おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第106話

あれからなんやかんやと時間は過ぎて翌日の朝、帰り支度を済ませた俺達は部屋を出て扉の前に集まっていた。

「よしっ、忘れ物は無いな。」

「はい!大丈夫です!」

「私も問題ないよ。」

「完璧。」

「そうか、じゃあ行くとするか。」

俺は荷物を持ちなおして扉の鍵を閉めると、エレベーターに乗って1階に降りた。
そして部屋の鍵を返す為に受付に向かっていると、背後から突然服を引っ張られた?
不思議に思って振り返ってみると、そこには見知らぬ少女が目をキラキラさせな
がら俺の事を見上げていた・・・・え、だ、誰だこの子?

「あ、あの!きのうみてました!」

「は、え?」

「すごくかっこよかったです!かんどーしました!」

「あ、あぁ・・・どうも?」

突然の事に戸惑いながら皆の事を見てみると、どうやら俺と同様に戸惑っている
みたいだった。どう対処するべきかと困っていると、貴族風の男女がこっちに駆け
寄って来て女の子を俺から引き離すと深々と頭を下げてきた。

「す、すみません!娘がご迷惑をおかけしてしまって!」

「本当に申し訳ない!」

「あぁいえ、別に大丈夫ですけど・・・」

どうして娘さんはこんな事を?的な事を思いながら父親の事を見ると、彼は俺の
意図を察したのか申し訳なさそうに娘さんに目を向けた。

「実は昨日、テーマパークでイベントの様子を拝見させてもらったんです。
そうしたら娘が貴方のファンになった様でして・・・それで貴方がエレベーターから降りて来るのを見た娘は居ても立っても居られず・・・本当に申し訳ありません。」

「あ、あぁ!いえいえそういう事でしたか!なるほどなるほど!」

え、いまこの人、娘が俺のファンになったって言ったよね?・・・へ、へぇ!
何て物珍しい子なんだろうな!こんなごく普通のおっさんのファンになるなんてさ!

「・・・おじさん、顔が物凄くにやけてますよ。」

「へっ?!い、いやそんな事は無いだろ!うん!・・・ふへへ・・・」

「はぁ、普段目立つのは絶対に嫌だとか言ってる癖にだらしないんですから・・・」

「まぁまぁ、こんな可愛らしいお嬢さんにファンだと言われたら嬉しくもなるさ。」

「九条さん、良かったね。」

「お、おぉ!ま、まぁ一時的なもんだとは思うけどな!でも、あ、ありがとな!」

俺は女の子の前にしゃがみ込むと、出来るだけ爽やかさを心がけて笑いかけた。
そしたら女の子は満面の笑みを浮かべて握手を求める様に手を差し出してきたので、父親に視線を向けて許可をもらうと恐る恐るその手を取って握手をした。

「ありがとうございます!これからもがんばってくださいね!」

「おぅ!・・・何を頑張るのかは分からないけど頑張るよ!」

女の子と握手をした後、何とサインまで求められちゃった俺は浮かれまくって
生まれて初めてのサインを書いた!まぁ、普通に名前を書いただけだけどさ!
その後、俺達はその家族に別れを告げて受付に鍵を返すとホテルを出て馬車乗り場に向かって歩いていた・・・いやぁ、それにしても・・・

「まさか俺のファンが現れるとは予想もしてなかったなぁ。」

「そうですか?昨日のおじさんは少しだけ格好良かったので、理解できなくもないんですけどね。」

「確かに、戦闘している姿は格好良かった思うよ。」

「攻撃をかわして反撃した所も良かった。」

「・・・お、おぅ・・・そうか・・・・」

・・・え?これはどうリアクションするのが正解なんだ?喜べば良いのか?
恥じらえば良いのか?てか何でそんなサラッと言えるんだ・・・恐ろしい奴らだな!
俺の心臓がもう少しでパァンとなる所だぞ全く!

