おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第592話

「すぅ……ふぅ………あーさみぃ……やっぱりこの時間は太陽が出たばっかりだから空気が冷えてるな……」

「えぇ、暖かい飲み物のおかげで何とか耐えられていますけど……早く馬車に乗ってゆっくりしたいですね。」

「あぁ、そうだな……」

 話を聞かせて欲しいという依頼を引き受ける事を決めてから一週間後、正体不明の作家から待ち合わせ日を指定された俺達は王都行きの馬車に乗る為に朝方近くに家を出てトリアルの広場までやって来ていた。

「えっと、確か依頼者さんとは明日の午前10時に斡旋所前で会うんですよね?一体どんな人なんでしょうか?」

「んー……とりあえず変な奴ってのは間違い無いと思うぞ。わざわざ俺達のギルドを指名して話を聞きたいだなんてどう考えてもおかしいだろ?そういう事なら、もっと名の知れたデカいギルドに頼めば良いだけじゃねぇのか?」

「ふふっ、確かに大きなギルドとなれば私達が経験も出来ない様な話を幾つも持っているだろうね。けど、それでも私達から話を聞きたいと思ったんじゃないかな?」

「いや、だからそこからしてまず変って言うか……まぁ、明日になったら何もかもが分かるから今更こんな事をグチグチ言ったって仕方ないんだけどさ。」

「うん、だから今は別の話をしようか。例えば……王都で寄るお店についてとか。」

「あぁ、それか……なぁ、昨日も言ったけどマジで言ってんのか?お前達の行きたい店って合計で軽く30を超えてたんだけど……しかもまだ増えそうだし……」

「それは仕方ない。」

「そうですよ!王都なんて滅多に行けないんですから、こういう時に楽しまないと損じゃないですか!それにこの時期にしか取り扱っていない商品もあるみたいなので、この機会を逃す訳にはいきません!ですよね、ロイドさん!ソフィさん!」

「ふふっ、その通り。九条さん、すまないとは思うけど付き合って貰うよ。私達だけでは荷物の持ち手が足りなくなってしまうと思うからね。」

「ったく、荷物持ちをしてもらうって事を隠そうともしないとは……」

「九条さん、私は買い物に付き合ってくれなくても平気。でも、その代わり……」

「はいはい、王都の斡旋所で扱ってる討伐系のクエストに付き合えって言うんだろ?何度も頼まれたから分かってるよ……はぁ、お前は本当に何と言うか……あっ、そう言えばガドルさんとサラさんって居んのかね?会えたら挨拶しときたんだが……」

「……分からない。手紙には元気にしてるって書いてあった。」

「そっか……まぁ、時間がある時にでも闘技場に寄って聞いてみるか。もしかしたらガドルさんの試合とは見れるかもしれないからな。」

「っ!うん、そうしよう。約束。」

「わ、分かった分かった。ちゃんと付き合うからグイッと近づいてくんなっての!」

 瞳をキラキラと輝かせて顔を寄せてきたソフィから距離を取ろうと半歩後ずさったその直後、出発の準備が整った事を知らせるベルの音が広場に鳴り響き始めた。

「あっ、そろそろみたいですね!皆さん、行きましょう!」

「はいよ……今回は何にも起きないと良いんだけどなぁ……」

 小さな声でフラグになりそうな事を思わず呟いてしまった俺は、襲い掛かって来る寒さから逃れる為に早足で馬車に乗り込んでいきトリアルから離れて行くのだった。

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