おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第479話

 理不尽な絡まれ方をしてから数日後、もしかしたら学園での発言がフラグになって逆に毎日の様に絡まれてしまうのでは……?

 なんて不安を家に帰ってから抱いたりもしたが、特に何事もなく講師活動は進んでいって無事に休日を迎える事が出来た俺は大きな紙袋を片手に持って雨が降っているせいでジメジメしている王都の大通りをマホと一緒に歩いていた。

「えへへ~!おじさん、やっぱり王都の本屋さんは凄かったですね!」

「あぁ、トリアルにある本屋とはレベルが違ってたな。置いてある種類の本もかなり多かったし、雨が降ってるって言うのに賑わってる理由がよく分かるわ。」

「そうですね!っと、そう言えばおじさん。今日の晩御飯はどうしましょうか?折角ですしお外で食べて行きますか?ロイドさんとソフィさん、今日はルゥナさんや女子生徒の皆さんと一緒ですから帰りは遅くなるって言ってましたし。」

「あ~そう言えばそうだったな……わざわざ2人分の飯を作るのも面倒だし、今日は外食にするか。まぁ、その前に昼飯を何処で食うのか考えないとだけどな。」

「ふっふっふーん!それについては任せて下さい!実はですね、昨日の内に行きたいお店を探しておいたんです!ご案内しますからついて来て下さい!」

「はいはい、分かったらそう急かすなって………ん?」

「……おじさん?急に立ち止まったりしてどうかしたんですか?」

 こっちに近寄って来て小首を傾げながら不思議そうに俺の事を見上げて来たマホと視線を合わせた俺は、眉をしかめながらガックリと肩を落として顔を下げていった。

「マホ、悪いが少しだけ時間をくれるか……」

「えっ?まぁそれは別に構いませんけど……もしかして、あの薄暗い路地の向こうに何か見ちゃったんですか?」

「……非常に運の悪い事にな。」

「……はぁ……分かりました。私はすぐそこの喫茶店に行っていますので、面倒事が片付いたら早く迎えに来て下さいよ。」

「すまん……あっ、念の為に財布は預けておくな。それと頼みたい事があるんだが、紙袋をカラにして持っていきたいから本を持っておいてくれるか?」

「了解しましたよ。おじさん、怪我だけはしない様に気を付けて下さいね。」

「おう、分かってるよ。そんじゃあ行ってくる。」

「はい、行ってらっしゃい。」

 マホに見送られながら大通りよりも更にジメジメッとした裏路地に足を踏み入れた俺は、息を殺してなるべく足音を立てない様にしながら奥へ奥へと進んで行き……

「へっへっへ、こんな所までノコノコついて来るなんてバカなお嬢ちゃんだな。」

「……ったく、またこの展開かよ。」

 建物の陰から少しだけ顔を出して覗き込んだ先に待っていたのは、ニヤニヤと笑いながら壁際に立ってるヤン子を取り囲んでいる3人の男達だった。

「ふっ、どうしたオイ?もしかして怖くて声も出ないってか?」

「大丈夫だって、優しくしてやるからさ!」

 うへぇ、見た目もそうだけど台詞までテンプレートかよ……もしかして、あの手の連中が通っている専門学校でも存在してんのか?って、そんな事はどうでも良いか。

「はぁ……以前は絡まれているイリスの方が被害者に見えたが、今回ばかりは配役が逆になってるな。このままだと血を見るのは……」

 そうなったらこの後に起こる可能性が高い展開は恐らくヤン子の停学か退学か……そんでもってまたまた俺達も巻き込まれて、テメェに借りなんて作らねぇよみたいな面倒なやり取りが発生して………悪いが、そんなのは絶対にゴメンだな。

「オイ、何とか言ったらどうなんだ?」

「っと、こんな所でボーっとしてないでさっさと準備に取り掛かるとするか。」

 これ以上あの男達を調子に乗らせない為に紙袋を被って視界を確保する為に両目の部分に穴をあけた俺は、静かに傘を折り畳むと雨で濡れている地面を勢いよく滑っていき両腕を頭の上でクロスして大きく股を開きながら4人の前に姿を現した!

