おっさんの異世界生活は無理がある。
第540話
「………んぅ…………あれ………ここは……………?」
「あっ、おはようございますルゥナさん。いや、今の時間帯だとこんばんはが正しい挨拶なのか?……まぁ良いや、とりあえず気分とか悪くなってないですか?」
「…………きぶん…………………っ!?な、なんっ?!どうしっ!?!?!!?!」
「あ~……すみません。もう夜も遅いので別荘に帰ろうと思ったんですけど、いくら起こしてルゥナさんが目を覚まさなかったのでこうして運ばせてもらっています。」
俺の腕の中でお姫様抱っこをされていたルゥナさんは酒のせいなのか顔を真っ赤にしながら口をパクパクと動かすと、両手を胸の前でグッと握ってうつ向く様な姿勢になり始めた。
「にゃ……なるほど、そういう事でしたか……」
「えぇ、起きて早々に不快な思いをさせたのなら申し訳ありません。」
「い、いえっ!そんな不快だなんて……こ、こんな風にされるのは幼い頃に見ていた絵本のお姫様みたいで凄くうれし……って、何でもありません聞かないで下さい!」
「お、落ち着いて下さいルゥナさん!その状況で暴れられると危ないですから!」
「あっ!す、すみませ……えっ!?く、九条さん!どうしたんですかそのお顔は!?傷だらけじゃないですか!も、もしかして私が何かご迷惑を?!」
「あぁいや、別にそういう訳じゃないんで大丈夫ですよ。コレはその……ついさっき転んじゃいまして……まぁ、そこまで酷いものじゃないんで気にしないで下さい。」
……流石に事のあらましを全部ぶっちゃける訳にはいかねぇもんなぁ……俺自身も久しぶりのアルコールで軽く酔ってたとはいえ、初対面の相手と喧嘩して何とか勝利しましたなんて自慢にもならねぇ話はしたくないし。
「そ、そう言われましても……と、とりあえず私を今すぐに降ろして下さい!そんな状態の九条さんにこれ以上は無理させられません!」
「わ、分かりました!それじゃあ、気を付けて下さいね。」
まだアルコールが抜けきっていないのか若干テンション高めのルゥナさんを静かに地面に下ろした……までは良かったんだけども……
「あ、あれ?私、どうして……」
「……もしかして、足腰に力が入らない感じですかね?」
「そ、そんな事は!う、う~んっ!」
ぺたんと地面に座り込んでしまったルゥナさんは唸り声を上げながら頑張って立ち上がろうとしていたんだが、どれだけ努力してもソレが実ってくれる気配は無く……
「何と言うか……あんまり大丈夫……では、なさそうですね……」
「うぅ……情けない姿をお見せして申し訳ありません……」
「いえいえ、そんな風に思ってませんから安心して下さい。それよりも……これからどうしますか?さっきと同じ様にして別荘まで……」
「そ、それはちょっと……!勘弁して頂きたいと……言いますか……」
「あー……やっぱり嫌ですよね。あんま親しくない奴に抱き抱えられるってのは……それじゃあ少しだけ待っていて下さい。別荘に戻って誰か」
「あっ、違います九条さん!そういう事では無くて……ですね……」
「……えーっと……それじゃあ……?」
何を勘弁してほしいのかよく分からずにそう尋ねると、ルゥナさんは視線を激しくあちこちに動かしながらまたもやうつ向いていってしまい……
「そ、その……あの格好をされてしまうと……九条さんのお顔が…………近くて……恥ずかしい……と、言いますか…………」
「…………な、るほど…………そうですね……えぇ………」
ぐっ!なるべくそういう事を意識しない様にしていたのに、まさかルゥナさんの方から指摘されてしまうとは……!分かってた事だが、マジで小っ恥ずかしすぎるぞ!
実は大通りを歩いている最中も、すれ違う人達から微笑ましいモノを見る目付きをされてたから夜空に視線を向けて誤魔化し続けていたと言うのに……!
「だ、だからその!えっと……こんな時間に別荘から生徒を連れ出すのもどうかなと思いますし……で、出来ればおんぶ……して下さると……なんて……」
「お、おんぶですか?そ、それはぁ………」
「あっ、もしかして……私……お、重かったですか?そ、それでしたら断って頂いて大丈夫ですから!歩ける様になるまでしばらくここで休んでます!」
「い、いえ!お、重いなんて事はありません!絶対に!た、ただ……うーん……」
この人、自分のスタイルについて自覚がないのか!?こちとらそう言う理由だからお姫様抱っこなんて柄にも無い事をしてきたっつうのに……!でも、本人を前にしてぶっちゃける訳にもいかねぇし……あぁもう、腹を括るしかねぇ!
