おっさんの異世界生活は無理がある。
第205話
翌日の早朝、予想通り小雨が降る街中を歩いて正門前までやって来た俺達は馬車の近くで佇んでいたイリスと合流すると軽く挨拶を交わしていた。
「皆さん、天気が悪いのにわざわざ見送りに来てくれてありがとうございます。」
「いえいえ、私達がしたくてやっている事ですからね!」
「だな………それにしても、やっぱり雨が降っちまったか。」
「あぁ、どうせだったら晴れた青空の下でイリスを見送りたかったんだけどね。」
「同感。」
「うふふ、僕としては出会いも別れも雨の中という事を考えると運命的な物を感じてしまいますけどね。」
「……雨に見舞われる運命ってのは、あんまり歓迎したいとは思わないけどな。」
「ですね!お洗濯も乾きにくいですから!」
「そういうこっちゃねぇんだけどな……ってそう言えばイリス、荷物の方はもう運び終わったのか?」
「はい、初めから着替え等の荷物しか持ってきていませんでしたから。」
「それにこの休みもそこまで長期間の物ではないからね。本格的に長い休みに突入をするのは確か……」
「来月の半ばから夏季休暇になります。」
「夏季休暇……要するに夏休みですね!」
「あぁ、夏休みかぁ………………」
「おじさん?顔が死んでますけど、どうかしたんですか?」
「いや……ちょっと昔を思い出してな………」
1日中……ゲーム……ネット……ラノベ……どれだけ記憶を呼び起こしてみても、出て来るのはそればっかりだよ……友達と海に行った……花火大会に行った……淡い恋をしてみた……そんな記憶はこれっぽっちも出やしないねぇ!
まぁそりゃそうだよな!だってずっと家の中で過ごしていただけだからな!ってかそもそも友達とか居なかったし!あっはっはっ………青春って……何なんだろうな。
「あぁもう!勝手に思い出して勝手に落ち込まないで下さいよ!今日はイリスさんの事をお見送りしに来てるんですからね!それなのにおじさんのどよ~んとした顔とか見たくありませんよ!」
「なぁ……落ち込んでるって分かってるなら少しぐらい優しくしてくれよ………」
「うふふ、それなら任せて下さい……出発時間がくるまでの間、ずぅっと甘えさせてあげますからぁ………」
「あっ、急に元気になってきたぞ!ありがとうイリス!もう大丈夫だ!」
「……それなら良かったです。」
久しぶりに背筋がゾクッとする様な声を聞いて慌ててガッツポーズを決めた俺は、微笑みながらジッと見つめて来るイリスから静かに目を逸らすのだった……
「そろそろ王都行きの馬車が出発する時刻となりますので、ご乗車になる方々は遅れない様にお気を付けくださーい!」
その後も何度か似た様な事がありながら思い出話をして盛り上がっていると、馬車の方から御者の大きな声が響き渡ってきた。
「おや、いつの間にかもうそんな時間になっていたのか。」
「うふふ、何だかあっという間でしたね。」
「うん、もっと話したかったのに残念。」
「そうですね……でも仕方ありませんよ。イリスさん、最後までお見送りしたいのでお乗りになる馬車まで案内してもらえますか?」
「はい、分かりました。」
イリスはニコっと微笑んで歩き出すと、列の真ん中より少し後の方に停まっていた馬車の荷台近くで立ち止まり俺達の方に振り返ってきた。
「……皆さん、ここまでお見送りに来てくれてありがとうございます。それと、今日まで本当にお世話になりました。」
「ふふっ、お世話になったのはどちらかと言うと私達の方だけどね。」
「イリスのおかげで色々と楽が出来た。ありがとう。」
「いえいえ、僕は自分が出来る事をしただけですから。」
「そんなに謙遜しなくても大丈夫ですよ!本当に助かっちゃいましたから!ですよねおじさん!」
「あぁ、そうだな。」
「うふふ、そう言って頂けると嬉しいです……九条さん、最後にちょっとしたお願いがあるんですけど……良いですか?」
「ん、どうかしたのか?」
「……少しだけ、こちらに来て頂けませんか?」
「……え?」
「……やっぱり……あんな事をした僕の事は信じて貰えませんか……?」
「い、いや……そんな事は無いけど………」
突然されたお願いにどうするべきか戸惑いながら皆の顔を見回してみたんだが……どうやら反応を見る限りそれぐらい叶えてあげろって事みたいだな。
「……分かった、近寄れば良いだけなんだよな?」
「はい、そうです。」
まぁ……それぐらいなら大丈夫だよな?昨夜の事を色々と思い出して心臓の鼓動が激しくなり始めたって事を除けばの話だけどさ!
