おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第423話

「いらっしゃいませ、スノードの販売店へお越し頂きましてありがとうございます。そしてお帰りなさいませ、アリシア様。」

「えぇ、ただいま。それでは皆さん、2階にある執務室に向かいましょうか。そこでお父様とお母様とシアンがお待ちしておりますので。」

「あぁ、分かった……けどアリシアさん、スノードって言うのは?もしかしなくてもこの店で取り扱っている商品の名前……って事で良いのか?」

「はい。詳しいご説明は後で致しますので、今は私の後について来て下さい。」

「お、おう……」

 そう言われてはどうする事も出来ないのでとりあえずアリシアさんの言葉に従って歩き出した俺達は、受付を超えた先にあった階段を上って行くとその先に待っていた大きな扉の前に並び立つのだった。

「お父様、お母様、皆さんをお連れ致しました。」

「……分かった、入って貰いなさい。」

「はい。それでは皆さん、中へどうぞ。」

 ガチャッとドアノブを下げて扉を開いたアリシアさんに言われるがまま部屋の中に入って行くと、ソファーに座ってニコニコっとしているシアンと目が合って……

「おはようございます皆さん!お待ちしておりましたよ!さぁ、こちらへどうぞ!」

「うおっとと!?ちょっ、シアン!?急に手を引っ張られたら……っ!?」

 少しだけよろけそうになりながらチラッと視線を動してみると、初めて会った時と変わらず……いや、それ以上に鋭い眼光でこっちを見ているラウザさんとシャーリーさんのお姿があった訳でして……!

「……皆さん、ご無沙汰しております。まさかノルウィンドで再会をするとは思っていませんでしたが、お会い出来て喜ばしい限りです。」

「は、はい!俺達もラウザさんやシャーリーさんに会えて本当に嬉しいです!あっ、もしよろしかったらこちらをどうぞ!お口に合えば良いのですが!」

「あら、これはどうも。有難く受け取らせて頂きます。」

「え、えぇ!どうぞどうぞ!」

 お土産を渡し終えてそそくさと後ろに下がった直後、他の皆も久々に会った2人と軽い雑談を交えながら挨拶をしていたんだが……

「……九条さん、レミさん、その節はお見舞いにも行けず申し訳ありませんでした。何度か伺おうとはしたのですが、その度に仕事が入ってきてしまって……」

「いやいやそんな!そのお気持ちだけで充分ですよ!」

「うむ、仕事では抜け出せんのも仕方あるまい。」

「そ、そうですよ!それにほら、ご覧の通り今はピンピンしてますから!そんな風に気にする必要はありませんから!」

「……ありがとうございます。そう言って頂けると救われた思いです。」

「九条さん、レミさん、本当に感謝いたします。」

「あぁいえ、別にお礼を言われる事では……」

 この街に来た理由を話したらこんな流れが待ってるなんて予想してなかったぞ……って言うか、ここまで申し訳なさそうにされるとこっちが気まずいんですけど!?

