彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ

necoaya

11. 思ってたより過酷かな

 馬車に乗り込んですぐ、御者が叱咤する声と激しい揺れで馬車は止まった。確認して報告に来た騎士によれば、侍女がひとり同行を願い出たという。文字通り身を投げ出しての陳情とあれば、慈悲深い皇帝が無視するのも憚られる。そんな建前で馬車の扉を開いた。

「……っ、ソフィ」

 一緒に外に目をやったトリシャが名を呟いた。ローゼンタール公爵家の侍女か。

「知ってるの? トリシャ」

「は、はい。私の……侍女です」

 わずかな間は、僕を気遣ったのかな。別に侍女相手に嫉妬したりしないけどね。僕がトリシャの一番でいる限り、他の人間に寛容でいられると思うし。

 焦げ茶の髪の侍女の手は荒れていた。きちんと仕事をする子みたいだけど。養女とはいえ公爵令嬢の侍女なら、レディースメイドで上級使用人のはずだ。手荒れする洗濯や掃除はしないはず。

「下働き?」

「私の着付けや髪を整えてくれる専属侍女です」

 ふーん。侍女が足りないのかな? それともトリシャの味方をした侍女を、意地悪で過酷な仕事に追いやったとか。この辺は報告待ちだね。

「ああ。今夜のトリシャの髪は見事だったね」

 うなじをすべて見せれば下品になる。だから上手に隠しながら、トリシャの耳を半分ほど覆ってゆったりと結っていた。今は僕が帝国から連れてきた侍女が結い直し、流すようにハーフアップにしているけれど。あの腕前はトリシャを着飾るのに使えるかな。

「いいよ。連れて行こう。後ろの侍女達に合流して」

「あ、ありがとうございます」

 礼を口にして伏せる侍女は、後ろの使用人が乗る馬車へ行くよう示した。トリシャが欲しいなら、物をいくらでも集めるし、者も同じだ。まだ愛されることに不慣れな君だから、僕に強請れなかったんだろう。ほっとした顔のトリシャを促して馬車に戻り、今度こそスタンマルク国を出た。

 心残りが消えたのか。精神的に疲れたのか。トリシャは揺れる馬車に合わせて頭を揺らす。寄りかからないよう心掛けてるみたいだけど、こうしたら驚くかな。ぴたりと触れ合う隣から身をずらし、端に腰掛けた。

 ぱっと姿勢を正すトリシャに手を伸ばし、優しく横になるよう促す。二人きりじゃないのが、心底残念だけど。向かいに腰掛ける執事が心得たように、クッションの位置を変えた。

「エリクっ……あの」

「君はもう僕の婚約者なんだ。無礼でも図々しくもない。これがトリシャの権利だよ」

 僕の膝に頭を乗せる形に整え、大量のクッションで彼女を包み込む。ドレス姿は美しいけれど、やっぱりショールだけじゃ寒いかも知れないね。合図して執事に上掛けも用意させた。ショールから覗く細い首と肩を包んで、声をかける。

「隣国の王宮まで少しかかるから、寝ていたらいいよ」

「でも、これではエリクが休めません」

「君の寝顔を見たら、僕の疲れなんて吹き飛ぶけど……実はね。トリシャの寝顔を見るチャンスにどきどきして、とても眠れそうにないんだ」

 後半を小さな声で、耳元に吹きかけるように囁いた。顔を真っ赤にして上掛けを被ってしまう。くすくす笑いながら、毛布の上からぽんぽんと叩いた。こんなに可愛い子なら、隠しておきたくなるよね。

 執事の合図で、馬車が再び走り始める。金をかけた分だけ乗り心地のいい馬車は、振動も少なく街道を走った。6頭引きにしたから、もう少し速くても平気かな。目配せで、執事がすぐに御者に合図を送る。

「ゆっくり休んで」

「……はい」

 返事はないかと思ったけど、こういう律儀なところもトリシャの魅力だ。聞こえるぎりぎりの音量での返事と、膝に乗る適度な重みと温かさ。僕の頬は緩みっぱなしだった。

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