おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第101話

真っ暗な檻の中で少し待っていると、天井の照明が部屋全体を明るく照らした。
それと同時に檻の扉が開いたので、俺は勝ち残った参加者と顔を見合わせて部屋の中に足を踏み入れた。その直後、檻の扉が閉まり天井に巻き上げられていった。

・・・うん、とりあえずざっと見た感じおかしな所は無いみたいだな。床はあるし天井に電気が走ってるわけでもない。そんで部屋の奥に扉があるからあそこに行けば良いんだろうけど・・・こんな普通の部屋で何をするんだ?

『皆さん!最初のステージを乗り越えてここに辿り着けた事を祝福させて下さい!
おめでとうございます!ですがこの部屋は先ほどよりも過酷かもしれませんよ!
それではステージの準備を始めたいと思います!申し訳ありませんが、その場で少々お待ちください!』

実況がそう言った瞬間、突然床が激しく揺れ始めて下の階で聞いたのと同じ様な機械音が聞こえてきた!必死に倒れない様に揺れに耐えていると、床に大きな穴が出現してそこから見覚えのある姿がせり上がってきた・・・あ、アレはもしかして!?

「カ、カイちゃんと・・・トウくん?!」

まさかのマスコットキャラクターの登場に驚き戸惑っていると、揺れが徐々に収まって穴も塞がっていった・・・いやそれよりも何で2人・・・いや2匹がここに?
てか、テーマパークで見かけたのよりも細身だし何で動かねぇんだ?怖いんだけど!

『さぁ!ステージの準備が整いましたので、ルール説明をさせて頂きます!
ですが今回もルールは簡単です!カイちゃんとトウくんの首元にぶら下がっている
鍵を取って扉の鍵穴に差し込むだけです!』

ぶら下がってる鍵?・・・あぁ、確かに黒と白の鍵がそれぞれぶら下がってるな。
てかルールは確かに簡単だけど、さっき過酷って言ってたから確実に何か仕込まれてんだろうなあの2匹・・・何があるんだ?

『ただし皆さん気をつけて下さいね!カイちゃんとトウクンは鍵を取られまいと必死に抵抗します!下手したら腕輪が機能停止してしまうかもしれません!ですので、
頑張って腕輪を護ってくださいね!』

おいおい、腕輪が機能停止する様な抵抗って何すんだあの2匹?てか、そもそも
あの中に人って入ってんのか?だったらそんな激しく動けないだろうし・・・

『それと次のステージに進めるのは鍵穴に鍵を差し込んだ人だけ!つまり2名だけとなります!ですのでカイちゃんとトウくんから鍵を取っても、他の参加者に注意した方が良いかもしれませんね!・・・それでは、ブザーが鳴ったらスタートです!』

実況の声が聞こえなくなってから数秒後、部屋の中にブザーの音が響き渡った!
その直後、俺と仮面メイドの間に立っていたイケメンと渋いおっさんが激しい風を
巻き起こして叫び声をあげながら2匹に向かって突っ込んで行った!

「うぉおおおお彼女と一緒に高級ホテルに泊まるんだああああ!!!」

「うぉおおおおお優勝して妻と娘に見直されるんだあああああ!!!」

『おぉっと!参加者2人が他の2人を出し抜いてカイちゃんとトウくんに向かって
行った!これは一瞬で決着がついてしまうのかぁ!』

何てムカつく叫び声と悲しい叫び声だ!ってかそんな事より何で同時に突風を起こすんだよ出遅れたじゃねぇか!畜生、俺も急いで行かないと!

「ちょっと待って。」

「うおっ!な、ちょっいきなりなんだよ!?」

駈け出そうとした俺の前に突然仮面のメイドが飛び出してきた!そのせいで動きを止めてしまった俺の視界には、2匹に急接近した2人の姿が!ヤバい鍵が取られる!

「まぁ見てなさい。」

仮面のメイドがそう言った直後、カイちゃんとトウくんが突っ込んで行った2人の側面に素早く回り込んだ?!そして手を後ろに回すとカイちゃんは弓の様な物を、
トウくんは警棒の様な物を取り出した・・・?

「「えっ?」」

2人が驚きの声を上げた瞬間カチッと音がして、2匹の持っているおもちゃっぽい武器がバチバチと音を鳴らしながら青白く光り始めた!?おいアレってまさか!

「「ぐわああああああ!!!」」

おっさんはカイちゃんが弓で放った電撃により腕輪を撃ち抜かれながら感電し、
イケメンはトウくんが振り下ろした警棒で腕輪を壊されながら感電していた!
そして2人は床にバタリと倒れこむと、突然出現した穴の中に落下していった・・・
そして2人が消えて穴も閉じると、武器を持ったまま動かなくなった・・・って!

