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おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第343話

夕暮れ時が少し過ぎて周囲が暗くなってきた頃、広場に集まっていた人達の治療が無事に終わって皆と一緒に晩飯を食べ終えた俺は城で何があったのかを報告する為に診療所に足を運んで事の次第を順を追って説明していくのだった。

「……九条透、今の話に嘘は無いんだな。」

「えぇ、さっきも言いましたけど鐘を鳴らして街の人達を暴走させたのはジョッシュでした。そして山に残っていた車輪の跡から考えると、単独犯と言う可能性はかなり低いと思います。」

「そうか……ドクター、ジョッシュの協力者について心当たりはあるか。」

「……いえ、申し訳ないけれど分からないわね。」

「ふむ……九条透、お前がこの話を人前でしなかったのはドクターの為か。」

「はい、今回の騒動を引き起こした犯人がジョッシュって事が街の人達に知れ渡ってしまったら非難の声はドクターに向かう可能性がありますからね。」

「……ごめんなさい、気を遣わせてしまったわね。」

「そんな!ドクターが謝る事じゃありませんよ!皆さんもそう思いますよね!」

「あぁ、こんな事を今のドクターに言うのも気が引けるが悪いのはジョッシュとその協力者だ。」

「私もそう思う。ドクターは悪くない。」

「うふふ、そう言ってくれると嬉しいけれど……やっぱり今回の件は、ジョッシュの考えを見抜けなかった私にも責任があると思うわ。」

「ふんっ、人が頭の中で考えている事を見抜くなど出来るはずがなかろう。それこそ神にでもならんとそんな芸当は不可能じゃぞ。」

「……確かにそうかもしれないわね。でも、ジョッシュともっと向き合って気持ちを理解してあげれば説得してこんな事をさせずに済んだかもしれないわ。だから……」

「ドクター、あまり自分を責めすぎるな。そんな事をしていては、いずれお前の心が壊れてしまう時が来るぞ。」

「……ごめんなさい……」

沈痛な面持ちのドクターは静かな声で謝って来ると、俺達に背を向けて部屋の奥に置かれていた椅子にゆっくりと腰を下ろすと窓の向こう側にある綺麗な満月をジッと見上げるのだった……

「……今晩は、もう失礼した方が良いかもしれないね。」

「……あぁ、確かにそうかもしれんな。」

互いに顔を見合わせて小さく頷いた俺達は、足音を立てない様にその場を離れると背後にあった扉を開いて立ち去ろうとした……その時、ドクターの方から椅子が軋む音が聞こえてきたのでそっちの方に目を向けてみると……

