おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第228話

足跡を見失わない様に注意しながらしばらく走っていると、少し先の木々の間から小さな光が漏れてきてる事に気が付いた。

エリオさんと顔を見合わせた後にそれを頼りにして更に森の奥に向かって行くと、少し開けた場所で何故かしゃがみ込んでる2人の姿を発見した!?

「ディ、ディオスさん!ファーレスさん!大丈夫ですか?!」

「おっ、九条さん!それにエリオも!ようやく追いついて来たんだな!」

「2人共、無事で何よりです。」

「い、いやいや!それはこっちの台詞ですよ!あの、怪我とかしてませんよね?」

「はい、特に問題ありませんよ。」

「そ、そうですか……はぁ、マジで良かったです……」

「がっはっは!何だか随分と心配を掛けちまったみたいだな!」

元気が有り余ってるディオスさんの高笑いを聞きながらホッと一安心していると、後ろに居たエリオさんが横を通り過ぎてさっきまでの2人と同じ様にしゃがみ込んで地面をジッと見つめ始めた?

「……エリオさん?」

「ふむ……2人がここで待っていた理由はそういう事なのか。」

「は、え?」

「九条さんもご覧になって下さい。興味深い物が見れますよ。」

「は、はぁ……」

ファーレスさんにそう促された俺は、真剣な表情を浮かべているエリオさんの隣に立って地面に目を向けて………っ!?

「あ、足跡が……無くなってる?」

「おう、そうだろ!だからここで2人を待ってたんだよ!」

「そ、そうなんですか……でも、どうして…………まさか?!」

「えぇ、九条さんのその予想はまず間違い無いと思いますよ。」

ファーレスさんが意味あり気に微笑んだその直後、俺達を取り囲む様に生えている木々が風も吹いてないのに一斉にガサガサと揺れ始めた!?

「ひっひっひ!やっぱり貴族ってのはバカな連中ばっかだな!そんな足跡に吊られてこんな所までノコノコやって来るなんてよぉ!」

……そんな決まり文句を叫びながら俺達の目の前に姿を現したのは、どう考えても野盗としか言いようがない格好をした怪しい男だった。

「戦う事も出来ねぇ情けない貴族の連中が、警備隊も連れずに来るなんてマジでバカなんじゃねぇのか!変な正義感を出すからこんな事になっちまうんだよぉ!!」

「おやおや、言われたい放題ですね。」

「がっはっはっは!貴族ってのはやっぱバカにされる存在みたいだな!九条さん!」

「い、いや!俺はバカにしてないんで同意を求めないで下さいよ!」

「まぁまぁ、そんな事より今は目の前の事に集中しないと危ないよ。」

「おっ、それもそうだったな!がっはっはっはっは!」

盛大に笑っているディオスさんを見て苦笑いを浮かべながら野盗の男に目を向けてみると…………うん、あれはどう見ても怒ってらっしゃいますねぇ。

「おいおい随分と余裕たっぷりじゃねぇかよ!それともアレか、恐怖で頭がおかしくなっちまって現実逃避でもしてやがんのかぁ?」

「いえ、目の前で起こっている事はきちんと認識しているので安心して下さい。」

「そうかぁ……なら俺達の言う事を大人しく聞いた方が良いってのも、きちんと認識してるって事で良いんだよなぁ!?もしも分かってねぇんなら、お前らの命はすぐに無くなっちまうぞぉ!ひっひっひっひ!」

