おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第127話

ニックさん達が帰った翌日から、エルアのやる気がかなり上がった気がする。
これまでは午前中はロイドが武器の扱いを教えて、午後はソフィが魔法の扱いを教えその後にクエストに行ってレベル上げをするという感じでやっていたのだが・・・

それが午前中はロイドとソフィから同時に戦い方を教わるようになって、午後からはレベル上げに集中するという感じに変わっていた。まぁ、エルアも特訓のおかげで体力がついてきたから無理のない範囲のギリギリで頑張る様になったんだろう。

その気合に応える為に俺も料理を教えようと思った・・・んだけど、やっぱりアレだね。女の子って分かってからもう簡単に近づけなくなっちゃったね!
だってこれまでは可愛いけど男だから平気平気!って思ってたのに、可愛い女の子として認識する様になったんだからそりゃ無理だよね!

まぁ、俺が教えなくても普通に料理は作れるようになってきてるから特に問題ないんだけどね!それにとりあえず困ったら・・・・

「後はこれまで教えてきた通りにやれば大丈夫だ!さぁ、自分を信じて頑張れ!」

って、言っておけば何とかなるからな!・・・いや、これは俺がヘタレとかって訳じゃなくて師匠として!弟子を信じてるだけだから!だからマホはいつもの呆れた目で俺を見るのを止める様に!おっさんはナイーブだからね!

・・・こんな感じで時間は過ぎていき、エルアが王都に戻る3日前の午後に俺達は討伐クエストを受けつつエルアのレベル上げをしていた。

「はぁ!・・・ふぅ、これでクエスト達成ですかね?」

「あぁ、よくやったなエルア。最後の一撃、中々気合の入った攻撃だったぞ。」

「そ、そうですか?」

「うん。私やソフィが教えた事をしっかりと活かして戦えていたし、攻撃を盾で防ぐタイミングもバッチリだったよ。」

「それに魔法の扱いも上手くなった。」

「あ、ありがとうございます!」

「・・・よしっ、そんじゃあ一段落着いた事だしエルアのレベルの確認してみるか。こんだけ毎日の様にモンスターを狩ってきたんだから流石に上がってるだろ。」

「そ、そうですよね。それにさっきのモンスター倒した瞬間、何だか体が軽くなった感覚がありましたから・・・きっと・・・」

エルアは真剣な表情のままカードを取り出すと、自分のステータスを確認した。
・・・おっ、エルアが嬉しそうな顔をして小さくガッツポーズしたぞ。

「・・・皆さん!レベルが4に上がりました!」

「そうか、そんじゃあこれでダンジョンに挑む準備は完了したな。」

「あぁ、それにしても良かったよ。数日後には王都に戻る予定だったからね。」

「うん、何とか間に合った。」

「はい!皆さん、本当にありがとうございました!」

(うぅ・・・!本当に良く頑張りましたねエルアさん!)

(いや、感動してるとこ悪いんだがまだ準備が終わったってだけだからな?)

まぁ、マホの気持ちも分からんでもないんだけどさ。俺も毎日の様にレベル上げを手伝ってたから達成感とか物凄いしな・・・でも、大変なのはこれからなんだよな。

「よしっ、そんじゃあもう街に戻るとするか。エルアの残りの滞在日数を考えると、明日にはダンジョンに挑まないといけないからな。」

「あぁ、王都に戻る前日にダンジョンと言うのは焦りが生まれて危険だろうからね。それに折角だし最後の日は一緒に街を散策したいんだが・・・どうだろうエルア?」

「え、あ、はい!僕も皆さんと最後の思い出に街を見て回りたいです!」

「それじゃあ明日にはダンジョンに挑んでボスを倒す。」

「いや、ボスを倒すのはエルアだからな?俺達はあくまでもサポートだから。」

「・・・そうだった。ごめんねエルア。」

「い、いえ!こちらこそすみません、我儘を言ってしまって・・・」

「ううん、気にしないで。」

申し訳なさそうにソフィに謝るエルアを見ながら、俺はニックさんが帰った翌日の事を思い出していた。あの日、エルアは僕がボスを倒すので皆さんにはサポートして欲しいと言ってきた。