「何アレめっちゃ怖いんですけど!無表情のまま2人を始末して動きを止めたぞ!?どうなってんだよ!てかアレ着ぐるみの中に人が入ってるんじゃないのかよ!」

『ちょっと!着ぐるみとか言わないでください!中に人は入ってませんから!』

「いや嘘つけよ!あれどう見たって着ぐるみだろうが!」

『嘘ではありませんよ!あの中には当テーマパークの最新鋭技術が組み込まれているんですから!』

「どんなテーマパークだ!?って事は何か、マジであの中には誰も入って無くて機械が自動的に動いているだけって事か!」

『その通り!鍵を取ろうとすると必死に抵抗するとご説明したではありませんか!
つまりはこういう事です!』

「必死にもほどがあるわ!何だあの無駄のない動き!?あれから鍵を奪い取るとか
どうしろってんだ!こっちにも武器とか無いのかよ!」

『申し訳ありませんがご用意していません!何故ならカイちゃんとトウくんに武器を向けるなんて許されないからです!』

「おいそれじゃあ客に向かって武器を向けるのはありなのかよ!」

『ありです!何故なら2人・・・いえ、2匹はカイトウなのですから!』

「いやそれで納得できるか!」

適当すぎる実況の言葉に段々とイライラしてきていると、俺の前に立っていた
仮面のメイドが腕を組みながらこっちを見てきた!

「ほら、落ち着きなさい。あんまり騒ぐと後で恥ずかしいわよ。」

「いや、なんでお前はそんなに冷静なんだよ!アイツらから鍵を奪えってそんなの」

「なに、簡単な事よ。私と貴方が力を合わせればね。」

「・・・・は?」

『おぉっと!これはまさかの共闘の申し出です!彼は仮面のメイドからの提案を受け入れるのでしょうか!』

「いや、受け入れるも何も・・・」

そもそもこんな怪しい奴を信用すると思ってるのか?素顔も本当の声も分からない様な相手を?まさかそんな・・・

「あら、断る理由は無いんじゃない?残ってる鍵は2つで、参加者は私達だけ。
だったら協力して鍵を奪いに行くのが得策じゃないかしら。」

「だが、鍵を1つ取った時点で裏切る可能性もあるだろ。」

「そこは信用してもらうしかないわね。さぁどうするの?男だったらさっさと決めてちょうだい。」

うわ、もう完全に主導権を握られてるよ・・・でもコイツの言う通り、協力した方が鍵が手に入る確率は高いし・・・でも、裏切られる可能性も・・・でも、俺1人であの2匹を相手するのは分が悪すぎるし・・・!

俺は頭をガシガシと掻きながら考えをまとめると、仮面のメイドに目を向けた。
そして叫ぶ様にして2匹を睨みつける!

「・・・あぁもう!分かった協力してやるよ!」

「ふふっ、それで良いのよ。」

仮面のメイドは俺の隣に立つと、何処からともなく出現させた頑丈そうなワイヤーを手に巻き付けていた。

「それじゃあこれからあの2体をワイヤーで縛り上げて動きを止めるんだけど、貴方にはその隙に鍵を奪い取ってちょうだい。」

「何だ、随分と簡単な作戦だな。」

「えぇ、作戦はシンプルな方が良いでしょ?特に初対面同士ならなおさらね。
信頼関係も何も無いのに複雑な作戦を実行したって失敗するだけだわ。」

「まぁ、そりゃそうだな。」

俺は肩をすくめながら体勢を低くして足元に風をまとわせると、仮面のメイドに視線を送り小さく頷いた。それに返す様にして仮面のメイドも頷くと、小さく息を吐いて数十本程のワイヤーをカイちゃんとトウくんに向かって投げ飛ばした!

『これは凄い!仮面のメイドが投げたワイヤーがカイちゃんとトウくんに巻き付いて動けなくしてしまった!これは絶好のチャンス到来か!?』

「おぉ!やったじゃねぇか!流石だな!」

「ぐっ、どうもありがとう!でも早い所鍵を取って来てくれる!アイツら見た目に
反して凄い力だから、長く持たないかもしれないわ!」

「何っ?!」

慌ててワイヤーの先に居る2匹に目を向けると、力任せにワイヤーを引きちぎろうとしている姿が目に入ってきた!まずいと思った俺は慌てて2匹に向かって走って
行き、そして勢いそのままにトウくんの前を通り過ぎながら鍵を奪い取った!

そして鍵を手に入れた俺は急いで足でブレーキを掛けつつ、今度はカイちゃんの
鍵を奪い取ろうとした!だがカイちゃんの鍵を奪う前にワイヤーが引きちぎられて、カイちゃんは俺に向かって弓を引いて構えやがった!

「やべっ!」

鍵に手を伸ばした状態の俺はカイちゃんの攻撃がけられそうにない!
そう思った瞬間、弓を構えていたカイちゃんの腕がグイッと上がった!これなら!
覚悟を決めて飛び込む様にしてカイちゃんの鍵に手を伸ばした俺は、何とか鍵を手に入れるとそのまま転がるようにして進み急いで体勢を立て直した!

