第442話

「………………」

「……ユキよ、さっきからボーっとしておるがどうしたんじゃ？もしやとは思うが、故郷を離れるのが不安になってきおったのか？」

「ハァ？小さい子供じゃ無いんだからそんな……って言いたい所なんだけど、少しも不安が無いって言うのは嘘になるわね。」

「うむうむ、分かるぞその気持ち！わしもクアウォートを離れる時は寂しく感じて、涙目で前が見えんかったからのう……」

「……マホ、あの時にレミって泣いてたっけ？」

「いえ、特にそんな覚えはありませんが……」

「ふふっ、きっと夜中に枕を涙で濡らしたという意味なんじゃないかな。」

「……？」

「ロイド、その説はちょっと現実味が無さすぎるぞ……ほれ見ろ、ソフィなんか眉をひそめながら首を傾げてやがるぞ。」

「まぁ、仕方ありませんね。レミさんがそう簡単に涙を流すとは思えませんから。」

「うん、確かに今のは無理があったかもしれないね。」

「そうそう、レミの場合は寂しさ何て何処へやら……目の前にある菓子にバリバリと食いつくだけの神様だっていたっ！？」

「はっはっは！九条、わしが目の前におると言うのに良い度胸じゃのう……？」

「いて、いててて！ちょ、足を踏んでグリグリすんなっての！いててててて！」

「……はぁ……先が思いやられるわね……ってそうだ、リリアとライルが別の馬車に乗っている間に聞いておきたい事があるんだけど良いかしら。」

　街道に出てからしばらく経った頃、隣に座り込んで俺の足を踏みつけてきたレミと一進一退の攻防を繰り広げているとユキが少しだけ真剣な表情を浮かべながらそんな事を言ってきた。

「あぁ、別に構わないよ。それでユキ、聞きたい事って言うのは何なんだい？」

「うん、別に大した事じゃ無いんだけど……九条、アンタって神を殺した事ある？」

「はっ？えっ、いや、な、なんでそんな事を急に……って、いい加減に止めんか！」

「ふぬぅ……まぁ良い、今はユキに免じて許してやろう。それで、何の話じゃ？」

「だから、ソイツが神をぶっ殺した事があるのかどうか聞いてるのよ。」

「あぁ、その事か。うむ、確かに九条は神を殺したぞ。このわしと共にな！」

「ふーん、やっぱりそうなの……教えてくれてありがと。あっ、そう言えばこれから行く王都ってどんな所なのか詳しく」

「いやいやちょっと待てよ！さっきの質問はどう言う意味だよ！？」

「ハァ？どういう意味も何も、ちょっと気になったから聞いてみただけよ。」

「き、気になっただけって……そもそも、何でお前がその事を知ってるんだ？俺達、その話は一回もしてないだろ？」

「えぇ、あの２人に気を遣って話してなかったんでしょ？」

「……それならどうして知ってるの？」

「別に知ってたって訳じゃないわよ。ただそれらしい雰囲気を九条から感じてたってだけ……だからこうして質問してみたの。」

「雰囲気って……そんなの見ただけで分かるものなんですか？」

「うーん、人間には難しいと思うけど神様なら分かるんじゃない？」

「へぇ、そういうものなのか……それではもしかしてレミも？」

「うむ、まぁそうじゃな。」

「お、おいおい……何を呑気に頷いてやがるんだよ！そ、その神を殺した雰囲気……ってのは時間が経てば俺の体から消えるんだよな？って言うか、そんなのがあっても大丈夫なのか？もしかしてアイツに呪われたとかって話じゃあ……」

「いやいや、そんなに心配する必要はないぞ！お主の言う通り時が経てば消える……はずじゃ！」

「は、はずって……お前、そんな適当な……」

「まぁまぁ、レミさんが心配する必要ないって言ってるんですから大丈夫ですよ！」

「そうじゃそうじゃ！わしを信じて安心するが良い！ただまぁ……うむ……しばらく厄介事に巻き込まれてしまう確率は上がってしまうかもしれんが……まぁ、お主なら何とかなるじゃろう！」

「いやいや、それでどう安心しろってんだ？！つーかお前、知ってたんなら最初から教えててくれりゃ良いじゃねぇか！どうして今まで黙ってたんだよ！？」

「………すまん、気に留める必要が無いと思ったので言うのを忘れておった。」

「なっ！？」

「……あっ、おじさんがショックのあまり固まってしまいました。」

「ふふっ、やっぱり九条さんと一緒に居ると退屈せずに済みそうだね。」

「うん、ワクワクしてきた。」

「……まぁ、死なない程度に頑張りなさいね。」

　もしかして……今回の騒動もソレが原因なんじゃないのか……？なんて考えが頭の中に浮かびながらも……俺は思考が停止したまま背もたれに倒れ込むのだった……