おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第340話

ジョッシュが言っていた通りになってホッと胸を撫で下ろそうとした直前、ハッとして振り返り様に飛んできていた小さな針を刀で払い落とした俺はジトッとした目で仮面のメイドを思いっきり睨みつけるのだった……

「あらあら、やっぱり九条さんには同じ手は通用しなかったわね。」

「お前なぁ……こんな所で眠らせようとするんじゃねぇよ!下手したらモンスターの餌になっちまうだろうが!」

「うふふ、ごめんなさい。もうしないから許してちょうだい。」

「ったく、次はぶった斬るぞこんにゃろうめ……」

ため息を零しながら刀を鞘に納めた俺は入って来た扉の向こう側にある廊下を見て他のモンスターがやって来ていない事を確認すると、改めて骸になったジョッシュを仮面のメイドと共に見下ろした。

「それで九条さん、彼の事はどう報告するつもりなの?」

「そうだな……とりあえずドクターとローザさんだけには事情を説明して、後の事は任せるしかないだろ……ただ気掛かりなのは、コイツをこのまま残して街に戻っても大丈夫なのかって所だが……」

「あぁ、餌と間違えられてモンスターに食い散らかされたり腐敗してしまったりする可能性があるからね……それなら、こうしておけば問題は無いでしょう?」

「うおっ!?」

仮面のメイドがニヤッと笑みを浮かべながら指をパチンと鳴らした直後、目の前にあったジョッシュの体が一瞬にして氷におおわれてしまった。

「この状態なら1週間は現状維持が出来るはずよ。」

「……まぁ、礼だけは言っておく。」

「うふふ、どういたしまして……それで、九条さんはこの後のご予定は?」

「俺はさっさと街に戻って仲間の無事を確かめようと思ってはいるけど……そう言うお前はこれからどうすんだ?まさかこのまま帰るつもりって訳じゃねぇだろ。」

「えぇ、私はそこにある宝物庫の中を調査していくつもりよ。」

「ふーん……って、まさかとは思うがお宝でも盗んでいくつもりか?」

「あら、人聞きの悪い事を言わないで欲しいわね。私は盗みを働いでいるのではなくお宝を回収しているだけよ。」

「どっちも同じだろうが……でもそうか、宝物庫か……」

「……もしかして興味があるのかしら?それだったら、私と一緒に行ってみる?」

「……悪いがそうさせてもらおうか。お前が値打ちのあるお宝を根こそぎ奪っていく可能性があるからな。」

「まぁ、失礼しちゃうわね。けど良いわ、それなら早く行きましょうか。」

コツコツとヒールの音を響かせながら優雅に歩き始めた仮面のメイドの後を追って部屋の奥にあった物々しい扉の前に立った俺だったが……

「そう言えば、こういうのって普通は鍵が掛かっているもんなんじゃねぇのか?一体どうやって入るつもりなんだよ。」

「あぁ、それについては心配しなくても良いわよ……だって……」

俺に背を向けて豪勢な装飾の付いている取っ手を握り締めた仮面のメイドは、軽々しく扉を開いていくとゆっくりと振り返ってジッと俺に目を見つめてきた……って!

「か、鍵は……掛かってなかったのか……?」

「と言うよりも、先客が既に開けて行ったが正解だと思うわよ。」

「せ、先客だって?……まさか、ジョッシュが?」

「いえ、彼ではないわ。もしお宝を狙っていたんだとしたら、何時までもこの場所に残っているはずもないでしょうからね。」

「それもそうか……だとしたら……まさかここに向かう途中で話をしてくれた、城のお宝を狙っているとかっていう奴が?」

「えぇ、その可能性が一番高いでしょうね……それにしても、随分と手荒くこの中を探し回ったみたいね。」

外から差し込んできている微かな光を頼りに部屋の中を覗き込んだ仮面のメイドは小さな声でそう呟くと、魔法で使って更に宝物庫の中を照らし出した。

「うへぇ……埃がすげぇな……しかも何だコレ?探し回ったっていうより暴れ回ったってのが正解の気が……いや、さっきまでしてた戦闘の影響でもあるのか……」

「……九条さん、もし良かったらこの中を調べるのを手伝ってくれないかしら。」

「それは構わねぇけど……何をどう調べれば良いんだ?こんだけ無造作に色々な物が散らばってたらどうして良いのか……」

「とりあえず怪しいと思った物を見つけたら報告してくれれば良いわ。後はこっちでどうにかするから。」

「それは流石に適当すぎるだろ……まぁ、分かったけどよ。」

「うふふ、どうもありがとう。それじゃあ始めましょうか。」

俺はポーチの中から長めのタオルを取り出して口元に巻くと、埃が舞いまくってる宝物庫の中に仮面のメイドと足を踏み入れるのだった。

……雑多に物が置かれているせいで手こずるかと思っていた調査だったが、そんな考えは数分もしない内に解決するのだった。

「恐らくだけど……ここに入ってたお宝が盗まれたんじゃないか?」

「えぇ、手を付けられた痕跡はこれしか無いから間違いないでしょうね。」

宝物庫の中央に設置されていた螺旋階段を超えて部屋の奥までやって来た俺達は、ガラスの割られた金色の小さなショーケースをジッと見降ろすのだった。

「仮面のメイド、この中には何が入ってたんだ?」

「……申し訳ないけれど、その質問に答える事は出来ないわね。」

「……やっぱり詳しくは話せないか。」

「いえ、そうではなくて……私にも狙われていたのがどんなお宝で何の目的があってソレを欲しがっていたのか分からないのよ……これはもう少し調査を続けないと……九条さん、協力してくれた助かったわ。」

「はっはっは、特に何かした訳じゃねぇけどな……よしっ、そんじゃあもう出るか。何時までもここに居たら体調を崩しそうだし。」

「えぇ、それもそうね。」

モヤモヤッとしたものが心の中に残ったまま部屋を後にした俺は、口元に巻いてたタオルを外して振り返って仮面のメイドに声を……

「あ、あれぇ?!アイツ、何処に行ったんだ!?」

さっきまで後ろを歩いていたはずの仮面のメイドが音も無いまま消えた事に驚いて周囲をキョロキョロ見回していると、足元に白い封筒が落ちているのを発見した……

恐る恐るソレを拾い上げて慎重に封筒を開いていった俺は、中に入っていた一枚の紙を取り出してそこに書かれていた文字に目を通してみた。

【九条さんへ

調査に協力してくれた助かったわ、どうもありがとう。
そんな貴方には申し訳ないけれど、私は一足先に消えさせてもらうわ。
だから後の事はよろしくお願いね。
またいつか、九条さんに会える日を楽しみにしているわ。
それじゃあさようなら。

仮面のメイドより】

「……アイツ、どのタイミングでこの手紙をしたんだよ。」

手紙を封筒に仕舞いながら1人残された玉座の間でガックリ肩を落とした俺は……ジョッシュの亡骸に一礼してから部屋を出て廊下に立つと、ショートブレードを再び手にして倒しっぱなしにしていたモンスターを納品しながら街を目指してゆっくりと歩いて行くのだった。

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