「お帰り、鍵は手に入れられたみたいね。」

「おかげさまでな。あの瞬間弓を構える腕を上げてくれて助かったよ。」

俺はカイちゃんから奪った白い鍵を仮面のメイドに手渡した。それを受け取った
仮面のメイドは鍵を見ながら奥にある扉を見据えていた。

「あそこで貴方がやられたら鍵の回収が面倒だからね。さぁ、後は扉に行くだけよ。気合入れて頂戴ね。」

『何ということでしょうか!初対面にも関わらず見事なコンビプレーを見せ、鍵を
2つとも手に入れました!これは凄いです!ですがここで終わりではありません!
扉の鍵穴に鍵を差し込まないと、次のステージにはいけませんからね!
そして鍵を奪われたカイちゃんとトウくんは、必死になって奪い返しにきます!
さぁ見事2人は鍵を使って次のステージに行くことが出来るのでしょうか!?』

実況がそう叫んだ直後、トウくんが俺に向かって突っ込んできて武器を振り下ろしてきた!それを横に飛んでかわすと、トウくんの背後で仮面のメイドがワイヤーを手にしているのが見えた!だが!

「おい!狙われてんぞ!」

仮面のメイドは俺の声を聞いて顔を扉の方に向けて、弓を引いているカイちゃんの姿に気が付いた!その瞬間、カイちゃんの放った電撃が仮面のメイドに向かった!
仮面のメイドはそれを後ろに飛んでけると、カイちゃんに向かって走っていった!

『カイちゃんとトウくんはそれぞれの鍵を持つ人に向かう様に設定されています!
ですので、頑張って逃げながら扉を目指してください!』

「そういう事は!先に言え!」

俺はトウくんから繰り出される攻撃を避けながら、何とか扉に向かおうとして
いた。だがコイツ、俺の移動を邪魔する様に攻撃して来やがる!こうなったら!

「おい!これ反撃しても良いんだよな!」

『えぇ勿論です!出来るならばですが!』

「なら遠慮なく!」

機械で動いてるならどうせ電気が弱点だろ!だったら思いっきりやってやる!
俺はトウくんの攻撃を身を低くして回転しながらかわすと、足に電気をまとわせてトウくんの顔面に回し蹴りを入れた!

『おぉっと何ということでしょうか!トウくんの攻撃を避けたと思ったら顔に蹴りを入れました!これはひどい!当テーマパークのマスコットキャラクターに何て事を!これにはたまらずトウくんもダウンか?!』

何がひどいだ!こうでもしないとやられるっての!でもこれで動きが止まったな!あっちの方はどうなってる!

「いい加減しつこいわ!」

仮面のメイドはワイヤーをカイちゃんに巻き付けながら、そこに目に見える程の
電撃を放っていた!それを受けたカイちゃんは、ガタガタと変な動きをする様に
なっていた!

「おい!今の内に鍵を開けるぞ!」

「分かってるわ!」

俺は仮面のメイドと合流すると急いで鍵穴に鍵を差し込んだ!その直後、背後で
モーターが焼き切れるような音が聞こえたと思ったらアイツらガタガタ揺れながら
こっちに向かって来やがった!ちょ、ホラー映画か何かですか?!怖すぎるんだが!

「ほら鍵空いたわよ!早く入って!」

ガチャンと音が鳴った扉を思いっきり引いて開けると、仮面のメイドは中に入っていった!その後に続いて俺も中に入ると、急いで扉を力任せに閉めた!バタンと音を立てて閉まった扉の向こうから、カイちゃんとトウくんが扉をガンガンと叩く音が
聞こえてきた・・・・はぁ・・・マジで怖かったぁ・・・軽く泣きそう・・・

『これは凄いですね!カイちゃんとトウくんとの必死の攻防の末、参加者2名が次のステージ進むことが出来ました!モニターを見ている皆さん、盛大な拍手をお願い
します!』

実況の煽り声が聞こえる中で膝に手をついてバクバクする心臓を鎮める様に深呼吸していると、仮面のメイドが俺の前に立ってきた。

「さぁ、行きましょうか。あんまり観客を待たせるものではないわよ。」

「いや、そんな事気にしてられないんだが・・・はぁ・・・まぁ分かったよ。
行きゃいいんだろ全く・・・人使いの荒い奴だな・・・」

「ふふっ、そういう人はお嫌いかしら?」

「いや、別に嫌いじゃないが初対面の相手だと抵抗があるだけだ。」

「なら、抵抗がなくなるくらい仲良くなってみる?」

「・・・・お前の素性が分かったらな。」

「あら残念。それは無理な相談ね。」

「そうか、なら仲良くなるのは難しそうだ。」

俺は膝について手をグッと押しながら体勢を立て直すと、目の前にある大きな階段に目を向けた。どうやらこの先が最上階っぽいんだよなぁ・・・

「よしっ!そんじゃあ行くとするか。」

「えぇそうね。」

何だかよく分からない連帯感を感じながら、俺は仮面のメイドと一緒に長い階段を上がっていく・・・そしてその先に会ったのは、本当に本当にバカでかい扉だった。
この先が最後になるのか?なら、気合を入れて行くとしますか!

そう意気込んで仮面のメイドと扉の前に立った俺は、ゆっくりと引きずる様な重々しい音を立てて開く扉を眺めていた。

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