おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第610話

「はぁ……まさか今日に限って雪が降りやがるとは……」

「九条さん、皆さんの事が心配ですか?」

「……いや、あいつ等の実力ならこの程度の悪天候は問題にもならないはずだ。」

「うふふ、信頼なさっているですね。」

「まぁ、付き合いも長いし色んな面倒事を一緒に乗り越えて来た仲だからな。っと、何時までもこんな所でお喋りなんかしてたら風邪を引いちまうか。イリス、ここらで行ってみたい展示場って何かあるか?……って、聞くまでもないか。」

「はい。昨日、ロイドさんが教えてくれた石のある展示場に行ってみましょう。」

 いい加減にイリスと腕を組む事にも慣れてきた俺は平常心を保ちつつ手にしていた地図を確認すると、触れたら幸運が訪れると言われている怪しい石が展示されている建物を目指して遠目からでも圧倒的な存在感を放っている王宮の方へと歩き始めた。

「……それにしても、王宮のすぐ近くって本当に凄い催し物ばっかりだよな。やっぱそういった派手な系統のものをやらないとダメだってお達しでもあったのかねぇ。」

「さぁ、どうなんでしょうか?でも、確かに大勢の方が興味を惹かれそうな展示物が見られる所が多いみたいですよね。ここからでも賑わっているのが分かりますし。」

「そうだな……雪の影響で人通りはかなり少なくなってるっぽいが、この機会にって考えて展示場を訪れている人も居るんだろうな。」

「うふふ、今ならのんびりと見て回れる可能性が高いですからね。」

「あぁ、だから俺達もその可能性に賭けてのんびり出来る様に祈るとしようぜ。」

「えぇ、どうせならジックリと楽しみたいですからね。」

 ……そんな他愛もない話をしながら真っすぐと伸びた歩道を数十分近く歩き続けて目的地に辿り着いた俺達は、温度が一定に保たれている建物内に足を踏み入れていき雪で冷えてきていた体を温めながらズラッと並べられた展示物の鑑賞を始めた。

「ふーん、ここは色々と変な噂のある物を集めて飾ってあるみたいだな……つーか、マジで怪しいもんしか無くないか?」

「目を合わせたなら呪われてしまう女性の絵に、選ばれ者にしか引き抜けない伝説のブレード……それに近付いただけで命を削り取られてしまう鎧ですか。」

「ったく、誰がどういう趣味でこんなのを集めてきたんだかって感じだな……ってか近付いただけでヤバいなら、どうやってここまで運んで来たんだよな?」

「うーん、謎は深まるばかりですね。」

「……底の浅そうな謎っぽいけどな。っと、そろそろ例の石があるみたいだぞ。」

「うふふ、何だかドキドキしてきました。九条さん、早く行きましょう。」

「……はいよ……」

 信憑性が有るんだか無いんだかよく分からない展示物を見ながら小さな立て看板に従って角を曲がって行くと、プレートにご自由にお触り下さいと書いてある少しだけキラキラとした虹色っぽい石が台座に置かれて存在していた。

「なるほど、この石が……良かった、人が居ないのですぐに触れますね。」

「……コレ、触ったら幸運じゃなくて不幸が訪れるとかって事にはならないよな?」

「うふふ、それは実際に触れた後に確かめてみましょう。えいっ。」

「うおっ!」

 イリスは掛け声と共に絡めていた腕をほどいて俺の手を掴むと台座の上に置かれた怪しい石にグイッと触れさせた!

「……これで僕達に幸運が訪れるんですかね?」

「……分からん。つーか、そういうのってすぐに訪れるもんでもなくないか?」

「……それもそうですね。では九条さん、他にも面白そうな展示物があるらしいのでそっちを見に行きましょうか。その後は雪像を展示している所ですね。」

「はいはい、仰せの通りに。」

 ご利益があるとは到底思えない石に触れて何とも言えない気持ちにはなったけど、まぁイリスが満足したみたいならそれでも良いか。

 ってな事を考えながら怪しげなイベントをそれなりに楽しんだ俺達は、その他にも様々な展示場を巡ってポイントを集めて行くのだった。

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