おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第292話

職員の方々に運ばれて行くアイツを見送った後にため息を零しながらその場を後にして控室に立ち寄ってから受付に向かうと、イリス以外の皆が何とも言えない感じの表情を浮かべながら待っていた。

「えっと、おめでとうございます……で、良いんですよね?」

「うん、そんな反応になるよな……あっ、そういやイリスは?」

「クリフ少年の様子を見に行ってくると言って控室の方に向かったよ。」

「そうか……はぁ………」

「おじさん、大丈夫ですか?もしかして何処か痛い所でもあるんですか?」

「いや、そういう訳じゃないんだが……消化不良と言うか……なぁ?」

首を傾げ肩をすくめながら心の中にあるモヤモヤを吐き出したその直後、イリスがアイツの控室のある廊下からこっちに向かって歩いて来る姿が視界に入って来た。

「あっ、お帰りなさいイリスさん!クリフさんの容態はどうでした?」

「うふふ、特に大きな問題はありませんでしたよ。限界以上に魔力を使い過ぎたのと通気性の悪い服のせいで一時的に意識を失ってしまっただけですから。」

「はぁ……やっぱりか……」

「えっ、おじさんはクリフさんが倒れた原因が分かってたんですか?」

「何となくだけどな……あんだけバカみたいに派手な魔法、消費する魔力の量も尋常じゃないだろうなってのは予想が出来たからな。それにアイツの服装に関してもこの時期には全くと言って良いぐらい合ってないしな。」

「ふふっ、確かにそうかもしれないね。」

「見てるだけで暑苦しい。」

「そうだよなぁ……つーかイリス、もしかしてアイツの悪い癖って言うのは戦闘中に謎の技名を叫んだり自分の魔力量に合わない魔法を撃ったりする事か?」

「はい、その通りです。」

ニコッと微笑みながら小さく頷いたイリスを見ていた俺は、これで何度目になるか分からないため息を零しながら汗で少し湿っている頭をガシガシと掻くのだった。

「マジかぁ……だとしたら模擬戦で負けちまうってのも納得だわな。」

「技名を叫べばどんな攻撃が来るか相手にバレてしまい、魔法も避けられちゃったら体が重くなってしまって戦闘には悪影響しかありませんからね……」

「えぇ、だからクリフ君は模擬戦で自滅してしまう事が多いんです。その事をいつも先生方に注意されてはいるんですが、彼も自分の意志を曲げませんから。」

「はっはっは、だろうなぁ……」

むしろ注意されればされるだけ反発心が生まれて自分の道を貫きたいと思っちまうのが中二病の悪い癖……いや、個人差はあると思うよ?だって俺はクラスの女の子にドン引きした目線を送られて心に深い傷を負いながら卒業しましたからねっ!

それに比べてアイツは……いや、そもそもそんな経験した覚えがあるんだろうか?エルアもイリスも中々に個性的だから、最初から受け入れられてたって可能性が……

「おじさん?目つきが鋭くなってきてますけど、どうかしたんですか?」

「……イリス、アイツの控室に案内してくれ。ちょっとぶった斬ってくるから。」

「お、おじさん?!いきなり何を言い出してるんですか!?そんなのダメに決まっているじゃってちょっと!待って下さい!」

「えぇい!離せマホ!アイツ、どんだけ自分が恵まれた環境にいるのか理解もせずに喧嘩を売ってきやがってよぉ!俺がどんだけ辛い目に遭いながら日々を生きてるって思ってんだオイ?!マジでふっざけんなよ!!」

「そ、その負の感情をクリフさんにぶつけてどうするんですか?!」

「おやおや、どうやら九条さんの夏の暑さにやられてしまったみたいだね。」

「うふふ、感情を剥き出しにしている九条さん……男らしくて素敵ですねぇ……」

「……冷たい物が飲みたい。」

「皆さん!呑気に見てないでちょっとは手伝ってくださいよ、もう!」

太陽に頭を熱されて沸点が異常に低くなっていた俺だったが、マホ達の説得により何とか冷静さを取り戻すのだった……

「わ、悪い……」

「いえ、落ち着いてくれたなら何よりです。まぁ、私達に迷惑を掛けた責任を感じているなら今日の家事はおじさんがやってくれても良いですけどねぇ。」

「はい……喜んでやらせて頂きます……」

「えへへ、それじゃあお願いしますね!」

「……九条さん、今日のお昼は冷たいのが食べたい。」

「分かりました……後で買い出しに行ってきます……」

「ふふっ、頼んだよ九条さん。それではイリス、私達はそろそろ家に帰るつもりだが君はどうするんだい?」

「うふふ、僕はクリフ君が目を覚ますまで付き添うつもりです。その後は……時間があれば皆さんの所に寄らせてもらいますね。」

「うん、待ってる。」

ソフィがそう告げた後、俺達はイリスに別れの挨拶をすると闘技場を後にする為にその場を立ち去ろうと……

「あっ、そうだイリス。アイツに渡しておいて欲しい物があるんだが、預かっといてもらえるか?」

「はい、何ですか?」

微笑みかけてきたイリスと目を合わせながらズボンのポケットに手を入れた俺は、そこから小さな袋を取り出すとソレを手渡した。

「そこに2万5000G入ってるから、アイツが起きたら渡してくれ。」

「……コレ、もしかして闘技場の?」

「あぁ、何だかんだ言って俺も勝負をするのに使っちまった訳だからな。使用料は、ちゃんと払っておかねぇとな。」

「……それなら半額じゃなくて全額支払ってあげれば良いと思うんですけどね。」

「いや、それだとアイツは絶対に納得しないからな。」

「うふふ、僕もそう思います。」

「だろ?そんな訳だから、後の事は任せたぞ……あっ、ついでに今回の勝負はお前が決めたので戦ったんだから文句は受け付けないって言っといてくれ。」

「はい、任せれました。それでは皆さん、また後でお会いしましょうね。」

小さく手を振ってくれているイリスに見送られながら闘技場を出て行った俺達は、そのまま昼飯の買い出しを済ませると家に帰って行くのだった。

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