おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第451話

 翌朝、それぞれの家から迎えに来ていた馬車に乗り込む事になった俺達は貴族街に入ってすぐの所でユキと別れるとレミに教えられた時間の15分前ぐらいにロイドの実家に到着した訳なんだが……

「おや、私の気のせいだろうか……どうにも警備が厳重な気がするな。」

「……ロイド、恐らく気のせいじゃないと思うぞ。」

「うん、空気がピリピリしてる。」

「はい、ちょっと怖いですよね……レミさん、もしかして昨日の件に関係が?」

「ふむ……数日前からエリオが難しい顔をしておった様な気はするが……すまんな、わしもどうしてこんな状況なのかはよく分からんのじゃ。」

「そうか…………あーヤバい、メチャクチャ帰りたくなってきたなぁ……」

「お、おじさん!ここまで来て何を言ってるんですか!無茶を言わないで下さい!」

「いや、でもさぁ……この空気はどう考えても異常だぞ……?まぁ、だからって逃げられる状況って訳でもねぇんだけど……」

「それが分かっているなら諦めて下さいね。ほら、馬車が停まりましたよ。」

 マホが何とも言えない表情を浮かべながらそう告げた十数秒後、御者さんが馬車の扉を開けてくれたので渋々といった感じで外に出て行くと屋敷の方からカームさんがこっちに向かって歩いて来て深々とお辞儀をしてきてくれた。

「ロイド様、レミ様、お帰りなさいませ。そして九条様、ソフィ様、マホ様、本日は急なお誘いにも関わらずようこそお越し下さいました。感謝しております。」

「あぁいえ、そんなそんな……」

「カーム、挨拶の途中を悪いんだがこの状況について説明してくれるかい?何時もはこんなに警備隊の者は居ないはずなのに、一体どうしたんだい?」

「……詳しい事はまだ申し上げられないのですが、本日はお客様が来ているんです。その影響で警備の数を増やす必要がありまして。」

「ふむ、そうなのか……」

「あ、あの!それって私達が居ても大丈夫なんでしょうか?もしご迷惑な様でしたら私達は失礼した方が良いのでは……?」

「いえ、その必要はございませんのどうかでご安心を。それでは皆様、ご当主様達が執務室でお待ちしておりますのでご案内させて頂いてもよろしいでしょうか。」

「あっ、はい。それじゃあよろしくお願いします……」

「かしこまりました。それでは私の後に続いて来て下さいませ。」

 再びお辞儀をしてきたカームさんは顔を上げると屋敷に向かって歩き始めたので、俺達も言われた通りについて行く事にしたんけども……やっぱりと言うか何と言うか屋敷内も外と同じ様にピリッとした空気がしていやがった……!

 それを感じた瞬間に頭の中で危険を知らせるアラートが爆音で鳴り響き始めたが、退路を断たれた俺は誰にもバレない様にため息を零す事しか出来なかった。

「ご当主様、皆様をお連れ致しました。」

「……うむ、それでは入って貰ってくれ。」

「かしこまりました。」

 そうこうしている間に執務室の前までやって来ちまった俺達は、扉を開いてくれたカームさんに視線で促されるまま室内に足を踏み入れていった。

「おはよう2人共、しばらくぶりだね。元気にしていたかい?」

「えぇ、勿論よ。ロイドちゃん達も元気そうで何よりだわ。さぁ、そんな所に立ってないでこっちにいらっしゃい。」

 今までと変わらず穏やかな笑みを浮かべたカレンさんにそう言われて部屋の奥までやって来た俺は姿勢を正すと、こっちを見て来ているエリオさんと視線を交わした。

「お久しぶりです。そして改めてになりますが、ご旅行ありがとうございました。」

「いえ、アレは娘を救って頂いた感謝の気持ちですので礼には及びません。それより本日は急にお呼び出しして申し訳ございませんでした。」

「ははっ、特に予定もありませんでしたからお気になさらないで下さい。」

「うむ、九条相手に気を遣う必要は無いぞ!」

「オイ、それはお前が言う事じゃあ……いや、それはまた後だ。エリオさん、早速で悪いんですが俺達に頼みがあるそうですが……どんな内容なんですか?」

「はい、それなんですが……まずはこちらの封筒をお受け取り下さい。」

「ふ、封筒……ですか?」

 エリオさんからスッと差し出されてきた白い封筒を戸惑いながら受け取った俺は、何気なく手に触れた硬い物に反射的に視線を落としてみたん…………どぅえっ!?

