彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ

necoaya

13.生意気だけど使えるね

 王城に着くと、止まらずに中に入る。馬車についた紋章と、事前連絡の賜物だった。騎士も武器を預けることなく入城した。

 バルテルス国は、フォルシウス帝国の属国だ。皇帝である僕が乗る馬車を遮れるはずがないんだけど……この状況は何かな?

 突然止められた馬車の中で、僕はむっとした表情を隠さなかった。執事ニルスが確認を取りに降りて、もうどのくらい? 動かない馬車と戻ってこない執事に眉を寄せる。

 不機嫌な態度をトリシャに見せたくないんだよ。まるで僕が狭量みたいじゃないか。侍女ソフィが手早くトリシャの髪を整える。寝乱れた髪が見る間に結い上げられた。これは凄いね、見事だよ。

「ソフィだっけ?」

「は、はい。皇帝陛下」

 慌てて床に座って伏せる彼女の姿に、トリシャが不安そうに僕を見つめる。安心して、別に何もしないから。いや……何かはするけど。

「トリシャの味方でいてあげてよ。褒美は取らせるから」

 返事をしようとして、ソフィは言葉を飲み込んだ。僕に何か言い返そうとした? 興味があるな。トリシャの側に置く予定なんだ。何か不満があるなら今のうちに聞いておく方が安全だね。

「何? 許すから言ってみて」

 直答を許す。そう示して待った。本当なら執事が間に入るんだけど、ニルスはまだ戻ってきそうにない。

 トリシャが「やめなさい」と首を横に振るが、覚悟を決めたソフィはお仕着せのスカートをきゅっと掴んで顔を上げた。

「……お言葉ですが、皇帝陛下。私はベアトリスお嬢様を裏切りません。それは皇帝陛下のご命令だからではありません。お優しいお嬢様に、誰より幸せになっていただきたいからです」

「ふーん。僕にそれを言うの?」

「家族もいませんので、処刑でも結構です」

 じっと睨みながら、僕は脇に無造作に立てかけていた剣の柄を握る。それでもソフィは目を逸らさなかった。両手を組んで祈る姿勢を取るトリシャを目の端に捉えながら、僕は浮かせかけた腰を下ろした。

「うん。合格だね。トリシャの侍女として取り立てよう。信頼できる子を探そうと思ってたからちょうどいい。何より、僕に物言う生意気さは使えるよ」

 王侯貴族の中には、権威や地位を利用してトリシャに嫌がらせをするかも知れない。もちろん僕がすぐに処分するけど、専属侍女が使えるなら安心だった。

 剣を放り出すように壁へ立てかけ、驚いた顔をしているソフィに頷く。驚いていた顔が徐々に崩れ、泣き笑いの表情に変わった。決して美人ではないけど、変な貴族令嬢より感じがいい。

「トリシャは彼女でいい?」

「はい、はい……エリク、ありがとうございます」

 嬉しそうにお礼を言うトリシャ、なんてご褒美だ。手を広げて抱き寄せようとして、戸惑う姿に諦めた。まだ早いね、君を傷つけるなら僕は僕が許せなくなりそうだ。

「あの……私はお嬢様にお仕えしても?」

「そのつもりで馬車の前に身投げしたんでしょ?」

 今さら何をおかしなことを言ってるんだい。僕に逆らって死ぬ覚悟までして、トリシャを幸せにしろと言ったくせに。

「お待たせいたしました」

 執事ニルスが外から声を掛ける。

「いいよ。トリシャの支度の時間にぴったりだった」

 だから今回の不手際は許してあげる。ニルスが扉を開き、立ち上がった僕は先に馬車から降りた。いつもなら絨毯を真っ直ぐ歩くんだけど、今日はトリシャのエスコートがある。天使を待って手を差し伸べた。驚いた顔をしたけれど、トリシャは素直に手を受けてくれる。

 顔を上げたトリシャの横顔が美しくて……僕は自然と柔らかな笑みで足を踏み出した。




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『今度こそ幸せを掴みます! ~大切だったあなたから死の宣告を受けたこと、忘れませんわ~』
 異種族婚姻 溺愛ハッピーエンド、恋愛
 1/29より公開

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 偉大なる神カオスに最期の祈りを捧げた私は、愛する家族の前で首を落とされ――目覚めたのは6歳の私。
 今度こそ幸せになります!!

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