おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第565話

 まずはロイドと戦ってた時の動きを思い出しながら様子見をしてみるか……なんて事を考えた次の瞬間、全身の毛が逆立つ感覚がして反射的に握り部分と刀身を両手で持った俺は防御の体勢にっ!?

「ハアッ!!」

「ぐうううっ!!」

 全身が軋む様な激しい痛みに突如として襲われて何が起こったのか分からないまま歯を食いしばって顔を上げてみると、眼前に訓練用のブレードを斜め下から斬り上げようとしているカームさんの姿を発見した!!?

「フッ!!」

 少し離れた場所に立ってたはずのカームさんがどうやって距離を詰めて来たのかが理解出来なくて混乱したまま次の攻撃を防ぐ体制になった直後、さっきと同じ痛みが再び全身に襲い掛かってきた!

「っ!!」

 必死になってどうにか2回目の斬撃を防げはしたものの今度は目で追いかけるのもやっとな勢いの斬撃が上下左右から連続して襲い掛かってきて、呼吸するのも忘れた俺は両脚に力を込めてその場に踏み止まりながらカームさんの攻撃に耐え続けた!

 本当なら逃げたくて逃げたくて仕方なかったが、一瞬でも隙を見せれば確実に息の根を止められてしまうという確信にも似た何かが俺の中に存在していた!

 だからこの5分間を何とか生き延びて……なんて考えに無理がある事は、両腕から全身に伝わって来る痛みのおかげですぐに把握する事が出来た!

 何故ならカームさんが繰り出してくる斬撃はメチャクチャ重すぎて、このままじゃ時間の問題だってのが理解したくなくても理解できちまったからなぁ!!

 ……そんな絶望にも似た状況に追い込まれながら何度も何度もカームさんの斬撃を防ぎ続けていた俺は、経験値10倍の能力のおかげか一筋の希望を見つけられた!!

「ハアアッ!!」

「くっ!ここだっ!」

 訓練用のブレードを振り下ろした直後に必ず斬り上げが来る事に気が付いた俺は、その間に起きる一瞬の隙を突いてグッと前に踏み出すとがら空きになっている胴体に渾身の力を込めた斬撃をお見舞いしてやった!……だが……!

「ふふっ、あの攻撃の隙を見つけて反撃を仕掛けてくるとはお見事でございます。」

「はぁ……はぁ……はぁ……マジかよ……」

 カームさんの言葉……要約すると死に物狂いで見つけた希望の光はわざと作られた偽りの光だったって事じゃねぇか……!

「流石でございます九条様、やはり貴方様は面白い方でございますね。」

「はぁ……はぁ……その褒め言葉……今はあんまり嬉しくありません……!」

「それは失礼致しました。お詫びと言っては何なのですが、少しだけ本気を出させて頂きますね。」

「いや、ソレってお詫びにならないと思うんですけども……!」

 ただまぁ、さっきのがワザとだったとしてもカームさんの攻撃は見慣れてきた……今なら防ぐだけじゃなくてギリギリの所で避けられるかもしれねぇ……そうすれば、何とか一撃ぐらいはぶち込めるっ?!

「ハアアッ!!」

「っ!ぐぅっ!!」

 少し前までは何とか追いかけられていたはずのカームさんの姿が目の前から一瞬で消えたかと思ったら、何時の間にかすぐ右横に存在していて気が付いた時には斬撃が真上から振り下ろされて来ていた!?

 訳が分からないまま防御には成功したものの、カームさんの姿がまた視界から消え失せてっ?!

「がはっ!!」

 脳の処理が追いつく前に背後から何かに襲われた俺は空中に投げ出されて、地面を転がりながら訓練所の壁に叩きつけられて……っ!

「そこまでっ!」

「……おや、どうやらもう訓練が終わってしまったみたいでございますね。九条様、立てますでしょうか?」

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ………ぁ………え、えぇ……何とか……」

「それは良かった。さぁ、私のお手をどうぞ。」

「……ありがとうございます……」

 差目の前に差し伸べられたカームさんの手を取って立ち上がった俺は……ロイドの声が聞こえる直前に見えた光景を……眼前に突きつけられていたブレードの切っ先を思い出してゴクリと唾をのみ込んでいた……

「九条様。訓練、いかがでございましたか?」

「……あー……えー……………何と言うか…………何と言えば…………?」

「ふふっ、どうやら思考が上手く働いていらっしゃらないご様子ですね。それでは、私から1つだけ助言をよろしいでしょうか?」

「じょ……助言ですか……?」

「はい、九条様と実際に手合わせをしてみて分かった事がございます。それは……」

「……そ、それは?」

「……九条様、貴方様は戦っている相手を目で追おうとしすぎている様に思います。そのせいで、私が視界から消えた瞬間に動揺をしてしまいましたよね?」

「……言われてみれば……確かにまぁ……でも、よく気付きましたね。」

「ふふっ、動揺がほんの少しですが全身から出ていましたからね。ですので腕の立つ者であれば、すぐにそこが弱点だと気付かれてしまうと思います。」

「そ、そうですかね……?でも、だとしたらどうすれば……」

「簡単な事でございますよ。戦っている相手の事を目で追うだけではなくて、相手の気配を感じ取れる様になれば良いんです。」

「……気配?」

 いや、急にそんな超武闘派な意見を言われても困るんですけど……こちとら普通の一般市民ですよ?それは流石に無理としか思えないんだが……

「大丈夫ですよ。そこまで難しく考える必要はございません。気配を感じ取るというのは地面を蹴る音や風を切る音、服の擦れる音等といった相手が出す音に耳を傾けて次の起こるであろう動きを予測するという意味ですからね。」

「……あの、ソレって普通に難しくありませんかね?俺に出来るとはとても……」

「いいえ、そんな事はございません。落ち着いて、呼吸を整えて、意識を集中すれば必ず出来るはずです。私は今の手合わせでそう確信しています。」

 カームさんに真っすぐ目を見つめられながらそう断言されてしまった俺は、反応に困ってしまい苦笑いを浮かべながら頬を軽く掻いていた……

「おーい!2人共!エリオとカレンが会える様になったらしいぞ!何時までもそんな所で話をしてないでさっさとこっちに来んか!」

「おっと、皆様がお待ちになっているみたいですね。合流致しましょうか。」

「あぁ、はい。」

 こうして突如として行われる事になった訓練は終わりを迎える事になって、俺達はエリオさんとカレンさんが待つ執務室に向かう事になるのだった。

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