「おや、この蝋印は……父さん、私の間違いでなければコレは王都から送られてきた手紙かい?」

「……あぁ、その通りだ。」

「ちょ、ちょっとおじさん!今度は一体どんな事をやらかしちゃったんですか!」

「ま、待てよ!どうして俺が何かした前提なんだ!?つーか何にもしてねぇよ!」

「そ、それじゃあどうして王国からおじさん宛にお手紙が届いたんですか?!」

「そ、そんなの俺が知る訳ないだろ?!ってか本当に俺に宛てられた手紙かどうかも分からねぇし……!」

「封筒の裏、名前が書いてある。」

「えっ、うわっマジだ!」

「ほ、ほらぁ!やっぱりおじさんに届いた手紙なんじゃないですか!そ、それで?!内容は!どんな事が書いてあるんですか!?」

「わ、分かんねぇよ!クソっ、どうしてこんな……!」

「九条さん、とりあえず封を解いて中を見てみたらどうだい?もしかしたら、普通にごくありふれた内容の手紙が入っているだけかもしれないよ。」

「……そうである事を祈るけどさぁ……」

 トキメキとは違う意味合いで心臓をバクバクさせながら折り畳まれていた小さくて白い紙を取り出した俺は、両隣に居る皆にも見える様にソレを開いていった……

【九条透様、並びにギルド『ナインティア』の皆様へ

 この度は皆様にご依頼したいクエストがありまして手紙を送らせて頂きました。

 クエスト内容:王立学園にて数日間に及ぶ講師活動。
 報酬:1日につき10万G

 詳細につきましてエリオ・ウィスリム侯爵よりお聞き下さい。

                            ケイル・リエンダル】

「…………………」

「お、おじ、おじ!おじさっ!?」

「これは……ちょっと驚きを隠せないな……」

「………?」

「ほほぅ、中々に面白そうなクエストではないか。それに報酬も良いな……エリオ、この手紙は確かな物なのであろうな?」

「えぇ、間違いありません。」

「そうかそうか……良かったではないか九条!この依頼、是非とも引き受けるべき」

「すみませんエリオさんこのクエストはお断りさせて頂きます!!」

「な、なんじゃとっ!?」

 フリーズしていた思考が動き出した次の瞬間に腰を直角に曲げた俺はエリオさんに向かって深々と頭をさげるのだった!

「ちょちょ、おじさん何を言ってるんですか!?断るって……ソレ本気ですか?!」

「あぁ本気だ!こんな依頼、引き受けてたまるかってんだ!」

「ど、どうしてですか!?報酬だって悪くなさそうですし……そもそもコレって王国から直々に頼まれているクエストなんですよ?!それなのに!」

「そんな事は知った事か!ようやっと落ち着きのある暮らしが戻って来たってのに、こんな死地に飛び込んでいられるかよ!つーか学園だぞ?!俺の天敵とも言える様な若い連中が大量に居る場所だぞ!?そんな所に行くなんて冗談じゃねぇよ!そんな訳なんでエリオさん、すみませんがこの依頼は正式に」

「あらあら、そんな悲しい事を言わないで下さい。」

「ひぃうっ!?……そ、そんな……今の声は……ま、まさか……!?」

「ふふっ、ご無沙汰しております……九条さん。」

 背後から聞き覚えのある声が唐突に聞こえてきて反射的に振り返った次の瞬間……視線の先にこの場に居るはずのない奴が微笑んでいる姿が映し出されるのだった!?

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品