「九条さん、本当にご無理なら私……」
「……いえ!大丈夫です!さぁ、どうぞ俺の背中に乗っかって下さい!」
「は、はい!それでは……えっと、失礼します……」
「っ!!」
うおおおおおおっ……!せ、背中越しに……ダメだダメだ!煩悩に飲まれるな俺!例え心地よい暖かさと夢の様な柔らかさが襲い掛かって来ていたとしても心頭滅却をして冷静さを取り戻すんだ!!
「よいしょっと……」
「んぐふっ!?」
「ど、どうしたんですか九条さん!?」
「い、いえ‥…気になさらないで下さい……!それじゃあ……行きますよ……!」
「は、はい。よろしくお願いします……」
む、無理だっ!意識しないなんてそんなの出来る訳が無い!だって刺激が強すぎて心臓が今にも張り裂けそうなんだもの!下手したら別荘に付く前に命果てる可能性があるぐらいだもの!それに良い匂いもしてきて頭がクラクラするんだものっ!!
……そんな自問自答を繰り返しながら脳味噌をオーバーヒートさせていると、首に回されていたルゥナさんの腕に込められていた力がキュッと強くなり始めた!?
「あ、あの……ルゥナさん………?」
「………すみません………」
「へっ?な、何がですか?」
「……あの子達の事や……お怪我の事です……それ……私が原因なんですよね?」
「な、何を言ってるんですかルゥナさん!さっきも言いましたけど、コレは斡旋所で転んで出来た物ですよ!……それよりも、どうしてあいつ等で……?」
突然の謝罪に戸惑いながらも背中に居るルゥナさんにそう聞くと、彼女はしばらく沈黙を続けた後に小さく息を吸い込んだ。
「私……あの子達の事を心の底から信じられていなかったんです……だから、何度も口うるさく危ない事はしない様になんて言って……でも、九条さんはあの子達の事を心の底から信じていて……それで一緒にダンジョンまで行って……ボスまで倒したりして……それなのに私は偉そうな事を言うばかりで何もしていなくて……だから……すみませんでした……貴方にも酷い事を言ったりして……私……教師失格ですね……本当なら……その役目は私がするべきだったのに……」
後悔……って言うのとはまた違うんだろうけど……ルゥナさんの口からそういった言葉を聞いた俺は、ゆっくり立ち止まって夜空で光り輝いている星々を見上げた。
「……ルゥナさん、俺は貴方の事をとても素敵な人だと思っています。」
「……えっ?」
さぁ、ここが今日一番の勝負所だ。覚悟を決めて、頭の中に思い浮かんでる言葉をぶつけてやるんだ!
「口うるさい……結構な事じゃないですか。それだけあいつ等の事を大切に思ってるって事なんですから。それに何もしていない?そんな事はあり得ませんよ。だって、貴女が居るからあいつ等だって気合を入れて頑張れたんですからね。それに酷い事を言った?教師失格?そんなバカな事は言わないで下さい。俺は……あいつ等の為なら迷わず動ける貴女の事を、心の底から魅力的だと思っているんですからね。」
「っ!」
……こんな言葉がルゥナさんに響くとは思わない。けど、ちょっとぐらい気持ちを持ち直してくれたなら万々歳って感じかな。
「あはは……すみません、いきなりこんな事を言われたって困りますよね。ただ……覚えておいて下さい。あいつ等は、ルゥナさんの事が大好きなんだって事を。」
「………ぃ…‥」
「はい?えっと……何か言いましたか?」
「……ふふっ、何でもありません。」
「……そうですか……」
まぁ、よく分からんがとりあえず少しだけ元気になってくれたみたいで良かった。落ち込んだ状態のまま別荘に戻ったら、ルゥナさんに何をしたんだっていちゃもんをつけられてボロカスに言われてただろうからな……
「……九条さん、ありがとうございます。」
「いえいえ……それじゃあ、帰りましょうか。」
「はい……!」
明るさを取り戻したルゥナさんの返事を耳にして思わず笑みを浮かべた俺は、心地よく吹いて来る夜風を浴びながら再び家路を歩き始めるのだった。
……その後、俺の背中から降りようとしたルゥナさんに押し倒されるという場面をあいつ等に見られるというイベントが発生した気がしたのだが……その辺りの記憶が何故かおぼろげなのできっと夢だったのだろう!うん!そうに違いない!!
