おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第86話

「ご主人様起きてください!もう王様達が練り歩き始めてますよ!」

「・・・・あぁ?」

翌日、俺を起こしたのは扉が叩かれる音とマホの声・・・そして外から聞こえてくる大勢の人の歓声だった・・・って、もう10時半になんのか・・・とりあえず、
鍵を開けるかねぇ・・・扉を開けると、出掛ける準備を終えたマホが立っていた。

「・・・はよっす。」

「おはようございますって完壁寝起きじゃないですか!」

「うん・・・そうね・・・」

「いやそうねじゃないですよ!ほら顔を洗って支度をしてきてください!王様達を
見たら、すぐに集合場所に行かなきゃいけないですから!もうロイドさんもソフィ
さんも下で待ってますよ!」

「あぁ、そう・・・うん、とりあえず先に行っててくれ・・・宿を出たらあっちの方で連絡するからさ。」

「えー?もう、仕方ないですね。分かりました、それじゃあちゃんと連絡してくださいね。」

「はいはい・・・んじゃあまた後でな・・・」

「はい!じゃあまた後でです!」

元気に返事をして階段を降りて行ったマホを見送った後、俺は部屋の中に戻って
身支度を整えた。そして荷物を持って部屋を出ると、受付に鍵を返しに行った。

「おはようございます九条様。お連れ様はお先にお出掛けになりましたよ。」

「わかりました。それじゃあこれ、返却しますね。」

「はい、確かにご返却頂きました。すみませんが九条様、お出掛けになる前に1つ
だけご確認したい事があるのですがよろしいですか?」

「はい、何ですか?」

「九条様達は、3日後もご予約なされていますがお間違いはございませんよね?」

「えぇ、またここに泊まりに来ます。」

ミューズの街から帰る時も王国で1泊する事は決まってるからな。だから行きと
帰りで同じ宿を予約したんだが、それを間違えて予約したんじゃないかって確認してるんだろうな。

「かしこまりました。それではまた後日、お待ちしておりますね。」

「えぇ、じゃあ失礼します。」

「それでは、お気をつけて。」

受付のお兄さんに見送られながら宿の外に出ると、より一層大きい歓声が聞こえてきた。

「おぉ、随分盛り上がってんな・・・っと、マホ達に連絡しないと。」

俺は通りの端の方に立って荷物を下に置くと、大通りに向かって走っていく人達を見ながら頭の中でマホ達に話しかけた。

(もしもーし聞こえるか?)

(はい!バッチリ聞こえますよ!ご主人様は今どちらですか?)

(俺は宿を出た所だ。そっちは?)

(私達は大通りを挟んで東側に立っているよ。)

(そうか、王様達は今どこら辺だ?)

(えっとですね、王様達は現在大通りの十字路を南に向かって進んでいます!)

(お、って事はこっから大通りに出ればタイミング良く見られそうだな。)

(だと思いますけど気をつけて下さいね!大通りは凄い人数ですから!)

(・・・まぁ、そうだろうな。分かった、充分気を付けるよ。そっちも人込みに
呑まれて怪我しない様にな。)

(了解。それじゃあまた後でね。)

(気を付けて。)

(ご主人様!もしもお姫様に手を差し伸べられたら失礼の無い様にしてくださいね!ではまた!)

(はいはいまたな・・・)

全く、失礼の無い様にってそもそもそんな事態になる訳ないだろうが・・・まぁ、気にしてもしょうがないしさっさと大通りに行くか。この人の流れを追って行けば
迷う事も無いだろうしな。
そう考えてしばらく歩いていると、大勢の人達が大きく手を振っている光景が目に入ってきた。その人達をかき分けて進んで行くと、何とか大通りに出る事が出来た。

「さて、王様はどこだ・・・?」

大勢の人込みに呑まれながら背伸びをしてきょろきょろ周囲を探していると、バカでかいステージの様な物がゆっくりとこちらに向かってきている事に気が付いた。
そしてそのステージ上には、目当ての人物たちが笑顔で手を振っていた。

