おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第661話

 魔法で生み出した光の球で周囲を照らしながら雪山の途中にあるユキの城へと辿り着いた俺達は、そのまま奥の方へと進んで行き月明かりが差し込んできている大広間までやって来ていた。

「さてと、それじゃあ役目を始めさせてもらうわね。アンタ達は部屋の隅っこの方でしばらく大人しくしていなさい。」

「はいはい、仰せのままに。」

 返事をしながら通って来た巨大な扉の真横にレミと並び立った俺は、部屋の中央に向かって行くユキの後姿を黙って見送った。

「……………………………………」

 何度か深呼吸を繰り返していたユキがゆっくり顔を上げていった直後の事、室内に白くて淡い神秘的な光が次々と出現してきて彼女の事を少しずつ覆い隠し始めた。

「……アレは?」

「神としての力の結晶……みたいな物じゃな。アレがユキの祈りを通じて大地を巡りそれが加護となって街の者達を様座な脅威から護ってくれるんじゃよ。」

「ふーん……」

 確かにレミの説明通り室内に現れた小さな光の粒達はユキの周囲をグルグルと回りながら地面へと吸い込まれていっている様に見える。

 その光景をしばらくの間ぼんやりと眺めていると、どういう訳かユキの周りにある光の動きが急に止まってしまった?

「……どういう事なの?まさかアイツの言ってた事が本当だったなんて……」

「ん?どうしたんだユキの奴?何か呟いてるみたいだけど……」

「ふむ、恐らく神としての力を取り戻して分かったのじゃろう。わしが宿を出る前に教えた事が本当だったんじゃとな。」

「は?一体何の話を……って、おい。ユキがこっちに来るぞ。」

 神妙な面持ちで突然おかしな事を言い始めたレミに戸惑いを感じていると、ユキが似た様な表情を浮かべながら俺達の前までやって来た……そして……

「ねぇ、説明してちょうだい。どうしてコイツの未来が見えなくなってるの?」

「……は、はい?」

「分からん。原因を探ろうとしたが、わしの力でもどうにもならんかった。」

「そんな……アンタでも無理だったなんて……」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ。お前達、マジで何の話をしてるんだ?未来って……もしかして俺の話をしてるのか?」

 いきなり始まった不穏な会話が何なのかを問いかけてみると、2人の神様は揃って真面目な顔をしながらこっちを見つめてきた。

「……えぇ、その通り。コレはアンタの話よ。」

「すまん、混乱させてしまったな。きちんと説明するから聞いてくれるかのう?」

「あ、あぁ……それでどういう意味なんだ?俺の未来が見えないってのは……」

「……そのままの意味よ。」

「わし等にはその者がどの様な運命を辿るのかぼんやりとじゃが分かる……その事はお主も知っておるな?」

「まぁな……あのヤバい神様と戦えたのだって、お前が予言みたいな事をしてくれたおかげでもあるし……」

「うむ、あの時のわしにはお主が強大な力に立ち向かう姿が見えた……じゃが……」

「今のアンタからは何も感じ取れない。レミも……そして神様としての力を少しだけ取り戻したアタシでもね。」

 その言葉を聞いて心臓が跳ね上がり背中からぶわっと冷や汗が吹き出てきた俺は、喉が急速に渇いていくのを感じながら頭の中に浮かび上がった事を尋ねてみた……

「そ、それってまさか……俺が死ぬから……見えない……って事、なのか?」

「いや、そうではない。もしお主に死の運命が迫っているのならば、そうなる運命が近づいて来ている事をぼんやりと見通せるはずなんじゃよ。」

「……じゃあ、どうして……」

「分からないわ……さっきから何度も試してみてるんだけど、アンタからは何も感じ取れないの……」

「……何時からなんだ……俺の未来が見えなくなったのは……」

「詳しくは何とも言えん……じゃが、旅行の前には既に見えなくなっておった。」

「……そうか。」

「……すまん……不安にさせるだけさせて何の力にもなれんくて……」

「アタシからも謝らせてちょうだ……ごめんなさい……」

 本当に……本当に申し訳なさそうな表情を浮かべながらうなだれている2人の姿を目にしていた俺は、しばらく口を閉ざした後に小さくため息を吐き出した。

「……いや、お前達が謝る事じゃねぇよ。何がどうなっているのか分からねぇけど、知らないでいるよりはずっと良い。それにわざわざ俺をここに呼び出したのだって、皆にこの話を聞かせない様に配慮してくれたからんだろ?」