「あっ、おはようございますルゥナさん。いや、今の時間帯だとこんばんはが正しい挨拶なのか?……まぁ良いや、とりあえず気分とか悪くなってないですか?」
「…………きぶん…………………っ!?な、なんっ?!どうしっ!?!?!!?!」
「あ~……すみません。もう夜も遅いので別荘に帰ろうと思ったんですけど、いくら起こしてルゥナさんが目を覚まさなかったのでこうして運ばせてもらっています。」
俺の腕の中でお姫様抱っこをされていたルゥナさんは酒のせいなのか顔を真っ赤にしながら口をパクパクと動かすと、両手を胸の前でグッと握ってうつ向く様な姿勢になり始めた。
「にゃ……なるほど、そういう事でしたか……」
「えぇ、起きて早々に不快な思いをさせたのなら申し訳ありません。」
「い、いえっ!そんな不快だなんて……こ、こんな風にされるのは幼い頃に見ていた絵本のお姫様みたいで凄くうれし……って、何でもありません聞かないで下さい!」
「お、落ち着いて下さいルゥナさん!その状況で暴れられると危ないですから!」
「あっ!す、すみませ……えっ!?く、九条さん!どうしたんですかそのお顔は!?傷だらけじゃないですか!も、もしかして私が何かご迷惑を?!」
「あぁいや、別にそういう訳じゃないんで大丈夫ですよ。コレはその……ついさっき転んじゃいまして……まぁ、そこまで酷いものじゃないんで気にしないで下さい。」
……流石に事のあらましを全部ぶっちゃける訳にはいかねぇもんなぁ……俺自身も久しぶりのアルコールで軽く酔ってたとはいえ、初対面の相手と喧嘩して何とか勝利しましたなんて自慢にもならねぇ話はしたくないし。
「そ、そう言われましても……と、とりあえず私を今すぐに降ろして下さい!そんな状態の九条さんにこれ以上は無理させられません!」
「わ、分かりました!それじゃあ、気を付けて下さいね。」
まだアルコールが抜けきっていないのか若干テンション高めのルゥナさんを静かに地面に下ろした……までは良かったんだけども……
「あ、あれ?私、どうして……」
「……もしかして、足腰に力が入らない感じですかね?」
「そ、そんな事は!う、う~んっ!」
ぺたんと地面に座り込んでしまったルゥナさんは唸り声を上げながら頑張って立ち上がろうとしていたんだが、どれだけ努力してもソレが実ってくれる気配は無く……
「何と言うか……あんまり大丈夫……では、なさそうですね……」
「うぅ……情けない姿をお見せして申し訳ありません……」
「いえいえ、そんな風に思ってませんから安心して下さい。それよりも……これからどうしますか?さっきと同じ様にして別荘まで……」
「そ、それはちょっと……!勘弁して頂きたいと……言いますか……」
「あー……やっぱり嫌ですよね。あんま親しくない奴に抱き抱えられるってのは……それじゃあ少しだけ待っていて下さい。別荘に戻って誰か」
「あっ、違います九条さん!そういう事では無くて……ですね……」
「……えーっと……それじゃあ……?」
何を勘弁してほしいのかよく分からずにそう尋ねると、ルゥナさんは視線を激しくあちこちに動かしながらまたもやうつ向いていってしまい……
「そ、その……あの格好をされてしまうと……九条さんのお顔が…………近くて……恥ずかしい……と、言いますか…………」
「…………な、るほど…………そうですね……えぇ………」
ぐっ!なるべくそういう事を意識しない様にしていたのに、まさかルゥナさんの方から指摘されてしまうとは……!分かってた事だが、マジで小っ恥ずかしすぎるぞ!
実は大通りを歩いている最中も、すれ違う人達から微笑ましいモノを見る目付きをされてたから夜空に視線を向けて誤魔化し続けていたと言うのに……!
「だ、だからその!えっと……こんな時間に別荘から生徒を連れ出すのもどうかなと思いますし……で、出来ればおんぶ……して下さると……なんて……」
「お、おんぶですか?そ、それはぁ………」
「あっ、もしかして……私……お、重かったですか?そ、それでしたら断って頂いて大丈夫ですから!歩ける様になるまでしばらくここで休んでます!」
「い、いえ!お、重いなんて事はありません!絶対に!た、ただ……うーん……」
この人、自分のスタイルについて自覚がないのか!?こちとらそう言う理由だからお姫様抱っこなんて柄にも無い事をしてきたっつうのに……!でも、本人を前にしてぶっちゃける訳にもいかねぇし……あぁもう、腹を括るしかねぇ!
