おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第383話

「……カーム、御者から話は聞き出せたか。」

「いえ、それが……馬車の方は来た時と変わらずに噴水前で停車していたのですが、そこに御者の姿は見当たらず……庭仕事をしていた使用人の話によると、その者にもリーパー・アレクシスと同様の症状が現れたらしく、そのまま……」

「砂と様になって消えてしまった……そういう事か……」

「……はい、その様です。」

 外から戻って来たカームさんの報告を聞いて皆がそれぞれの反応を見せている中、ソファーに腰掛けていた俺は一瞬だけ苦しそうに呻きながらベッドに横たわっているロイドに視線を送るとその反対側を向いて壁際に立っているアイツを睨みつけた。

「お前には聞きたい事が色々ある……だがそんな事は後回しだ。それよりもロイドの身に何が起こっているのか教えてくれ。」

 この言葉を切っ掛けにして全員が仮面のメイドに視線を送ると、奴は短く息を吐きだしながらこっちに歩み寄って来て俺達の目の前で立ち止まった。

「……貴方達も感づいているとは思うけれど、ロイドさんは首に掛けられてしまったネックレスを起点としたとある契約によってその命を削り取られている状況よ。もしこのまま時間が過ぎてしまえば……彼女は近い内に死んでしまうわ。」

「そ、そんなっ!?」

「っ!」

「まさか、ロイドちゃんが……あぁ……」

「カレン!……仮面のメイドさんと仰いましたね……そのとある契約と言うのは一体どういったものなのですか。」

「……簡単に説明すると、自分の命を引き換えにしてこの世にあるモノを復活させるって内容よ。」

「あるモノだと?しかも復活させるって……お前、何を言ってるんだ?」

「……かつてこの世に恐怖と災いをもたらした悪しき神……それがお主の言っておるあるモノの正体ではないのか?」

「レ……レミさん……?」

 さっきまでロイドに寄り添ってネックレスに手を当てていたレミの言葉を耳にして困惑した表情を浮かべているマホと同じく俺達も似た様な反応をしていたが……ただ1人、仮面のメイドだけは口元に小さく笑みを浮かべていた。

「あら、どうして分かったのかしら?貴女、一体何者?」

「ふっ、そんな事はどうでもよかろう。そんな事よりも、お主にはまだ伝えておらね事があるのではないのか?」

「伝えておらぬだと?オイ、何か隠してるのか?」

「……そういう訳では無いわ。でも、そうね……貴方達は知っておく必要があるわ。ロイドさんが命を落としてしまったその時に、一体何が起こるのかを……」

「ま、待って下さい!そんな、縁起でもない事を言わないで下さいよ!」

「マホさん、落ち着いて下さい……」

「マホちゃん、ロイドちゃんの為にありがとうね……でも、今は仮面のメイドさんのお話を聞きましょう。」

「……はい……」

「……それでは話を続けるわね。残酷だと思うけれど、よく聞いていてちょうだい。もしロイドさんが契約によって命を奪われてしまったら……犠牲となるのは彼女だけではなくなってしまうの。」

「……それは要するに、悪しき神が復活してしまうからでしょうか。」

「また世界に混乱と災いが降り掛かる……そう言いたいのか?」

「確かにそれもあるけれどそれだけじゃないの。ロイドさんが無くなった瞬間、その契約は死の呪いとなってこの街全体を襲うわ。そうなってしまった場合、トリアルで暮らしている全ての人間が……命を落とす事になるわ。」

「なっ!?」

「ロイドが死んだら……この街の人達も道連れになるの?」

「バカな!そんな事になれば、どれだけの犠牲が出る事か!」

「……その話、間違い無いのですか。」

「えぇ、残念だけれどね……」

「あぁ……何て事なの………」

「クソっ……!」

 こんな……ふざけた話があるか……!?ロイドが死んだら……皆も死ぬってのか?親父さんも……シーナも……リリアさんやライルさんも……冗談じゃねぇぞ……!

「レ、レミさん!どうにかして契約を無かった事に出来ないんですか!?レミさんの力で、あの、ほらっ!」

「……すまんなレミ、そやつも言っておったがコレは一種の契約なんじゃよ。だからわしの力をもってしても、ソレを無かった事にしたりは出来んのじゃ……今のわしに出来る事は、契約と言う名の呪いを弱めて時間を稼ぐ事ぐらいで………………」

「そ、そんな!?……それじゃあ………ど、どうしたら………」

「………まるで打つ手がない、と言う訳では無いわよ。」

 絶望……そんな空気が流れ出したその直後、仮面のメイドが考え込む様な素振りを見せながらそんな事を言い出した。

「な、何か……あるのですか?ロイドちゃんを救う方法が……!」

「えぇ、確証がある訳ではないけれど……それでも良いと言うのなら」

「教えて下さい!娘を、ロイドを救う為ならば……!お願いします!」

「……分かったわ。彼女を救う方法……それは、ロイドさんが契約させられた相手を見つけ出してこの世から消し去る事よ。」

「……あの、ソレってつまり……悪しき神を倒す……って事ですか?」

「その通りよ。でも、そこで問題になるのが……」

「……その者の居場所が掴めないという事ですか。」

「そういう事……時間も人手も足りない中で、大陸中から正体不明の神様を見つけて倒す……これがロイドさんを救えるかもしれない唯一の方法よ。」

「いや待って下さい!そんなの無理ですよ!だって何の手掛かりも無いんですよ!?それなのにどうやって………お、おじさん?」

「………悪い、後の事は任せた。」

「えっ!?ちょ、ちょっと待って下さいよおじさん!おじさんってば!!」

 マホの呼び留める声を無視して医務室を出て行った俺は、誰も居ない廊下を1人で歩き始めていき……包帯の巻かれた右手を思いっきり壁に叩きつけた……!

「ぐっ!……俺は……どんだけバカなんだ……!アイツが怪しい事なんぞ……ずっと分かってたはずなのに……!あんな芝居に騙されやがって!」

 2度、3度……傷口が開くのも構わず何度か右手を痛めつけてから血が滲んでいる包帯をジッと見つめてから……俺はグッと拳を握り締めた。

「だが……これがイベントだって言うんなら……ここで終わるはずがねぇ……いや、終わらせてたまるか……!」

 ハッピーエンド至上主義者を舐めるんじゃねぇぞ……このままバッドエンドに直行させてたまるかってんだ……!必ず……俺が望んだ結末を手に入れてやるからな!

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