「……うむ、この話を皆に聞かせれば不安が広まってしまうと考えてのう……」

「あぁ、きっとそうなっちまう。だからありがとうな。気を遣ってくれてさ。」

「そんな、感謝の言葉なぞ……不安を与えるだけしか出来んかったと言うのに……」

「ははっ、なんつー顔してんだよ。別にそう悲観する事でも無いだろ?何か悪い事が起きるって言うならさ、シッカリ心構えをしておけば良いだけの話なんじゃねぇか。もしかして、俺が黙って悲惨な運命を受け入れるとでも思ってたのか?」

 ニヤッと笑いながらバカにする様な口調でそう言ってやると、2人はポカンとした表情を一変させて笑顔になっていった。

「……ふっ、そうじゃったな。お主の諦めの悪さはよく知っておるわ。」

「えぇ、アンタの言う通りだわ。って言うか、その運命の抗う為にアンタをここまで連れて来たって事を今の今まで忘れてたわ。」

「は?そうなのか?」

「えぇ、レミの提案でね。」

「おぉ、すっかり忘れておったわ!すまんすまん。」

「全く、言い出しっぺのアンタがうっかりしてどうすんのよ。って、今はそんな事はどうでも良いわ。ねぇアンタ、日頃から身に付けてる物って何かある?」

「ん?あーそうだなぁ……あっ、このネックレスかな。」

「なるほど。それ、ちょっと借りても良いかしら?」

「お、おう。別に構わねぇけど……何をするつもりなんだ?」

「まぁ、アンタにだけの特別サービスってヤツよ。ほら、良いから貸しなさい。」

「あ、あぁ……」

 マホから貰った頭の中で会話をする事が出来る様になるネックレスを首から外して手渡すと、ユキは首をクイっとやってレミに何かの合図をすると2人は光が留まって
いる部屋の中央へ向かって歩き始めた。

「レミ、準備は良いかしら?」

「うむ、何時でも大丈夫じゃ。」

「よし、それじゃあ始めるわよ。」

「な、なぁ?2人して何をしてるんだ?」

「黙って見てなさい。さぁ、いくわよ……」

 ユキが手にしていたネックレスを折り畳んでレミと両手で優しく包み込んでいった次の瞬間、空中にあった光の粒が次々と2人の両手に集まり始めた!?

 何が何やら分からないまましばらくその光景を見守り続けていると、光の粒が全て消え去ってレミとユキがこっちに戻って来た。

「え、えっと……今のは……」

「ふんっ、感謝しなさいよね。アンタのネックレスに、2人分の神様の加護を授けてあげたんだから。」

「は、はぁ!?いや、ちょっ……そんな事して大丈夫なのか?だってお前、この街を護る為の加護が……」

「心配しなくても平気よ。ノルウィンドの加護はもう終わってるし、今のは余ってた力をそのまま注ぎ込んだってだけの話なんだから。」

「そ、そうなのか……?」

「うむ、神としての役目はもう果たしてあったという事じゃ。そしてわし等の加護が何処まで効くのかは分からんが、コレを気休め程度に身に付けておいてくれ。」

「……あぁ、分かった。」

 不思議な暖かさを感じる様になったネックレスを返してもらい首に戻した後、俺は2人と静かになった大広間をグルっと見渡した。

「……うん、それじゃあそろそろ宿屋に戻りましょうか。」

「そうじゃな。皆に気付かれる前に帰るとするか。」

「……だな。」

 俺の未来が見えなくなったという助言、そして加護の授けられたネックレスを手にユキの城を後にした俺達は綺麗な夜空に照らされながら宿屋へ戻って行くのだった。

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