おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第549話

 うだるような夏の暑さが過ぎ去り街を取り囲む木々が紅葉に変わり始めてきた頃、心地よい秋風が吹き抜ける様になりようやく汗も掻かずに外を出歩けるようになってきたので散歩がてら俺はマホと一緒に大通りにある本屋へと足を運んでいた。

「うーん、今日はこんなもんかな……マホ、そっちはもう選び終わったのか?」

「えぇ、もう大丈夫です。」

「そうか。よしっ、そんじゃあ会計に行くとすっか。」

「はい、分かりました。」

 それぞれが手にしたカゴの中に10冊ずつ程度の本を入れてラノベコーナーのある2階から下の階に降りて来た俺達は、そのまま真っすぐ会計に向かわずにその途中にある多種多様な雑誌の置いてあるコーナーの前で立ち止まっていた。

「おじさん、そろそろ秋物の食材が市場に並ぶ様になってきたので新しい料理の本を見てみても良いですか?」

「あぁ、確かにそんな時期だもんな……そんじゃあまぁ、ウチに無さそうな感じので使えそうなのがあったら買ってやるよ。どうせ俺も見る事になるだろうからな。」

「了解しました!それじゃあジックリ選ばせてもらいますね!」

「はいよ……ふぅ、そろそろ新しい本棚を親父さん達に作ってもらうかな。」

 これまで買ってきたもんで溢れそうになっている我が家の本棚を思い浮かべながら静かに料理本を吟味しているマホの姿を眺めていた俺は、とりあえず目についた本を手に取ってパラパラと捲《めく》ってみる事にした。

 ……なるほど、どうやらこの本はトリアルで起きた事件とか怪しい疑惑のある貴族なんかを調べ上げて記事にしている本みたいだな。

 まぁ、俺好みの本じゃ無いから買うつもりはねぇんだけど……異世界にもこういう本って置いてあるんだなぁ……世界は違えど人間の趣向は変わらんという事かねぇ?

「おじさん、眉をひそめたりしてどうかしたんですか?その本に何か気になる事でも載っていたんですか?」

「ん?いや、別に何でもねぇよ。それよりも良さそうな料理本は見つかったか?」

「はい!初めて見るレシピで材料もすぐ揃える事が出来そうなのを見つけました!」

「りょーかい。そんじゃあ行くとすっか。あっ、昼飯どうする?マホとソフィは外で食ってくるみたいだから俺達もそうするか?」

「良いですねぇ!それならお店が混み始めちゃう前に早く行きましょう!」

「あっ、コラ!店の中で走るんじゃねぇっての!……ったく、しょうがねぇな。」

 こんな事ではしゃぐだなんてアイツもまだまだお子様だねぇ……って、そんな事を呑気に考えてる場合じゃねぇな。

「おじさーん!早く早く!」

「はいはい、そんな急かさなくても大丈夫だよ。」

 肩をすくめながら苦笑いを浮かべた俺は、満面の笑みを浮かべながら手招きをしているマホの方に歩いて行くのだった。

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