「おぉ、あれが王様か・・・想像してたよりも随分若いんだな、白い髭とか無いし。王妃様もかなり若く見えるし、凄い品のある美人だな・・・そんで、あの煌びやかなドレスを着てる黒髪の可愛い女の子がお姫様か・・・年齢はマホと同じくらいか?」

何て言うか、絵に描いたようなお姫様だな・・・なんて思いながら王様達を見ていると、お姫様が見物人の方へ手を差し伸べている光景が目に入ってきた。その直後、デレデレとした表情の男がステージに上がってお姫様と握手をしていた。

「なるほど・・・あれが運が良かったらって奴か・・・」

にしても、あの男すげぇデレデレだな・・・いや、気持ちは分からんでもないけどもうちょっとシャキッとした方が良いんじゃないか?なんて思っていると、男はへこへこ頭を下げながらステージを降りて行った。それから数回、同じ様な事が起こったのだが・・・1つだけ気になる事が。

「何であのお姫様、男しか選ばねぇんだ?・・・まぁ、どうでも良いか。」

よしっ、それじゃあそろそろ集合場所に行くかね。この人込みかき分けてな!

「・・・して・・・さい!」

「・・・何だ?」

気合を入れて進もうと思った瞬間、人込みに紛れて何か気になる声が聞こえた気がした。少しだけ気になった俺は、背伸びをしながら周囲を見渡してみた・・・ん?
気のせいだったのか・・・?

「・・・やめ・・!・・して!」

「・・・やっぱり気のせいじゃない?」

もう一度限界まで背伸びをして周囲を見渡してみると、細い路地に連れて行かれる女の子を発見した!って、ちょっと待てよ!あちこち警備兵が居るのに全然気づいてねぇのか?!・・・あぁもう!何でこういう時に役に立たないかな!?

俺は苛立ちながら路地の方を見て一瞬考えると・・・人込みをかき分けて路地に向かおうとした!のだが、急に周囲の人が俺の邪魔をする様に前に立ち塞がった!
その中の1人の女の人が笑顔で俺の事をジッと見てきた!

「え、何ですか?」

「何ですかじゃないですよ!呼ばれてますよ!」

「は?誰に?」

「ほら、後ろ後ろ!」

女の人は俺の肩をグッと握って後ろに振り向かせた。すると目の前にはさっきの
ステージがあり、お姫様がこっちを見ながら微笑んでいた。

「さぁ、そちらのバッグを持った男性の方。どうぞこちらへ。」

「え、いや」

「遠慮なさらずに、さぁどうぞ。」

「いやだから、ちょ!誰だ押してるの!おい!ちょっと待ってくれ俺は!」

俺は取り囲まれた人達にグイグイ押されて、ステージに上がる為の階段の前まで
来てしまった!その後は王様達を警備していた兵によって強制的にステージに上がらされた!あぁもう、こんな事してる場合じゃないんだよ!
焦る気持ちを抱く俺の前に、ニッコリと微笑むお姫様がやってきた。

「ふふっ、さぁ緊張なさらずに。どうぞ、私の手を取ってくださいな。」

俺に向かって笑顔で手を差し伸べてきたお姫様を前にして、俺はとにかくさっきの子が気になって仕方なかった。なので俺はお姫様に向かって勢いよく頭を下げた!

「本当に申し訳ありません!それは別の人にお願いします!」

「・・・・は?」

ぽかんとしているお姫様の前から数歩下がると、魔法で作った風を足元にまとわせてステージの手すりを踏み台にして人込みを飛び越える!そしてさっき連れ去られて行った路地に着陸すると、ざわつく声を聞きながら急いでさっきの子を探し始めた!

あぁもうマホ本当にごめん!お姫様に失礼なことしちゃったけど、多分2度と会う事も無いから許してくれるよね!あぁ畜生!最高に運が良かったのに最悪だよもう!
俺は自分の間の悪さを呪いながら、路地の奥へと走っていく。願わくば、主人公的な奴が既に救出してますように!

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