おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第296話

「クリフ君!大丈夫か!?」

「うふふ、ちょっと見ない間に随分な目に遭っているね。」

「エ、エルアにイリス!?それに貴様達までどうしてここに!?ぐぅっ!」

「どっかの大馬鹿が1人でダンジョンに向かっちまったみたいだから、連れ戻すのを手伝って下さいってお願いされたんだよっ!」

下半身と右腕が既に取り込まれちまって苦しそうな表情を浮かべてるアイツからの問いに答えた直後、巨大な植物からムチみたいなのが幾つも生えてきて襲い掛かって来やがったので俺は虎徹丸を振るってそれらを斬り落としていった!

「じょ、冗談じゃない!貴様に助けられるぐらいなら我は!」

「はいはい!文句は後で受け付けてやるから、もうちょっと踏ん張っとけよ!ボスの体内に取り込まれちまったら、養分にされてくたばっちまうからな!」

「な、何ッ!?」

中二病は驚きの声を上げるとボスから抜け出そうと更に必死になっていたが、その程度でどうにかなる訳もなく少しずつ体が植物の中に沈み始めていた!

「く、九条さん!クリフ君が!?」

「あぁ、分かってる!良いか、お前達は俺の援護をしながら自分の身を護ってろ!」

「は、はい!でも、九条さんは?!」

「俺はあのバカを助けて来る!ロイド、ソフィ!後は任せたぞ!」

「了解!手早く頼むよ!」

「頑張ってね。」

「おう!そんじゃあ行ってくる!」

足腰にグッと力を込めて身を屈めながら虎徹丸を両手で握り締めた俺は、全速力で走り出すと天井からぶら下がっているボスに向かって一気に接近していった!

それとほぼ同時ぐらいにボスは新しく植物のムチを大量に作り出して、ビュンっと音を鳴らしながら俺と後ろで待っている皆に叩きつけようとしてきたがった!

その攻撃を避けつつムチを斬って反撃しながらボスに近づこうとしたんだが、いやコレはマジでヤバすぎじゃねぇか?!前回のボスとは比べ物にならないぐらい攻撃が激しすぎる気がするんですけど!?

もしかして人型になる為に使っていた力を防御に特化させたとかそういう事か?!そうだとしたら、今回のボスはマジで面倒な部類に入るぞ!?

「お、おい!聞いているのか!貴様の助けはいらないと言っているだろうが!」

「うっせぇ!気が散るから今は話しかけんなっ!!」

「な、何だと!?うっぐぐ……!」

あぁクソっ!こっちが軌道の読みにくいムチの攻撃をかわしている最中だってのに、ゴチャゴチャ言ってる暇があるならもっと抵抗してろよな!?既に上半身がほとんど取り込まれ掛かっているじゃねぇか!つーか、あいつ等は大丈夫なんだろうな!?

「フッ!そんな攻撃じゃ私達は捕らえられないよっと!エルア、大丈夫かい!」

「は、はい!まだいけます!イリスさんは?!」

「うふふ、ご心配には及びません……ソフィさん!」

「うん、分かってる。」

おぉ、武器もねぇってのに良い感じに連携して粘ってるみたいだな!まぁ、大半の攻撃が俺に向かって来てるからあっちはある程度は余裕なのかもしれないってっ?!

「うおっと!?」

チッ!あのボス、ムチだけじゃ自分を護り切るのが難しいと判断して地面に植物をぶっ刺して下からの攻撃も追加してきやがったぞ?!ってか、今回のボスって前回のとは強さが段違いすぎじゃありませんかねぇ!?

「むっぐっ!?んぅー!!」

「ゲッ!?もう顔までいっちまったのかよ?!」

(ご、ご主人様!急がないとクリフさんが!)

(ったく、もうちょい踏ん張ってろって言ったのに根性無さすぎだろうが!)

(いや!根性でどうにかなる物じゃありませんから!それよりも早く!)

(はいはい!お前に叫ばれなくても分かってるっての!)

マホに返事をしながらバックステップで地面を突き破ってきた槍状の植物をかわして横一線にぶった斬った俺は、振り下ろされてきた植物のムチを横に転がって避けるとボスから離れる様に後退すると左手を上の方に向けて魔方陣を出現させた!

いやぁ、本当なこんな場所でこの魔法は使いたくなかったんだけど仕方ないよね!アイツを助ける為、そしてお灸をすえる為に少しだけ我慢してくれや!

