おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第117話

マホとエルアに気を遣われて軽々しく師匠となった自分に対してほんの少しの絶望を感じていると、マホが俺を気遣う様に小さく手を叩いた。

「と、とりあえずおじさんが師匠として教える事が決まったという事で、この後の事を決めちゃいましょうか!」

「・・・この後の事?」

「はい!武器と魔法の扱い方をエルアさんに教えるって言うのは決まりましたけど、流石にこれからって言うのは難しいと思うんです!お二人にとっては急なお話しですからね!」

「まぁ、確かにそうか。」

マホの言葉に頷きながら2人を見てみると、ロイドは腕を組んで顎に手をやりながら考え込む様な表情を浮かべていた。

「ふむ、そうだね・・・私も盾を使っての戦闘訓練は久しぶりだし、まして人に教えるなんて初めての経験だ。色々と準備をして・・・教えられるのは明日の午後からになるかな。」

「私も同じく明日の午後からで。」

「わ、分かりました・・・あの、すみません・・・・突然お邪魔してご迷惑をおかけしてしまって・・・」

ロイドとソフィの言葉を聞いたエルアは、しょんぼりとしながら頭をさげた。
そんなエルアの姿を見たロイドは、小さく微笑みながら近づいて行くと肩に手を置いて顔を上げさせた。

「ふふっ、迷惑だなんてとんでもない。むしろこれから2週間ほど退屈しない日々が送れそうで感謝しているくらいだ。」

「うん、私もワクワクしてる。」

「・・・そ、そう言って頂けると嬉しいです。」

・・・・あれ?俺の弟子がどんどん師匠の存在を忘れてってる気がするぞ?
おかしいなぁ・・・と、思っているとマホが俺の肩を叩いて悲しい生き物を見る様な目で見てきた訳でして・・・まぁ、腹が立ったのでマホの頭に軽くチョップしてやりました!

「はいはい和んでるとこ申し訳ないが、今日の予定を決めちまうぞ。とはいっても、一応の考えはあるんだけどな。」

「へぇ、そうなんですか?参考までに聞かせてください!」

「はいよ・・・なぁエルア、さっきこの街は初めてって言ってたよな?」

「あ、はい、言いました。僕、王都から出るのも初めてで・・・」

「そうか。じゃあつまり、この街の事について全然詳しくないって事だよな。」

「はい、すみません・・・マップも貰ったんですが、いまいち分からなくて・・・」

「いやいや別に謝る事じゃないって。だがまぁ、これで今日の予定は決まったな。」

俺はそう言いながらニヤリと笑ってマホに視線を送った。それを受けてマホは少しだけ不思議そうな表情を浮かべていたが、すぐに俺の意図に気が付いて表情をパッと明るくした。

「なるほど!エルアさんに街を案内するんですね!」

「そういう事だ。短い滞在期間とはいえ知ってれば得になる様な事も多いだろ。
だからこれから俺達でエルアにこの街の事を案内しながら教えてやるよ。皆もそれで大丈夫か?」

皆の顔を見ながら確認してみると、戸惑うエルア以外は普通に首を縦に振ってくれた。そして当の案内されると言われた本人はと言うと・・・

「え、えっと、本当に良いんですか?」

「勿論良いに決まってるだろ?だって俺が言い出した事だし、皆も賛同してくれたからな。それともエルアの方に用事があるか?それなら無理にとは言わないが・・・」

「い、いえ!そんな事ありません!ご案内してくれるならとっても助かります!
むしろこちらからお願いしたいくらいです!」

「ふっ、そう言って貰えると助かるよ。よしっ、そんじゃあ早速出掛けるとするか。何処に行きたいとかリクエストあるか?」

「え、えっと・・・本が売っている所に行きたいんですが・・・」

「あっ、そうなんですか?実は私達、今日は本屋さんに行こうって話してたんです!エルアさんは本屋さんにどんな本を買うんですか?」

「あの、必須課題に必要な本をちょっと見ようと思ってて・・・それと宿屋に戻った時に見る本を少々・・・」

「あぁ、そう言えば冬休みの課題が出てるんだったね・・・ふむ、もし良かったら私が見繕ってあげようか?」

「えっ!?そ、そんなご迷惑をかける訳にはいきませんよ!」

「いや、別に迷惑なんて事は無いさ。王立学園の先輩として、後輩を手助けしたいと思うのは普通の事だよ。それともお節介だったかな?」

「そ、そんな事ありません!お力を貸して頂けるならとっても嬉しいです!」

「うん、了解。」

「それじゃあ私はお勧めの本を教えてあげる。面白いやつ。」

「は、はい!よろしくお願いしますソフィさん!」

背筋を伸ばして緊張しながら返事をするエルアを見ながら微笑ましく見ていると、マホが満面の笑みを浮かべてリビングから廊下に通じる扉を開けて俺達を見てきた。

「さぁ予定も決まった事ですし、皆でお出掛けしましょうか!」

おぉおぉ随分楽しそうだな。まぁ何だかんだ言って、俺もこの非日常を楽しんでるから別に文句は無いけどさ・・・そんな事を感じながら小さく笑った俺は、エルアに街を案内する為に皆と一緒に家を出るのだった。

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