目の前の男と周囲に居る連中が同時に笑い出したのを聞いて思わずため息を零していると、エリオさんが静かに男の事を見据えた。

「言う事を聞く……とは、貴方達の事を見逃せという事なのか?」

「それもあるが……お前らにはあるモノを差し出して貰う!」

「あるモノ……それは一体なんだろうか。」

「ひっひっひ、そんなの決まってんだろ!金だよ!金!」

「お金ですか……あいにくですが、財布は持ってきていません。」

「だったら一緒に宿に取りに行ってやるよ!そのついでに別のモノも貰って行く事になるけどなぁ!」

「おや、その別のモノとは何なんでしょうか。良ければ聞かせてくれませんか?」

ファーレスさんからそう尋ねられた男は気持ち悪い下卑た笑み浮かべながら俺達を見てくると、懐からナイフを取り出して刃を舌なめずりし始めた……

「別のモノってのは………お前らの家族だよぉ!」

………あれれ、おかしいな?急に体が震えてきたぞ?それに空気も冷えてきた様な気がするぞ。

「遠目から見てみたが随分とイイ女ばっかりじゃねぇか!ありゃ高く売れるぜぇ!!まぁその前に、俺達がたっぷりと可愛がってやるけどなぁ!!ひっひっひっひっ!」

普段だったらこんな事を言われて即ブチ切れる自信があるんだが……どうやら今回だけは俺より先にプッツンしちゃった人達がいるみたいだな。

「さぁ、分かったら俺達と一緒に宿にぎゃああああああああ?!!??!?!!」

男がナイフを俺達に向けたその瞬間、物凄い衝撃音が鳴り響き地面が吹き飛んだ。そしてその中心地に拳を叩きつけていたのは………

「おい、そこのクソ野郎。お前さっき何て言った?もういっぺん言ってみろよ。」

「ひ、ひいいいいいいいい!?!?!!!」

うわぁすごーい、赤鬼が立ってる……異世界にも居るんだねぇ……あ、いや、前の世界に鬼とか存在してないわ……

「おら、教えてくれよ……俺の家族が何だってこの野郎!!」

「ディオス!落ち着くんだ!」

ファーレスさん!あんなにキレてるディオスさんを止めようとしてるんですか?!凄い!やっぱり古くから付き合いのある友人は頼りになりますね!って、え?!

「ぐぎゃあああああ?!!!!??!」

「僕もそいつをボコボコにしたいんだ!自分だけズルいじゃないか!」

魔法を使って出現させた植物で男の体をギチギチに縛り上げたファーレスさんは、ディオスさんの隣に立つと今まで見た事が無い冷めた目つきで男の事を見下ろした!

「お、お前ら何ボーっとしてやがる!早く俺を助けやがれえええええ!!」

縛られた男の必死な叫び声を聞いてさっきまで固まっていた野盗達は一斉に武器を取り出すと、殺気だった目つきで睨みつけたきた!

俺はエリオさんと一緒に急いで2人と合流すると、武器を構えてじわじわとにじり寄って来る男達を警戒していた!

「ひ、ひっひっひ!こっちは総勢20人も居るんだ!たった4人に負けるかよ!」

「おやおや、ご親切に教えてくれてありがとうございます。」

「ぐうぇ!?」

「ちょ、エリオさん?!」

「すみません。声が耳障りだったので気絶して貰いました。」

「な、なるほど……エリオさんも相当キレてるんですね……」

「はっはっは、ほんの少しだけですよ。それよりも今は、目の前にいる彼らに意識を集中させましょうか。」

エリオさんが鞘からブレードを取り出し構えた姿を横目で見た俺は、少しだけ心配になりながら目の前から近寄って来ている野盗に目を向けた。

「がっはっはっは!こうやって一緒に戦うの久しぶりだな!腕は鈍ってねぇか?」

「さてね、僕はいつも通りやるだけだから。」

「私も同じだよ。いつもの様に戦うだけさ。九条さんはどうですか?」

「……まぁ、何とかしてみせますよ。」

「おっ、そいつは頼もしいな!頑張ってくれよ、これはリリアを任せられるかどうかって確認も兼ねてるんだからよ!」

「……えっ?」

「私もライルを任せられるかどうか、お手並みを拝見させて貰いますね。」

「……あ、いや、はっ!?」

「おやおや、それでは私も九条さんに期待させて頂きましょうか。」

「ちょ、突然の重圧に押し潰されそうなんですけど?!」

いきなり襲い掛かってきたプレッシャーに驚き戸惑っていると、雄叫びの様な声をあげながら野盗が一気に襲い掛かってきやがった!ってか、いやもう頼むから空気を読んでくれよおおおおおお!!?!

そんな思いと貴族であるエリオさん達を絶対に護らなきゃいけないという現実からメチャクチャ逃げ出したくなりながら、俺は野盗との戦闘を始めるのだった!!

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