「あっ!もしかして昨日のイベントに最後まで残ってた人じゃないですか?」

「えっ?」

褒められ慣れてないせいで変な汗を背中にかいていると、通りの向こうから歩いて来た男性が突然声をかけてきた。どうやらさっきホテルで会った子と同じで、昨日のイベントを見ていた人らしい。その人も何か凄い興奮しました!とか感動しました!とか言ってそのまま去っていった・・・それから馬車乗り場に向かうまでの途中、
何人かの人が似た様な感じで声をかけてきた・・・のだが・・・・

「はぁ・・・しんどい・・・」

「お、おじさん大丈夫ですか?」

「・・・凄い神経がすり減った気がする・・・やっぱ目立つんじゃなかった・・・
てか、何で最後に必ず惜しかったですね!とか、残念でしたね!とか言ってくる訳?何?優勝できなかった事に対する当てつけか?はぁ・・・しんどい。」

「おやおや、随分とやさぐれてしまったようだね。」

「改めて自覚した・・・俺、目立つの本当に好きじゃない・・・」

「お疲れ様。もう馬車乗り場に着くから安心して。」

「やっとか・・・マジで疲れたな・・・」

「ふふっ、慣れてないとそうなるだろうね。」

「そうか・・・なぁ、ロイドはよく目立ってるけど・・・てか、俺が目立たせたり
してるんだけど辛いとか思った事は無いのか?」

「幼少の頃はそんな思いもあったけど、今は別にそんな事は無いかな。」

「へぇ、どうして大丈夫になったんだ?」

「んー・・・簡単に言えば慣れだね。父の付き合いで人前に出る機会も多かったからいつの間にか慣れていたよ。だから九条さんも今回の様な機会が増えればいずれ慣れると思うよ。そうだ、父に頼んで九条さんの為の社交界でも開いてもらおうか?」

「・・・うん、お断りだね!」

「まぁ、そう言うと思ったよ。」

・・・爽やかに微笑むロイドの横顔を見ながら改めて実感したね。今後もロイドには頭が上がりそうにないとな!・・・出会ってからずっと上がった事ねぇけどさ。

「あっ、皆さーん!おはようございまーす!」

話しかけてくる人もいなくなって一安心しながら馬車乗り場に向かっていると、
前方から聞き覚えのある可愛らしくて素敵な声が聞こえてきた!その直後、マホが前を指さしながら笑顔を浮かべてこっちを見てきた。

「皆さん見てください!馬車乗り場の所にフラウさんが居ますよ!」

マホの言う通り馬車乗り場にはフラウさんが居て俺達に向かって小さく手を振っていた。それからすぐ後に合流した俺達は、フラウさんに挨拶をしていた。

「おはようフラウさん。どうしてここに居るんだ?」

「もうおじさん!そんなのここに居る時点で決まってるじゃないですか!
フラウさんも王都に行くんですよね?」

「はい、マホさんの言う通りです。ミューズ街でのお仕事も終わったので、王都で
少しの間のんびりしようかと思ってまして・・・皆さんもこれから王都に?」

「そうです!まぁ私達は街に帰る為に王都で1泊するだけなんですけどね!」

「なるほど、そういう事でしたか・・・あっ、そう言えば皆さん手続きがまだでしたよね?」

「あっ!そう言えばそうでした!」

「ふむ、少し急がないと他の乗客達に迷惑をかけてしまいそうだね。」

「そ、それじゃあフラウさん。俺達はこれで!」

「はい。それではまた。」

フラウさんは丁寧にお辞儀をすると自分が乗る馬車に乗り込んで行った・・・ん?いま、それではまたって言ったか?もしかして・・・・

「さて、今回も5人乗り馬車だから後方の列だろう。急いで探すとしようか。」

「はい!あ、もしかしたらまたフラウさんの同じ馬車かもしれませんよ!確認して
みましょう!」

「お、おう。そうだな・・・」

その後、マホの提案通りフラウさんが乗った馬車の御者の人の乗車券を見せると
俺達が乗る馬車だという事が判明した・・・え、フラウさんはこうなる事を見越してたのか?・・・まぁ、そうなったら良いな的な感じだろ多分。

それよりもまたフラウさんと一緒でラッキーだぜ!この疲れ切った心を癒すには
やっぱり美人の顔が一番だしな!・・・よしっ、今回は絶対にバレない様チラ見してやるぞ!・・・そう意気込んで俺達は馬車に乗り込むと、ミューズ街に別れを告げてフラウさんと一緒に王都を目指すのだった。

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