(ちょ、ちょっとご主人様!?何をしようとしているんですか!?)

(はっはっは!暗黒邪神龍の力が流れてるんだから、何とか耐えやがれってんだ!)

俺はニヤリと笑みを浮かべながら心の中でアイツにそう告げると、魔方陣の中から巨大な炎の球を発射して襲い掛かって来ていた植物ごとボスを燃やしてやった!

(いやいやいや!!何を考えているんですか、ご主人様!?このままじゃクリフさんまで一緒に丸焦げになっちゃうじゃないですか!)

(まぁまぁ、そうなっちまう前に助け出すから慌てんなって!)

さっきまでの正確さなど微塵も無くなった植物の攻撃を避けまくってボスの真下に辿り着いた俺は、両足に風を纏わせると思いっきり飛び上がってさっきまでアイツの姿が見えていた所にしがみ付いてっつうか熱いなこんちきしょうが!

「むごごっ!ごが!」

「言いたい事があるなら後で聞いてやるからさっさと掴まれ!このアホが!」

右手が焼ける様な痛みを感じながら左腕をボスの体内に突っ込んで叫び声を上げたその直後、アイツが俺の手をガシッと力強く掴んできたから引っ張り出してやろうとしたんだが……1本のムチ状の植物が背後から襲い掛かって来やがった?!

「させません!」

「邪魔っ!」

攻撃を避けるのは諦めて歯を食いしばり覚悟を決めたその時、下の方からエルアとイリスの声が聞こえてきて植物が凄い勢いで吹っ飛んでいた!?

(今です!ご主人様!)

(お、おう!そうだったな!よいしょおおおおおおおっと!!!)

ボスの体に無理やり両足を乗せて渾身の力を込めた俺は、中二病患者を思いっきり引っこ抜くとそのまま背中から地面に落下していってえええええっ!??!!!

「ぐはっ!?」

「ごふっ……って、アレ?」

「うふふふふ……お帰りなさい……僕の九条さん……」

「ひっ、ひぃいいいい!?!?」

「イ、イリスさん!九条さんは君の物じゃないよ!」

「えぇ、確かに今はそうかもしれませんが……将来的には僕と結ばれる運命なんですから僕の九条さんで間違いはありませんよ。」

「そ、そんなの分からないじゃないか!」

「いえいえ、僕には分かるんですよ。」

「2人共!そんな所で争ってないで早くクリフ少年を連れて戻って来るんだ!」

「は、はい!それじゃあクリフ君が僕が運ぶから、イリスさんは!」

「えぇ、九条さんをお運びしますね。」

「いや!俺は降ろしてくれればいいから!ねぇ聞いてる?!」

叩き潰そうとして来る植物のムチとまたイリスにお姫様抱っこをされているという羞恥心に襲われながら2人の援護を受けてどうにか扉の近くまで運ばれて来た俺は、何となく情けなさを感じながら地面に降ろしてもらうのだった……

「うふふ、僕の腕の中はどうでしたか九条さん。」

「あぁ、うん………とりあえず……ありがとうな……」

「いえいえ、お礼を言いたいのはこちらの方ですから。」

「むぅ……九条さん!今度は僕の腕の中にお願いします!」

「断る!!」

「えぇっ!?」

イリスはまだ同性だからギリギリ耐えられるが……エルアにお姫様抱っこをされるだなんて男としての威厳が完全に無くなっちまうじゃねぇか!

「ってそれよりも……オイ、動けんのか?」

「ぐっ……貴様にそんな心配される筋合いは無い!」

「もう、クリフ君!ボスに捕まっていた君を助けてくれた九条さんに失礼だよ!」

「う、うるさい!そもそも、どうして貴様は俺を助けたりしたんだ!?」

「どうしてって……エルアとイリスに頼まれたからだって言ってんだろうが。」

「そ、そんなバカな話があるか!それに仮にそうだとしても……貴様には我を助ける義理など……!」

今にも泣き出しそうな声を絞り出してそう言った中二病は拳を握りうつ向いて……あぁ、なるほどそういう事か………散々迷惑を掛けてきたって自覚があるからこそ、俺がどうして助けに来たのか分からないと。

