おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第600話

「皆さん、午後の依頼に取り掛かって頂く前にイベントの応募をして来てはいかがでしょうか?」

 昼飯をご馳走になった後にアシェンさんからそう促された俺達は、イリスと一緒に王都にある斡旋所までやって来ていた。

「いらっしゃいませ。皆様、本日はどうなさいましたか?」

「あぁ、実は王都で開催されているイベントに参加したくて来たんですけど……」

「なるほど。それでしたらこちらの申し込み用紙にご記入をお願い致します。」

「あっ、はい。分かりました。」

 職員のお姉さんから一枚の紙とペンを手渡された俺は、記入事項を書き始める前にどんな事が書いてあるのかを全員でザッと読んでみる事にした。

「ふむ、素敵な思い出を作りたいと思う者の名前を書かなくてはいけないのか……」

「そうみたいだな……あの、コレって何人でも書いて良い感じなんですか?」

「はい。今回のイベントはご家族や恋人、ギルドのメンバーと参加して頂こうと思い企画された物ですので人数の限定されていません。ですので今回は……この場に居る皆様でご参加なさるんですよね?」

「あぁいや、それがそういう訳でも無くてですね……」

「うふふ、今回は僕とこちらの九条さんの2人でイベントに参加する予定なんです。こちらに居る皆さんは付き添いで一緒に来てもらっていました。」

「あっ、そうでしたか。という事はもしかして、お2人は恋人同士なんですか?」

「いいえ、九条さんは僕の運命の人なんですがまだそういった関係では無いんです。だから今回のイベントでもっと仲が良くなれたらなーと思ったんです。」

「そうだったんですか!それではお2人の仲がイベントを通じて素敵な物になる様、詳細についてご説明をさせて頂きますね。」

「はい、よろしくお願いします。」

 反論を挟む余地が無いまま繰り広げられ続けていた2人の会話を聞いていた俺は、確実にイリスとの仲を誤解してしまったであろう職員のお姉さんから生暖かい視線を送られる事になってしまうのだった……!

「現在、王都で開催されているイベント。その内容は簡単に言ってしまえば、様々なお店を巡って素敵な思い出を作って頂く事です。」

「お店?って事は……普通にお買い物したり、お食事したりって事ですか?」

「はい、その通りです。しかし、それだけではイベントとは言えませんよね?なのでお2人にはこれからお渡しする地図に載っているお店を巡って頂きたいと思います。そして……」

 お姉さんはニコっと微笑みながら受付の下に手を入れると、分厚く折り畳まれてる地図らしき物と雪だるまが描かれた紙のカードみたいな物をスッと取り出して俺達の前に置いた。

「えっと、コレは?」

「そちらはイベントで使用している特別なカードになります。こちらの地図に載っているお店に足を運んで条件を達成して頂くとポイントが付与されるんです。」

「ふむ、つまりイベントの最終目的はそのポイントを貯める事なのかい?」

「はい、合計で50ポイント貯めて頂く事になりますね。」

「ご、50ですか……そりゃまたかなり多いですね……」

「ふふっ、確かにそう感じられる方も少なくはありません。ですが、そこまで貯めて頂かなくても素敵な思い出を作れる様になっていますのでご安心下さい。」

「……そうなの?」

「えぇ、皆様に楽しんで頂ける様に企画したイベントですから。」

「うふふ、そう聞くと何だかワクワクしてきましたね九条さん。」

「まぁ……そう、かなぁ……?」

 意外と大変そうなイベントに参加してしまった事に少しだけ思う所はありつつも、無理やり自分を納得させていると後ろに居たロイドが俺の隣にやって来た?

「すまない。そのイベントの申し込み用紙、もう1枚貰えるだろうか。」

「えっ、急にどうしたんだよロイド?」

「ふふっ、話を聞いていたら私も参加してみたくなってきてね。マホ、ソフィ、もし良かったら私と一緒にイベントを楽しんでみないかい?」

「あっ、良いですね!お姉さん、私達も参加って出来ますよね?」

「はい、勿論です。」

「えへへ、それじゃあ私もイベントに参加します!ソフィさんも参加しますよね?」

「うん、良いよ。」

「よしっ、それでは記入させてもらうとしようかな。あっ、そう言えば50ポイント貯めると一体何が貰えるんだい?」

「すみません、それは達成できた時のお楽しみとなっているんです。しかし、半分の25ポイントでも素敵な思い出が作れると思いますので頑張ってみて下さい。」

「なるほど、そこまで言うなら楽しみにさせてもらおうかな。」

「やれやれ、結局は全員参加って事になるのか…‥」

 その後、申し込み用紙の記入を終えてカードを受け取った皆と一緒に斡旋所を後にした俺達は午後からの依頼をこなす為にアシェンさんとルバートさんの元へと戻って行くのだった。

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