……心の中を悟られない様に2,3歩前に向かって歩いて行った俺は、物凄く至近距離から顔を見上げてくるイリスと目を合わせてっ!??!!!??!
「へっ!?」
「おや。」
「おぉ。」
「は、え、ええええええ?!?!!!な、何をしてるんですかイリスさん!」
「うふふふふ……見て分かりませんでしたか?頬にキスをしたんですよ。」
「そんなの分かってますよ!何でそんな事をしたのかって聞いてるんです!」
「そんなの決まってるじゃないですかぁ………九条さんの記憶に僕の事をシッカリと刻みつけるためですよぉ………」
「は、はああああああんぐううううう!?」
「マホ、朝も早いから少し静かにね。」
………………ハッ?!い、今何が起きたんだ!?急にイリスの顔が近づいて来たと思ったら左頬に……暖かくて……湿って……柔らかくて………!!?
「お、おま!いきなり何をんぐっ!」
「うふふふ………次はこっちを貰いますからね……僕の愛する九条さん。」
「んぐううううううう!!!」
イリスは人差し指で俺の唇をそっと触りながらドロっとした熱っぽい視線を向けてくると、後ろで叫ぼうとしているマホを見て微笑みながら馬車に乗り込んだ……
「うふふ……それでは皆さん、また機会がありましたらお会いしましょうね。」
挑発する感じでイリスがそう告げた瞬間、前方から馬の鳴き声が聞こえてきて馬車がゆっくりと動き出した………俺達はその場から急いで離れると、小さく手を振って遠ざかって行くイリスの姿をただ呆然と見送るのだった。
……さてと、それじゃあ後に残された俺はロイドに口元を塞がれて今にも暴れ出しそうなマホの事を何とかするしかないのか……ってか、最後の最後で何をしてるんだアイツはよおおおおおおお!!?!??!
「皆さん、天気が悪いのにわざわざ見送りに来てくれてありがとうございます。」
「いえいえ、私達がしたくてやっている事ですからね!」
「だな………それにしても、やっぱり雨が降っちまったか。」
「あぁ、どうせだったら晴れた青空の下でイリスを見送りたかったんだけどね。」
「同感。」
「うふふ、僕としては出会いも別れも雨の中という事を考えると運命的な物を感じてしまいますけどね。」
「……雨に見舞われる運命ってのは、あんまり歓迎したいとは思わないけどな。」
「ですね!お洗濯も乾きにくいですから!」
「そういうこっちゃねぇんだけどな……ってそう言えばイリス、荷物の方はもう運び終わったのか?」
「はい、初めから着替え等の荷物しか持ってきていませんでしたから。」
「それにこの休みもそこまで長期間の物ではないからね。本格的に長い休みに突入をするのは確か……」
「来月の半ばから夏季休暇になります。」
「夏季休暇……要するに夏休みですね!」
「あぁ、夏休みかぁ………………」
「おじさん?顔が死んでますけど、どうかしたんですか?」
「いや……ちょっと昔を思い出してな………」
1日中……ゲーム……ネット……ラノベ……どれだけ記憶を呼び起こしてみても、出て来るのはそればっかりだよ……友達と海に行った……花火大会に行った……淡い恋をしてみた……そんな記憶はこれっぽっちも出やしないねぇ!