それを聞いて驚いた俺がそうしたいと思った理由を尋ねてみると、自分はもう弱い護られるだけの子供じゃない。ニックさんの力なんか無くても母親と自分を護る事が出来るんだって事を証明したいんだとさ。

・・・あぁ、ニックさんがご家族の為に色々と頑張ってたんだって言いたい!でも言えない!だって俺が言った所で絶対に信じやしないだろうから!・・・そんな訳で俺達は、エルアのその提案を受け入れる事にした。

まぁエルアもちゃんと自分が実力不足だって事は実感しているので、そこまで無茶はしないだろうけど・・・意固地になってボスに攻撃したりするのは避けないとな。だって、もしそれでエルアが大怪我しようものなら・・・・俺がその数十倍の怪我を負う事は目に見えているからな!だから危なくなったら命懸けで護る!絶対に!

「そうだ、帰る前にダンジョンを見に行かないか?決意を新たにする為にもさ。」

自分に課せられた使命を思い出して密かに気合を入れていると、ダンジョンに視線を送るロイドがそんな提案をしてきた。

「決意を新たにか・・・そうだな、俺は行っても良いぞ。」

「私も行きたい。」

「ぼ、僕も行きます!」

「うん、それじゃあ早速向かうとしようか。」

ロイドが頷いたのを合図にして、俺達は平原の奥の方に見える氷の屋敷に向かって歩いて行った。そして改めて近くから屋敷を眺めてみたんだが・・・・

「やっぱ、間近で見るとすげぇよなあ・・・」

「うん。とても広そう。」

「・・・あ、そう言えばこのダンジョンはもう誰か挑んだんでしょうか?」

「ん?いや、どうなんだろうな・・・」

「ふふっ、安心して良いよ。クエストを受注する時に受付で話を聞いてみたんだが、このダンジョンに挑んだ者は1人もいないようだ。」

「へぇ・・・結構レアな感じのダンジョンだから、斡旋所で報告があった時点で誰か挑むと思ってたんだがな。」

「何でも、こんな寒い時期にこんなダンジョンに挑む者はいないそうだよ。」

(まぁそうですよねぇー・・・そもそもこの時期に入ってから、クエストを受ける人をあまり見かけませんから。)

(・・・だな。ほとんどの冒険者は、街で冬眠中だからな。)

正直、俺もエルアが来なかったら他の冒険者を見習って家の中でぬくぬく過ごしてたろうしなぁ・・・そうなったら、腹回りの肉が大変な事になりそうだが・・・

抗えない誘惑と言うのは存在するのだよ!だって俺、普通に引きこもり体質だし!
マジで仕事ない日は延々家にこもってゲームか、動画を漁るしかしなかったし・・・うん、ある意味エルアが来てくれて良かったかもしれないな!

「・・・うぅ、てかこのダンジョンの周辺マジで寒いな。明日は防寒をしっかりしとかないと武器もまともに握れそうにないぞ。」

「大丈夫。戦ってれば体は温まる。」

「そうだね。ダンジョン内にはモンスターも居るだろうから、ボスの部屋に辿り着く頃には体はポカポカだろうね。」

「なるほど、つまり防寒をしっかりしすぎても駄目って事ですね!」

「ふふっ、しすぎなくても風邪をひくから丁度良い感じでね。」

「はい!分かりました!」

「・・・ぶうぇっくしゅい!!・・・ふぅ、そろそろ戻ろうぜ。」

「あぁ、ダンジョンに挑む前に風邪をひいては本末転倒だからね。でも、家に帰る前にダンジョンに挑む為のアイテムを買い揃えないとね。」

「うん。何があるか分からないから。」

「そうですね・・・いよいよ明日か・・・」

エルアが真剣な表情でダンジョンを見上げたので、俺達も同じ様にダンジョンに目を向けた・・・さて、明日はどうなるんだかねぇ・・・てか、エルアとニックさんの問題も・・・まぁ、少し助け舟を出せば何とかなんだろう。ちょっとした行き違いでこじれてるだけだろうからな。

そんな事を思いながら俺は皆と一緒に街に戻ると、ダンジョンに挑む為のアイテムを買い揃えた。そして早々に解散すると明日に備えて体を休める事にした。
全ての決着は明日・・・どんなモンスターやボスが襲ってくるのかは分からないが、覚悟決めて行くしかねぇか!可愛い弟子の為にな!

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