おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第148話

「それではまずこの階にある施設をご案内いたしましょう……と、その前にこちらをお渡ししておきましょう。」

部屋を出た直後、セバスさんが上着のポケットから王家の模様が刻まれている少し大きめの黒い手帳を取り出して俺に渡してきた。

「えっと、この手帳は?」

「それはミアお嬢様の1日の予定を書き込む為の物です。今後必要になりますので、常に胸の内ポケットに入れておいてくださいね。
それと手帳の最後の方には王城内の構造を記した地図と、奉仕する者としての心得の様な物が書かれておりますので時間がある時にお読みになってください。」

「わ、分かりました。」

渡された手帳を執事服の内ポケットに入れると、セバスさんは小さく頷いて連れて来られた方に向かって歩き始めた。俺も慌ててその後をついて行こうとしたのだが、急に立ち止まったセバスさんがニコリと微笑みながらこっちを見てきた。

「あの、どうかしましたか?」

「…廊下を歩く際は背筋を伸ばし、なるべく足音を立てない様に歩いてください。」

「…あっ、それって奉仕する者の心得ってやつですか?」

「はい、ご理解が早くて助かります。それでは参りましょうか。」

セバスさんはもう一度微笑むと、俺に手本を見せる様な感じで歩き始めた。
…流石にそれをやられると同じ様に歩かないって訳にもいかず、俺は背筋を伸ばして足音をなるべく立てない様に注意しながらセバスさんの後について行った。

「九条殿、ここが最初にご案内する場所になります。」

「ここって……もしかして使用人さん達が寝泊まりしてる所ですか?」

「おや、よくお気づきになられましたね。」

驚きの表情を浮かべて俺を見てきたセバスさんの後ろには、沢山の部屋の扉が一定の間隔で並んでいた。

ってか、やっぱりそういう感じの場所だったか。ロイドの実家でも似た様な光景を見た覚えがあったから試しに言ってみたんだが、予想が的中したみたいだな。

「九条殿の言う通り、ここは城の使用人が寝泊まりしている部屋のある場所です。
まぁ、ここに寝泊まりしているのは主に男の方達だけなのですけどね。女性の部屋がある廊下は、ここから離れた場所にございます。くれぐれも、立ち入らぬ様にお願い致しますね。」

「…もしも立ち入ったら?」

「奉仕義務の期間が延長する可能性がございますね。」

「あぁ、やっぱり……他にもそういう場所があるんですか?」

「はい。それに関しましてはお渡しした手帳の地図に記されておりますので、後ほどご確認をお願い致します。」

「わかりました…あの、ここに俺がこれから寝泊まりする部屋があるんですか?」

「いえ、九条殿のお部屋はこちらにはございません。」

「そうなんですか……え、じゃあ俺は何処で寝泊まりをするんですか?」

「ほっほっほ、心配せずとも最後にご案内いたしますよ。では、次の場所に向かうといたしましょうか。」

…どうしよう、ここが九条殿の寝泊まりする場所でございます!とか言って、馬小屋みたいな所に連れて行かれたら……正直、身元不明の俺に為にわざわざ部屋を用意してるのか考えてみたら不安でしかなにですけど?!だ、大丈夫だよな?ちゃんとした部屋を用意されてるって信じても良いんだよね?……ねぇ!?

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