おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第524話

「オラオラァ!これで……トドメだっ!!」

「うぇっぷ!……おいフィオ!モンスターを地面に叩きつけるなって言ってんだろ!全身が砂まみれになっちまったじゃねぇか!」

「ハッ、現役の冒険者様だったらソレぐらい避けろってんだよ。」

「いや、どう考えてもアレは避けられる距離感じゃなかったろうが……」

「貴様達、まだ全てのモンスターを倒し終えた訳ではないのだからお喋りをするのは程々にしておくのだな。油断していると痛い目を見るぞ。」

「はいはい、ご忠告どうも。そんじゃあ、最後の仕上げといくとすっか!」

「あっ、オイ!だから1人で突っ込むなって言ってんだろうが!クリフ、行くぞ!」

「ふっ、任せろ!」

「みんな~!がんばれ~!!」

 クアウォートを出て少し歩いた所にある海岸沿いで気の抜けそうなジーナの声援を聞きながらクエストの討伐対象となるモンスターを討伐をしていった俺達は、周囲の安全を確認した後に持ってきていた冷たい物に口を付けて一息ついていた。

「ふぅ~……ジーナ、結構な数のモンスターを倒してきたけどまだ素材集めを続けた方が良いのか?」

「当然!まだ目標の3割ぐらいしか集まって無いからね!この次は平原の辺りにまで行ってモンスターを倒してもらうからね!その後は森の方に生息してるモンスターを討伐してもらうよ!」

「はぁ……随分とまぁ俺達の事をこき使ってくれるもんだなぁ……」

「えへへ、まぁそう言わないでよ!素材が集まったら皆の為に専用のアクセサリーを作ってあげるからさ!」

 親指をビシッと立てながら微笑みかけてきたジーナと視線を交わしながらガクッと肩を落としていると、軽いストレッチをしていたフィオがため息を零しながら俺達の事をジトッとした目つきで見つめてきた。

「なぁ、素材集めを手伝うのは良いんだけどもう少し手応えのあるモンスターとかはいねぇのかよ。さっきからザコしか相手にしてねぇから飽きてきたぜ。」

「いや、飽きてきたか知らんけどはいそうですかって強いモンスターを相手にさせる訳にはいかないだろ。もしお前達に怪我でもさせたら、俺達がルゥナさんに怒られる事になっちまうじゃねぇか。」

「うんうん、九条さんの言う通り!それに手応えのあるモンスターって言われても、クアウォート周辺には皆が手こずる様なのは生息してないと思うよ?」

「チッ、マジかよ……あーあー……」

「いや、どうしてそこでやる気が無くなるんだよ……相手にするモンスターなんて、ザコなぐらい丁度良いんだぞ?わざわざ強いのと戦って怪我でもしちまったら折角の旅行なのに勿体ないじゃねぇか。」

「うっせぇなぁ……それでもオレはヒリヒリする様な相手と戦いてぇんだよ。」

「どうだけ戦いに飢えてんだよ……」

「ふっ、そうは言うが我としても理解の出来ない話ではないがな。」

「はぁ?クリフ、お前まで何を言ってんだよ。」

「何、単純な話だ。これまでの戦い、どう考えても戦力が過剰だとは思わんか。」

「それは……まぁ、俺もお前達もそれなりに実力はあるからなぁ。でも、だからってどうしろってんだ?ジーナも言ってたが、クアウォートの周辺には強敵になりそうなモンスターなんていやしないんだぞ。」

「うむ、確かにこの周辺には生息していない。だが……ダンジョンともなれば、話は別なのではないか?」

「……何だって?」

 不敵な笑みを浮かべて変なポーズをしながらゆっくり立ち上がりやがったクリフを見つめていると、頭の中に警報音がガンガンと鳴り響き始めて……

「先程、斡旋所で職員から聞いたのだがこの海岸を奥へ進んで行くと神鳴の洞というダンジョンが見えて来るらしい。もし仮に、そのダンジョンの最奥まで辿り着く事が出来るのならば……強敵と呼んでも差し支えない相手と戦えるのではないか?」

「……あぁ、なるほどねぇ……」

「オイオイ、2人してバカな事を考えるんじゃねぇぞ。」

「アァ?バカな事ってのはどう言う意味だよ?」

「どういう意味も何もそのままの意味に決まってんだろ。ダンジョンってのはマジで危険度が未知数でヤバい所なんだぞ。しかもクリフが言ってる強敵ってのはボスの事だろうが。そんな危ない所には絶対に行かないからな。」

「……まぁ、お前が行かないって言った所で素材を集めたいと思ってるジーナがどう言うかは分からないけどなぁ。」

「えっ!?わ、私?急にそう言われてもなぁ……うーん……」

「オイオイ、まさかとは思うがこいつ等にボスの相手をさせるつもりじゃ……」

「いやいや!私だって危険な事はして欲しくないよ!今日の素材集めだって皆の実力ならって相手を選んでる訳だしさ……だけど、ボスから採れるレア物の素材もかなり興味がある訳でして……と、とりあえずダンジョンの場所だけ確認してみようよ!」

「……頼むからそこは大人としてキッパリ断ってくれよ……」

「ハッ、決まりだな。そんじゃあ行くとしようぜ。おいクリフ、ダンジョンは海岸の奥にあんだよな。」

「うむ、真っすぐ進んで行けば見えて来るらしい。」

「そうかそうか……オラ、さっさと立ちやがれ。」

「はぁ……仕方ねぇなぁ……」

「あはは……何と言うか……ごめんね?」

 本当に悪いと思っているのか分からない謝罪をされながら皆と一緒に海岸を歩いて行くと、大きな穴の開いた岩場らしき所が見えてきた。

「ふーん、ここが神鳴の洞ってダンジョンか……」

「どうやらその様だな……それに奥の方から何やら甲高い鳴き声らしき音が……」

「……コレ、多分だけど風の音じゃないか?」

「うん、きっと外に通じてる所から風が吹いてきてるんだろうね。」

「へっ、名前の由来はどうでも良いっての。それよりも……」

「ちょっ、待てって!勝手に入ろうとすんじゃねぇよ!ダンジョンってのはちゃんと手続きをしてから挑まないといけないだから。」

「チッ、ちょっとぐらい良いじゃねぇかよ。」

「ダメだ!斡旋所の人達に迷惑を掛ける訳にはいかないだろ。ほら、満足したんなら戻るぞ。まだ素材集め自体は終わってねぇんだから。」

「ハァ……分かったよ、言う通りにすりゃあ良いんだろ。」

「あぁ、ご理解頂けた様で何よりだよ……ジーナ、フィオが飽きちまう前にさっさと次の目的地に向かうとしようぜ。」

「了解!それじゃあ一度、街の方に戻ってから平原まで行ってみようか!」

「うむ、今回は九条に従ってやろうではないか。」

「ったく、どうしてお前はそう上から目線なんだか……」

 どうにも舐められている気がしないでもないままダンジョンを離れた俺達は、再びジーナの求める素材集めを再開させるのだった。

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