おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第517話

 着替えが入ったバッグや借りてきた道具が入ってる袋、それと休憩スペースを作る為に必要な大きめのレジャーシート等を担いで海岸の少し手前で馬車を降りた俺達は運転席側に歩いて行くと御者さんに礼を告げるのだった。

「それでは皆様、私は一度別荘の方へと戻らせて頂きますね。夕方頃に迎えに来ますので、その時までどうぞごゆっくりお過ごし下さい。それでは失礼致します。」

 微笑を浮かべながら小さくお辞儀をしてくれた御者さんを見送った俺達は、改めて荷物を持ち直すと綺麗で広大な海を横目に見ながら更衣所を目指して歩き始めた。

「おぉ~!やっぱりクアウォートの海って凄いんだね!何かもう、今すぐにでも駆け出して飛び込んじゃいたい気分になってきたよ!」

「そうですよね!この感動、そして興奮!記者としてこんな事をいうのもどうかとは思いますけどコレはカメラと文字だけでは伝えきれませんね!」

「2人共、気持ちは分からんでも無いけどあんまりはしゃぎすぎるなよ。怪我なんかしたら大変なんだからな。」

「あははっ、心配してくれてありがとね九条さん!でも大丈夫っ!こう見えても身体能力はかなり高い方だからね!」

「わ、私も身体能力には自信がありますから問題ありません!」

「……オレット、君の戦闘実技の成績って下から数えた方は早い気が……」

「シ、シッー!エルアちゃん、余計な事は言わないの!」

「やれやれ……何かもう、色々と不安になってきたな…‥」

「九条さん、2人には私が付いていますから安心して下さい。」

「……すみませんが、よろしくお願いします。」

「あ、あれぇ?おっかしいな……まるでこの私が問題児みたいなやり取りがされてる気がするんだけど……まぁ、いっか!それよりもほら、更衣所まで来たんだから早く着替えて海へ遊びに行こうよ!」

「ジ、ジーナさんの言う通りです!こんな所でお喋りをして時間を潰している余裕はありませんよ!さぁ、急いで着替えに行きましょう!」

「はいはい、分かったから少し落ち着けっての……」

 瞳をキラキラと輝かせながら興奮しているジーナに少しだけ呆れつつ更衣所の前で女性陣と向かい合う事になった俺は、ため息を零しながら額に流れる汗を拭った。

「それでは皆さん、すみませんが休憩場所の設営をお願いしますね。」

「えぇ、了解しました。」

「ふっ、我が能力を使って完璧なモノを仕上げておこうではないか!」

「へぇ、そこまで言うなら楽しみにさせてもらうわよ。」

「ハッ、半端なモンを作りやがったら覚悟しろよ?」

「う、うむ!良いだろう!我らに任せておくがいい!」

「コ、コイツ……サラッと俺まで巻き込みやがった……!」

「はっはっは!お主達、後の事は頼んだぞ!それはな!」

「ふふーん!私達の水着姿、期待しながら待っててよね!」

「うぐっ……そう言えば……どうしよう、やっぱりあっちの水着の方が……うわっ!何をするんだオレット!」

「ダメだよエルアちゃーん、ここで逃げるなんて許さないからね!ジーナさん!」

「よいしょっ!」

「ふ、2人共いきなり何をするんですか!?あっ、待って下さい!引っ張らなくても逃げませんってば!ちょっと、聞いてますか!?あ、ああああぁぁぁぁ………」

 ジーナとオレットさんに両脇を抱えられながら女子更衣所に消えていったエルアの姿を黙って見送った俺は、呆然のその場に立ち尽くしてしまい……

「エルア……連行されてったな……」

「うむ……そうだな……」

「うふふ、それじゃあ僕達も着替えに行きましょうか。」

「……あぁ、そうするか……って、アレ?イリス、お前がどうしてここに……」

「九条透……暑さで頭がおかしくなったのか?イリスの性別は男だぞ。」

「あっ、そうか……ボーっとしてたせいで一瞬だけ忘れてた……」

「へぇ、そうなんですか?だったら……僕と一緒に着替えをして、改めて確認をしてみますか?九条さんになら、僕の全てを見てもらっても構いませんよ。」

「ア、アホか!ここでそんな事をする訳ないだろうが!ほら、さっさと行くぞ!」

 背筋がゾクッとする様な微笑みを浮かべているイリスから逃げる様に男子更衣所の中に早足で入って行った俺は、建物内の涼しさに色々な意味で助けられてホッと胸を撫で下ろすのだった。

 そうこうしていると後ろから2人が遅れてやって来て、何とも情けない姿を晒している俺の少し前に立ってパッと振り返ってきた。

「九条透、そんな所で呼吸を整えている場合では無いぞ。早く着替えて完璧なる休憩場所を確保しなければ我々はあの者の手に寄って地獄を見る事になるのだぞ。」

「いや、誰のせいでそうなったと思ってんだよ……仕方ねぇな、さっさと準備をして外に出るとするか。」

「あっ、すみません。僕は少し遅れて行きますので後の事はお願いしますね。」

「何だと?オイ、どういう事だイリス。俺達に分かる様に訳を説明しろ。」

「うふふ、良いですよ。僕が遅れる理由はただ1つ……九条さんには青空の下で僕の完壁は水着姿を見て欲しいからです。」

「……はっ?えっ、それは……んん?」

「そういう事なので休憩場所の設営、頑張って下さいね。応援していますよ。」

「……………」

「……まぁ……何だ……我々も行くとするか……」

「……おう……」

 有無を言わさず一足先に更衣所の奥に行ってしまったイリスの後に続いて着替えに向かった俺達は、どう表現するのが正解なのか分からない感情を抱きながら海岸へと向かって行くのだった……

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