「お父様、お母様、九条さんとレミさんが困っていますのでこのお話はコレぐらいにして、本題であるスノードについてご説明してあげたらいかがですか?」

「あっ!そ、そうですね!実はさっきから気になってたんですよ!なっ、マホ!」

「……はい!どんな物なのか詳しく聞いてみたいです!お願いしても良いですか?」

「……分かりました。私達の反省に付き合わせて皆さんの時間を無駄にしてしまう訳にはいきませんからね。」

 一瞬だけヤレヤレといった感じの表情を浮かべたマホが即座に話を合わせてくれたそのすぐ後、ガドルさんは小さなため息を零しながら顔をあげてこっちを見てきた。

「それでガドルさん、スノードとは一体どんな物なんですの?下の階に置いてあった長い板をそう呼んでいらっしゃいますの?」

「えぇ、その通りです。皆さんは、スキーと言う遊びをご存知ですか?」

「スキー……ですか?いえ、初めて聞きました。皆さんはいかがですか?」

「……聞いた事ない。」

「私も初めて耳にしましたわ。」

「勿論、わしは知らん!」

「私は少しだけなら。確か雪の上を滑る遊びだったよね?もしかして、下の階にあるアレがスキーをする為の道具なのかな。」

「……まぁ、話の流れからするとそうだろうな。大方、あの長い板に乗って雪山の上から滑って行くって感じなんだろうよ。」

 って知らないフリをしてるけど、本当はコレが正解って知ってるんですけどね……つーか異世界でスキーを紹介されるとか、マジで予想外過ぎだろうが……

「九条さんの仰っている通りです。スキーとはノルウィンドに古くからある遊びで、長い板の上に足を固定して雪山を滑り落ちるというものになっております。」

「す、滑り落ちるですか……何だか怖そうですね……」

「いえ!コレが慣れると凄く面白いんですよ!ですよね、お姉様!」

「え、えぇ……まぁそうね……慣れれば……面白いわ……」

「……九条よ、もしなしなくてもアリシアの奴は……」

「レミ、ここは黙って話を進めよう……」

「……それもそうじゃのう。」

 満面の笑みを浮かべているシアンとは対照的に表情が曇り出したアリシアさんから視線を逸らした俺は、次の質問をする為に小さく手を上げてガドルさんの方を見た。

「あの、ちょっと良いですか。スノードって魔力を込めて扱う物……なんですよね?具体的にはどんな事が出来るんですか?」

「そうですね。簡単にご説明すると、スノードは雪の上を自由自在に動ける様になる道具なんです。」

「……自由自在ってどういう事?」

「言葉通りの意味です。これまで使用されてきた道具……スキー板やスノーボードと呼ばれている物はただ単に雪山を滑る事しか出来ませんでしたが、スノードは加速や減速を魔力を使って操れる様になっているんです。」

「えっ!?す、凄いですね……!」

「ありがとうございます。それでは早速ですが本題に入らせて貰いますね。皆さん、もしよろしければスノードを受け取ってはいただけないでしょうか。」

「………………はい?受け取ってって……えっ?」

「ふむ、それはもしかしてプレゼントしてくれる……と言う意味ですか?」

「はい、その通りです。」

「おぉ!これは太っ腹じゃのう!良かったな、九条!」

「………いや、いやいやいやいや!そんな貰えませんよ!いやだって、さっき値段を見たら10万Gぐらいしましたよ!?そんな高価な物を頂く訳には!」

「九条さん、ご遠慮なさらないで下さい。これは私達の為でもありますので。」

「はっ?それってどういう……」

「要するに、皆さんにはスノードを使用して頂いて知名度を上げて頂きたいのです。そうすればクアウォートの時と同じ様に更なる売り上げが見込めますから。」

「お、お母様!そんなハッキリ仰られたら……」

「申し訳ございません、隠し事は主義ではありませんので。」

「あぁ、はぁ……まぁ別に良いんですけど……」

「それでいかがでしょうか?別に難しい事をして欲しい訳ではありません、皆さんはスノードを使って楽しんで頂ければそれでよろしいんです。」

「そ、そうですか…………どうする?」

「ふふっ、私は別に構わないよ。ただ遊んでいるだけなら苦労は無いからね。」

「……やりたい!」

「私もです!おじさん、この依頼を引き受けましょう!折角のご厚意なんですから、ここで甘えないのは損と言うものですよ!」

「うむ、皆が得をするのならそれで良いではないか。」

「私もロイド様のご意見に賛成ですわ!それにアリシアさんからのご指導も楽しみにしておりますので。」

「あ、あはは……私も、特に異論はありません。」

「……ふぅ、それじゃあ決まりだな。」

 満場一致でスノードを受け取る事を決めた俺達は、ラウザさんとシャーリーさんにお礼を言って執務室を後にするとアリシアやシアンと1階に降りて行くのだった。

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