「九条さん、本当にご無理なら私……」
「……いえ!大丈夫です!さぁ、どうぞ俺の背中に乗っかって下さい!」
「は、はい!それでは……えっと、失礼します……」
「っ!!」
うおおおおおおっ……!せ、背中越しに……ダメだダメだ!煩悩に飲まれるな俺!例え心地よい暖かさと夢の様な柔らかさが襲い掛かって来ていたとしても心頭滅却をして冷静さを取り戻すんだ!!
「よいしょっと……」
「んぐふっ!?」
「ど、どうしたんですか九条さん!?」
「い、いえ‥…気になさらないで下さい……!それじゃあ……行きますよ……!」
「は、はい。よろしくお願いします……」
む、無理だっ!意識しないなんてそんなの出来る訳が無い!だって刺激が強すぎて心臓が今にも張り裂けそうなんだもの!下手したら別荘に付く前に命果てる可能性があるぐらいだもの!それに良い匂いもしてきて頭がクラクラするんだものっ!!
……そんな自問自答を繰り返しながら脳味噌をオーバーヒートさせていると、首に回されていたルゥナさんの腕に込められていた力がキュッと強くなり始めた!?
「あ、あの……ルゥナさん………?」
「………すみません………」
「へっ?な、何がですか?」
「……あの子達の事や……お怪我の事です……それ……私が原因なんですよね?」
「な、何を言ってるんですかルゥナさん!さっきも言いましたけど、コレは斡旋所で転んで出来た物ですよ!……それよりも、どうしてあいつ等で……?」
突然の謝罪に戸惑いながらも背中に居るルゥナさんにそう聞くと、彼女はしばらく沈黙を続けた後に小さく息を吸い込んだ。
「私……あの子達の事を心の底から信じられていなかったんです……だから、何度も口うるさく危ない事はしない様になんて言って……でも、九条さんはあの子達の事を心の底から信じていて……それで一緒にダンジョンまで行って……ボスまで倒したりして……それなのに私は偉そうな事を言うばかりで何もしていなくて……だから……すみませんでした……貴方にも酷い事を言ったりして……私……教師失格ですね……本当なら……その役目は私がするべきだったのに……」
後悔……って言うのとはまた違うんだろうけど……ルゥナさんの口からそういった言葉を聞いた俺は、ゆっくり立ち止まって夜空で光り輝いている星々を見上げた。
「……ルゥナさん、俺は貴方の事をとても素敵な人だと思っています。」
「……えっ?」
さぁ、ここが今日一番の勝負所だ。覚悟を決めて、頭の中に思い浮かんでる言葉をぶつけてやるんだ!
「口うるさい……結構な事じゃないですか。それだけあいつ等の事を大切に思ってるって事なんですから。それに何もしていない?そんな事はあり得ませんよ。だって、貴女が居るからあいつ等だって気合を入れて頑張れたんですからね。それに酷い事を言った?教師失格?そんなバカな事は言わないで下さい。俺は……あいつ等の為なら迷わず動ける貴女の事を、心の底から魅力的だと思っているんですからね。」
「っ!」
……こんな言葉がルゥナさんに響くとは思わない。けど、ちょっとぐらい気持ちを持ち直してくれたなら万々歳って感じかな。
「あはは……すみません、いきなりこんな事を言われたって困りますよね。ただ……覚えておいて下さい。あいつ等は、ルゥナさんの事が大好きなんだって事を。」
「………ぃ…‥」
「はい?えっと……何か言いましたか?」
「……ふふっ、何でもありません。」
「……そうですか……」
まぁ、よく分からんがとりあえず少しだけ元気になってくれたみたいで良かった。落ち込んだ状態のまま別荘に戻ったら、ルゥナさんに何をしたんだっていちゃもんをつけられてボロカスに言われてただろうからな……
「……九条さん、ありがとうございます。」
「いえいえ……それじゃあ、帰りましょうか。」
「はい……!」
明るさを取り戻したルゥナさんの返事を耳にして思わず笑みを浮かべた俺は、心地よく吹いて来る夜風を浴びながら再び家路を歩き始めるのだった。
……その後、俺の背中から降りようとしたルゥナさんに押し倒されるという場面をあいつ等に見られるというイベントが発生した気がしたのだが……その辺りの記憶が何故かおぼろげなのできっと夢だったのだろう!うん!そうに違いない!!
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