彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ

necoaya

01.魔女だって? 天使の誤りだろ

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 美しい音楽と煌びやかなシャンデリア、整えられた夜会の広間に、似つかわしくない不協和音が混じった。

「貴様のような下賤なが、のうのうと我が妻の座を狙い画策するなど! 恥を知れ」

 集まった貴族がしんと静まり返った。ひそひそと話す貴族達が遠巻きに囲むのは、この国唯一の王子で王太子であるアードルフ殿下だ。

 金茶の髪と青い瞳の若者は、王侯貴族特有の整った顔立ちをしていた。立ち姿も正装もきちんとしており、王太子という肩書きに相応しい風貌だ。これならば女性にモテるだろう。だがその言動は頂けない。

 王太子の前に立つのは、美しい一人の少女だった。華やかさはない。大輪の赤い薔薇を引き立てるように咲く、小さな白い花を思わせた。楚々とした少女は、手にした扇をきゅっと握る。小さく震える指先と唇が、彼女の動揺を示していた。

 淡い水色のドレスを纏う少女は緩やかに波打つ紫がかった銀髪と、赤い瞳の持ち主だ。濃いピンクと呼んだ方が近い、吸い込まれるような瞳が瞬いた。薄いピンクの口紅に彩られた唇が、細く高い声を絞り出す。

「……殿下、発言をお許しください」

「うるさいっ! 魔女の言葉など聞けるか。また奇妙な魔術を使うのであろう! さっさと下がれ」

 犬を追い払うように、しっしっと動かされた手は失礼を通り越し無礼の極みだった。夜会に出席した婚約者への態度ではない。この広間に集まった貴族は、王子に逆らう気はないようだった。

「早く下がらぬかっ!」

 叱責され、びくりと肩を揺らした少女は我に返ったように周囲を見回した。誰も手を差し伸べる者がない。それを確かめると、彼女は俯いて唇を噛んだ。

 項垂れた少女は、唇をきつく噛み涙を堪えているようだった。なんという哀れな姿か。同情するのは失礼だと感じながらも、目を奪われる。儚く消えてしまいそうな姿は、魔女というより天使のようではないか。

 この国の者らは目が腐っているらしい。王子の言葉を真に受けて、少女を中傷する言葉を吐き出す貴族達の保身行為のなんという見苦しさよ。あのような輩が国の中枢にいるなど、ぞっとする。

「失礼、致しますわ」

 気丈にも顔を上げた少女は、優雅なカーテシーを披露して踵を返した。その瞳を涙で潤ませ、溢れないように少し顎を逸らして堪える。その横顔は美しかった。目を奪われ、凝視してしまう。

 彼女が外へ出る手前で追いつき、少女の前で膝をつく。手を差し伸べて、天使の声がかりを待った。

「……放っておいて、くださいませ」

 ハンカチを差し出すのは失礼だ。彼女は涙をこぼして同情を買うような安い女性ではない。堪える涙は、そのまま無かったことにするのが、天使の望みだろう。だから見ないふりで、穏やかに微笑む。

「僕にあなたをエスコートする許しをいただけませんか?」

 驚いた顔で、だが天使は触れた手を拒まなかった。触れた手を僕の腕に絡めさせて、再び僕達は広間の中央へとって返す。

 はてさて、愚かなこの国の王子に……一泡吹かせてやろうじゃないか。

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