「うおおっ!?な、何だテメェ!?」

「フッ、名乗る程の者でも無い!そんな事よりもそこに居る青少年達!こんな薄暗い路地に少女を連れ込んで何をしているんだ!」

「う、うるせぇ!テメェにゃ関係ねぇだろうが!」

「いや!関係大ありだ!私は正義の味方!悪事は決して見逃せないのだ!フンっ!」

 男達はどうでも良いがヤン子にだけは絶対に正体がバレたくないので自分でも頭がおかしいと思える様なキャラを演じ切る事にした俺は、クロスしていた両腕を開いてビシッと目の前に居る男を指差した!

「な、何だコイツ?いきなり現れたと思ったらふざけやがって……!」

「オイ、そいつボコして身ぐるみ剥いでやろうぜ!」

「だな!何処の誰だか知らねぇが、ぶっ飛ばしてやるよ!オラァ!」

「甘いっ!」

 一番近くに突っ立ってた男が勢いを付けて殴り掛かって来た次の瞬間、ギリギリの所で攻撃を躱《かわ》して側面に回り込んだ俺は目の前を通り過ぎて行った右手を捻り上げて男を壁に押し付けた!そしてぇ……!

「ぐっ!このやろっ!はなしやがぁっ?!」

「んぅ~!素晴らしい腹筋だねぇ……柔らかくて触り心地も良くて、それに水を弾く若さもある……おぉ~う……!」

「ひ、ひぃ!!や、やめっ、やめろぉ!」

「おっとっと、そんなに暴れないでおくれよぉ!楽しい時間はまだまだこれから……そして彼が終わったらぁ……次は君達の番だよぉ!んっあぁ~!」

「お、おい!マジで何なんだアイツ!?」

「わ、分かんねぇよ!と、とりあえず……逃げるぞ!」

「あっ!ちょ、ちょっと待ってくれよ!頼む!助けてくれええええ!」

「はっはっは!さぁどうする?お仲間は逃げてしまったみたいだけど……もっ!」

「ご、ご、ごめんなさい!もうこんな事はしないので許して下さい!お願いです!」

「ん~!それはぁ……本当かなぁ?」

「は、はい!絶対!絶対こんな事はしません!」

「おぉ~う……良いだろう、今回は許してあげようじゃないか。」

「ほ、ほんとうひぃ!?」

「た・だ・し……次はぁ……無いからね?お友達にもそう伝えるんだよ?」

「は、は、はいいいいい!!!!」

 ……よっぽど俺が恐ろしかったのか落とした傘も拾わず地面を転げまわる様に逃げ出した男の姿が見えなくなるまで見送った俺は、この場からすぐに立ち去る為にすぐヤン子に背中を向けた!

「お嬢さん、これでもう大丈夫!私はこれにて失礼するが、次は気を付けるんだ」

「ちょっと待てよ……テメェ、九条透だろ?」

「っ!?!?!は、はて……い、一体誰の事だろうか?」

 えっ、嘘だろ?こんなぶっ飛んだキャラを演じているのに速攻でバレたのかっ!?いやいや、そんなはずはない!き、きっとただの勘に決まってる!

「とぼけてんじゃねぇよ。こっちはあのクソ野郎の攻撃を避けた時の体捌きを見た時からテメェの正体は分かってんだよ。」

「は、はははっ!お嬢さん!な、何を言っているのかな?」

「チッ、ふざけやがって……折角ここまで調子に乗ってるクズ共を誘い込めたのに、テメェのせいで台無しだよ。マジでどうしてくれるんだ、アァ?」

 ヤ、ヤバい!!振り返らなくても分かる!完全にブチ切れていらっしゃる!ってかやっぱりあいつ等をボコボコにするのが目的だったんじゃねぇか!何なのこの子!?どうしてそんなに血気盛んなの!?親御さんの顔が見てみたいよ!!

「……まぁ良い、丁度良い機会だ。あの時のリベンジをさせてもらうぜ……!」

「っ!な、君達はっ!?」

「アッ?……あっ、テメェ!」

 大声でさっきの連中が戻って来た風の演技をしたおかげでヤン子の視線が一瞬だけ逸れたその直後、俺は辿って来た道を全速力で駆け出して行った!

(マホ!用事は終わった!10分ぐらいしたら戻るからもうちょい待っていてくれ!)

(はいはーい、分かりましたー。)

「オイ、止まりやがれ!」

「ひ、ひぃ!追いかけて来やがった!?」

 雨なのか、はたまた恐怖心から溢れてきた涙なのかは知らないが顔面をずぶ濡れにしながら俺は必死の思いでヤン子から逃げ回り続けるのだった!!

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