「……九条さん、悪いんだけれど少しの間だけ残ってもらえないかしら。」

「は?いや、えっと……」

「……おじさん、ドクターのお願いを聞いてあげて下さい。」

「マホの言う通り、折角のお誘いなんだから受けた方が良いと思うよ。」

「九条透、彼女達は私が宿まで送り届けて見せるから今は……」

「……ドクターのそばに居てあげて。」

「ふぅ……そうまで言われたら残らん訳にもいかんわな……」

この返事に満足してくれたらしい皆は俺とドクターに小さくお辞儀をしてくると、部屋を出て行って音を立てない様に扉をそっと閉めるのだった。

「……急に呼び止めてしまってごめんなさい、ご迷惑だったわよね。」

「いや、別にそんな事は無いんですけど……何でまた俺を?」

「うふふ、それを話す前に……紅茶を淹れてあげるからこの椅子に座ってくれる?」

「あぁ、はい……」

言われるがままドクターの目の前にあった椅子に腰を下ろしてからしばらくして、俺は甘い香りの漂う紅茶の入ったティーカップを手渡されるのだった。

「これ、よくジョッシュが淹れてくれた紅茶なの。」

「へぇ…………うん、美味しいですね。」

「それは良かったわ、自分ではあんまり淹れないから自信が無くて……」

「そう、ですか……」

「あぁ、ごめんなさい。こんな事を言われても困っちゃうわよね。」

「いえ……」

重々しい静けさが部屋を包み込む中、紅茶を一口飲んだドクターはティーカップを真横にあるテーブルの上に置くとジッと真剣な眼差しで俺を見つめて来た。

「……九条さん、貴方の目から見てジョッシュはどんな風に映っていたかしら。」

「えっ、どんなって……」

「自分の目的の為なら人を傷つける事すら平気な子?それとも自分の研究を世界中の人に認めて貰いたいという欲に溺れてしまった子?それとも……」

……あぁなるほど、だからドクターは俺を呼び止めたのか。アイツの本性に触れて何を感じたのかを聞き出す為に……それなら、その思いに応えるしかないな。

「アイツは……そうですね、ドクターがさっき言った通りの奴だと思います。研究の成果を認めてもらう為にどんな手でも使おうとした最低な野郎です。」

「……そう……」

「……ただまぁ、それは自分の為だけって事でも無いと思いますけどね。」

「……えっ?」

「これはあくまでも俺の予想でしかありませんけど……ジョッシュの奴はドクターとやっていた研究の成果を認めてもらいたかったんじゃないですかね。」

「わ、私との……研究を……?」

「えぇ、自分達はこんなに凄い研究をしてるんだぞ!これは世界を変える事が出来る凄い力を持っているんだ!って感じで……ただ残念な事に、アイツがしたかった事はその研究を利用して権力を得る事だったのでこんな結果にはなりましたけどね。」

「………」

「だからドクター……こう言っちゃ悪いですけど、貴女が魔人種の為に研究を続けている限りアイツを説得しようとしても無駄だったと思いますよ。例えどんなに言葉を重ねても、自分の願いを叶える為だったら止まらない奴は居ますからね。」

……はぁ、こんな時に気の利いた言葉でドクターの心を癒せる主人公みたいな奴が居てくれりゃ良いんだけど……そう上手くはいかないから現実ってのは辛いよな……

「……っ!」

「うおっ!?ド、ドクター?いきなり何を……」

そんな軽い自己嫌悪にも似た思いを抱きながら何を言えば良いのか悩んでいたら、突然ドクターが自分の両頬を思いっきりひっぱたいた!?

「……過ぎてしまった事、起きてしまった事はもう変えられないわ。どんなに後悔をしても、私の助手が引き起こしてしまった事件は消えて無くならない……それなら、どんなに時間が掛かってもその罪を償ってみせるわ。魔人種の研究を続けて、彼らが安心して暮らせる世界を築き上げる事でね。」

ニコッと微笑みながらそう言ってのけたドクターの笑みを目の当たりにした俺は、しばらく呆気にとられた後に思わず笑ってしまうのだった。

「は、ははっ……凄いですねドクター……その精神力、マジで見習いたいですよ。」

「うふふ、褒めてくれてどうもありがとう。でも、こんな風に吹っ切れたのは貴方のおかげよ。」

「いや、俺は何にも……」

「そんな事は無いわよ。九条さんが包み隠さずに思っている事を正直に話してくれたおかげで気合を入れなおせたんだから、本当に感謝しているわ。」

「そうですか……ドクターのお役に立てたのなら何よりですよ。」

「あらあら、何を言っているのかしら九条さん。お役に立ってもらうのはこれからのお話ですよ。」

「……はい?」

瞳の奥を怪しく光らせながらそんな事を言ってきたドクターはスッと立ち上がると俺に背を向けて扉の方に歩いて行って……ガチャッという不思議な音を鳴らした?

そしてどういう訳か全身から冷や汗が止まらないんですけど、これは一体どういう症状なんですかね?ついでに鼓動が激しくなってきたんですけど、これはどうして?

「ごめんなさいねぇ……でも大丈夫、すっごく気持ちよくなれるから……」

「あの、ドクター?その極太で紫色のロウソクは?」

「うふふ、これは私が作ったリラックス効果のあるアロマキャンドルよぉ……ほら、良い香りがしてきたでしょう?よぉ~く嗅いでみてねぇ……」

「あっ、いや、その!あっ!もうこんな時間だ!急いでかえ…らない……と……?」

あ、あれ……なんか……メチャクチャ眠い……ってかこのにおいは……ここに……はじめて…きた……とき………の…………

「うふふふ……うふふふふふ…………おやす……い………くじょ……ん…………」

ぼやける視界にスッと移り込んで来たドクターの微笑みを目にしながら………俺の意識は……途切れてしまうのだった…………

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