「九条さん、私とソフィはボスの足止めをしてくるから後は頼んだよ。」

「……おう、任せた。」

「うん、任された。」

ったく、こういう時に空気を読んでくれる仲間達で本当に良かったよ……さてと、あいつ等に感謝をする前に俺は俺のやるべき事をするとしますかね。

「……確かにお前のこれまでの行動は本当に迷惑で面倒だったし、今もムカついてるってのは間違いない。」

「な、ならば……何故………」

「はっ、そんなの決まってんだろ………俺が、お前を助けたいと思ったからだ。」

「……そ……それだけの……理由で……?」

「あぁ、つーかそれだけあれば充分だろ。助けたいと思ったから行動する……お前もそう思ったから、俺に勝負を挑んで来たんだろうが……そこの2人を助ける為に。」

「っ!」

ハッとした表情を浮かべながら顔を上げた中二病は、すぐ近くで優しく微笑んでるエルアとイリスと目を合わせて………

「……クリフ君、これで分かっただろ?」

「九条さんは、君が考えている様な極悪人ではないって事を……ねっ。」

「…………そう……だな………」

そう告げた中二病の声は……まるで憑き物が落ちたかの様に落ち着いていて………それからすぐ……こっちに顔を向けて真剣な眼差しで俺の目を見てきた。

「……どうやら、誤解は解けてくれたみたいだな。」

「あぁ……今まで……本当にすまなかった……」

「……おう!」

深々と頭を下げて謝罪をしてきた中二病……いや、クリフの姿を見て自然と笑みを零していた俺は……虎徹丸を強く握りしめるとボスと戦ってる2人の方を見た!

(さぁご主人様!ボスを倒す準備は整いましたか!)

(当然!って言いたい所だが、今回はコイツに任せる事にするよ。)

(えっ、コイツって……)

「おいクリフ!お前、まだまだ動けるか?」

「……ふっ、愚問だな。体力、魔力共に有り余っておるわ!」

「よしっ!そんじゃあ俺達はアイツの注意を引いて来るから、お前はボスにドカンと一発ド派手なの魔法を撃ち込んでやってくれ!」

「あぁ、それは構わないが……その理由は?」

「アイツのコアとなる部分は植物の奥底に隠されてる。そこをぶっ壊す為には俺達の武器じゃ火力不足なんだよ。」

「なるほど……そう言う事ならこのダーク・ブラッディ・ナイトに任せるが良い!」

「おう!そうと決まれば……行くぞ!」

「はい!」

「うふふ、了解しました。」

力強く返事をしたエルアとニッコリと微笑みかけてきたイリスを連れて駆け出した俺達は、先に戦っていたロイドとソフィと一緒にボスに攻撃を仕掛けて行った!

「……我が体内に流れる呪われし暗黒邪神龍の血……今こそ我の魂の叫びに応え……悪しき魔を滅ぼす為にその姿を現し………我が友に仇なす敵を焼き尽くすのだっ!」

メチャクチャ羞恥心が煽られる詠唱が叫ばれたのを耳にしたその瞬間、部屋全体が揺れるぐらいの魔力の流れをクリフから感じた!?

「ちょっ、うぇっ!?」

「さぁ……現出せよ!ダーク・フレイム・ナイトメア・ツインドラゴン!!」

またまたこっちが恥ずかしくなるレベルの呪文が聞こえて……ってえええええ!?な、なんだアレ?!闘技場で見たのとは比べ物にならない炎の龍が2匹も出て来たんですけど!?いや、マジでどんだけ妄想力がたくましいんだよ!?

「いや、それどころじゃねぇ!全員、逃げろおおおおおお!!!」

離れていても肌が焼けるんじゃないかと錯覚するぐらいの熱気を感じてその場から一目散に逃げだした直後、2匹の龍は大口を開けながらボスに突っ込んで行った!!

ボスは自身の体から大量の植物を生やして炎の龍に攻撃を仕掛けて行ったが………左右から大きな口で噛みつかれてあっと言う間に消し炭になっていった………

(………俺……アイツの真の力を引き出せなくて本当に良かった……!)

(もしかしたら、ああなっていたのはご主人様の方だったかもですからね……って、これはマズイですよご主人様!て、天井と壁に火が燃え移って!)

「げえっ!?全員!消火活動始めえええええええ!!!」

俺達はようやくボスが倒せたとホッとする暇もないまま魔法で大量の水を作りだし燃え始めた部屋の消化に取り掛かるのだった!ってかもう色々と忙しすぎだろうが!

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