まぁそりゃそうだよな!だってずっと家の中で過ごしていただけだからな!ってかそもそも友達とか居なかったし!あっはっはっ………青春って……何なんだろうな。
「あぁもう!勝手に思い出して勝手に落ち込まないで下さいよ!今日はイリスさんの事をお見送りしに来てるんですからね!それなのにおじさんのどよ~んとした顔とか見たくありませんよ!」
「なぁ……落ち込んでるって分かってるなら少しぐらい優しくしてくれよ………」
「うふふ、それなら任せて下さい……出発時間がくるまでの間、ずぅっと甘えさせてあげますからぁ………」
「あっ、急に元気になってきたぞ!ありがとうイリス!もう大丈夫だ!」
「……それなら良かったです。」
久しぶりに背筋がゾクッとする様な声を聞いて慌ててガッツポーズを決めた俺は、微笑みながらジッと見つめて来るイリスから静かに目を逸らすのだった……
「そろそろ王都行きの馬車が出発する時刻となりますので、ご乗車になる方々は遅れない様にお気を付けくださーい!」
その後も何度か似た様な事がありながら思い出話をして盛り上がっていると、馬車の方から御者の大きな声が響き渡ってきた。
「おや、いつの間にかもうそんな時間になっていたのか。」
「うふふ、何だかあっという間でしたね。」
「うん、もっと話したかったのに残念。」
「そうですね……でも仕方ありませんよ。イリスさん、最後までお見送りしたいのでお乗りになる馬車まで案内してもらえますか?」
「はい、分かりました。」
イリスはニコっと微笑んで歩き出すと、列の真ん中より少し後の方に停まっていた馬車の荷台近くで立ち止まり俺達の方に振り返ってきた。
「……皆さん、ここまでお見送りに来てくれてありがとうございます。それと、今日まで本当にお世話になりました。」
「ふふっ、お世話になったのはどちらかと言うと私達の方だけどね。」
「イリスのおかげで色々と楽が出来た。ありがとう。」
「いえいえ、僕は自分が出来る事をしただけですから。」
「そんなに謙遜しなくても大丈夫ですよ!本当に助かっちゃいましたから!ですよねおじさん!」
「あぁ、そうだな。」
「うふふ、そう言って頂けると嬉しいです……九条さん、最後にちょっとしたお願いがあるんですけど……良いですか?」
「ん、どうかしたのか?」
「……少しだけ、こちらに来て頂けませんか?」
「……え?」
「……やっぱり……あんな事をした僕の事は信じて貰えませんか……?」
「い、いや……そんな事は無いけど………」
突然されたお願いにどうするべきか戸惑いながら皆の顔を見回してみたんだが……どうやら反応を見る限りそれぐらい叶えてあげろって事みたいだな。
「……分かった、近寄れば良いだけなんだよな?」
「はい、そうです。」
まぁ……それぐらいなら大丈夫だよな?昨夜の事を色々と思い出して心臓の鼓動が激しくなり始めたって事を除けばの話だけどさ!
……心の中を悟られない様に2,3歩前に向かって歩いて行った俺は、物凄く至近距離から顔を見上げてくるイリスと目を合わせてっ!??!!!??!
「へっ!?」
「おや。」
「おぉ。」
「は、え、ええええええ?!?!!!な、何をしてるんですかイリスさん!」
「うふふふふ……見て分かりませんでしたか?頬にキスをしたんですよ。」
「そんなの分かってますよ!何でそんな事をしたのかって聞いてるんです!」
「そんなの決まってるじゃないですかぁ………九条さんの記憶に僕の事をシッカリと刻みつけるためですよぉ………」
「は、はああああああんぐううううう!?」
「マホ、朝も早いから少し静かにね。」
………………ハッ?!い、今何が起きたんだ!?急にイリスの顔が近づいて来たと思ったら左頬に……暖かくて……湿って……柔らかくて………!!?
「お、おま!いきなり何をんぐっ!」
「うふふふ………次はこっちを貰いますからね……僕の愛する九条さん。」
「んぐううううううう!!!」
イリスは人差し指で俺の唇をそっと触りながらドロっとした熱っぽい視線を向けてくると、後ろで叫ぼうとしているマホを見て微笑みながら馬車に乗り込んだ……
「うふふ……それでは皆さん、また機会がありましたらお会いしましょうね。」
挑発する感じでイリスがそう告げた瞬間、前方から馬の鳴き声が聞こえてきて馬車がゆっくりと動き出した………俺達はその場から急いで離れると、小さく手を振って遠ざかって行くイリスの姿をただ呆然と見送るのだった。
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