の玉座は、あまり座り心地が良くないね。見下ろした段下に国王がひれ伏していた。妹だか娘だか知らないけど、あの下品な女の許しを請う様は、反省の色が見えない。
「僕は怒ってるけど、それはさっきの女に対してだった」
ほっとした顔をしてるけど、国や君が助かるとは言ってない。それに気づいてる? 僕は過去形で話したんだけど……まあ気づくくらいなら、あの女を野放しにしないね。こうやって希望を抱いたところを踏み潰すのが、一番効果が高いんだ。
「でも今はお前も気に入らない。この国の王族はバカなのかな? なんで許されると思ったの。宗主国の皇帝に許可なく話しかけ、腕に触れた。あまつさえ僕の大切なトリシャを睨むなんて! 今もあの香水が残って頭痛がするよ」
汚らわしいと吐き捨て、僕は笑顔を作った。表情を作るのは慣れているよ。君主たるもの、いつでも穏やかに笑ってなくちゃね。それが誰かの首を刎ねる瞬間であっても、だ。
自主的にあの女の首を持ってくるくらいの覚悟があれば、もう少し存続できたのに。ステンマルクもバルテルスも、立地はいいから誰かに褒美で与えよう。それまで直轄領で管理すれば問題ない。
当然だけど、直轄領に王族は不要だ。民は財産だから虐殺なんてしない。使えない頭を交換すれば、手足の民はちゃんと機能するから安心して。
斜め後ろに控える双子の騎士の、弟アレスの腕に軽く触れた。合図はそれでいい。無粋な命令を、口にする必要はないんだよ。
「ひっ、お許し」
最後まで言い切る前に、首が落ちた。アレスの剣技はいつ見ても惚れ惚れするね。一閃で首を落とした。首の骨は背中に繋がるから太くて硬い。その関節を上手に見極めて切り離す技術は、見事の一言に尽きた。
転がった首や倒れた胴が赤い血を噴き出す。それを一瞥し、僕は興味のない玉座から立ち上がった。
「寝る前にトリシャの顔が見たいな」
本当はトリシャと同室がいい。ベッドは別でいいから同じ部屋で眠りたいけど、彼女の名誉は守ってあげなくちゃ。未婚の女性が同衾したと噂されたら、可哀想だ。いくら未来の夫である僕が噂の相手でも、トリシャを傷つける可能性は見逃せなかった。
だから顔を見るだけ。少し浮かれた足取りで廊下を歩く。薄暗い気がするけど、トリシャに会えば明るくなるはず。僕の世界はいつだってモノクロで、彼女がいるところだけ美しく彩られた。
僕らしくないけど、自らノックする。ニルスの開けた扉の隙間から入り、天蓋の中で横になる美女を見つめた。お風呂に入ったのかな、薔薇の香りがするね。トリシャなら、薔薇より百合や鈴蘭が似合いそうだ。白く揺れる上品な香りの花……用意させよう。
あまり近づくと、さっきの香水女につけられた臭いが彼女に移ってしまうか。残念に思いながら、頬が少し赤いトリシャの寝顔を目に焼き付け、隣室に移動した。侍女のソフィを残して、ニルスが僕の世話についてくる。もし残ったら、その手足を切り落とすけどね。
入浴して、執事の用意した石鹸で赤くなるまで肌を擦った。くそ、せっかくトリシャの手に触れた手も洗う羽目になるなんて。肌を1枚剥ぐ勢いで洗い、ニルスに髪を洗わせた。薔薇の香りが浴室に漂う。気の利く執事は、トリシャと同じ石鹸を使ったらしい。
「ありがとう、さっぱりしたよ」
同じ香りを纏ったことで、気持ちを落ち着けてベッドに横たわる。明日の夜には帝国に入るから、辺境伯の屋敷に泊まろうか。先触れを出すよう指示し、僕は目を閉じた。深呼吸するとトリシャが纏った薔薇の香りがする。良い夢が見られそうだ。
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