おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第58話

「そう言えば、昨日はあれから何も起きなかったみたいだな。」

俺はリビングで出かける準備をしながら、ふと思った事を言ってみた。その言葉に真っ先に反応してくれたのは、既に準備を終えていたロイドだった。

「そうだね。さっき外にいる警備兵に昨夜の状況を尋ねてみたが、あれから特に何も起きなかったらしい。まぁ、当然と言えば当然だろうけどね。」

「うん。連日襲ってくる可能性は低いと思う。」

ロイドの言葉を聞いて、ソファーに座りながら武器の手入れをしていたソフィがそう言った。

「やっぱそうだよなぁ。はぁ・・・面倒だなぁ。」

「ほらご主人様、愚痴を言ってないで準備をして下さい。忘れ物はありませんか?」

俺はソフィの対面に座り愚痴をこぼす。そんな俺を見て、マホが呆れ顔でそう言ってきた。というか・・・

「マホは俺のお母さんかよ・・・大丈夫だよ、装備もしっかり持ったしネックレスもちゃんとつけたから。」

俺はそう言いながら首元をめくり、マホにネックレスを見せた。それを見て、マホは笑顔で頷くとロイドとソフィの方を見た。

「ふふっ、心配しなくても私もしっかり指輪を付けているよ。」

「うん。私も大丈夫。」

そう言ってロイドは右手につけた金色の指輪を見せ、ソフィは左手首につけた銀色のブレスレットを見せた。このブレスレットは、ソフィがギルドに入ってすぐマホが渡した物だ。マホが言うには、ソフィをイメージして作った自信作なんだとか。
そんな2人を見て、マホは満足そうに笑顔になると大きく頷いた。

「はい!皆さん私が上げたアクセサリーを身につけてくれていて嬉しいです!」

そんな嬉しそうにしているマホを見ていたら、とある疑問が浮かんできたのでマホに聞いてみる。

「なぁ、ふと疑問に思っただがこれって距離的な制限とか無いのか?」

「距離的な?」

「あぁ。例えば、離れすぎていると声が届かなくなるとか。」

俺の質問を聞いて、マホはハッとした表情になり俺の質問に答えた。

「すみません、言い忘れていました!このアクセサリーなんですが、あまりに距離が離れすぎていると声が届かなくなります!」

「あぁ、やっぱりそう言うのあるのか。大体どれくらいで届かなくなるんだ?」

「えっと、恐らく街の入り口から中央の広場までは届かないかと思います。」

「という事は、街の半径よりも短いくらいか・・・なぁロイド、お前の実家ってどこら辺だっけ?」

「私の実家かい?そうだね、街の一番北の辺りかな。」

「そうか、じゃあ今日マホ達が買い物する場所はどの辺なんだ?」

「多分、広場から南側になると思います。ほら、以前ロイドさんと一緒に私の服をお買い物した場所です。」

「なるほどな、じゃあギリギリ俺達の声が届かなくなる可能性があるのか。」

「そうだね。まぁ、今日はソフィもリリアさんもいるし滅多な事は起きないと思うけどね。」

「うん。何があっても大丈夫。」

そう言って、ソフィは俺の方を見ながらピースサインをしてきた。・・・うん、それをやるならもうちょっと笑顔の方が良いんじゃないか?まぁ、良いけどさ。

「よし。じゃあこのアクセサリーの効果範囲も分かった事だし、そろそろ出るとするか。」

「はい!ソフィさん、今日はよろしくお願いします!」

「うん。任せて。」

「ふふっ、これは頼もしい限りだね。」

「そうだな。あ、そう言えば・・・」

俺はリビングにある棚の上に置かれたスマホと専用のポーチをソフィに手渡した。

「これ、一応持っていってくれ。家に置いておいて、もし盗まれでもしたら面倒な事になりそうだからな。」

「了解。」

ソフィはスマホをポーチに入れると、立ち上がり腰にポーチをつけた。その後、全員の支度が終わったのを確認して俺はソファから立ちあがった。

「さてと、じゃあそろそろ出るか。」

「はい!あ、ご主人様。ロイドさんのご両親にお渡しするお土産とかは大丈夫ですか?」

「あっ、そう言えば何にも準備してなかったな。どうするか・・・」

「いや、そんなに気を遣わなくても大丈夫だと思うが?」

「そう言う訳にも行かないだろ。ロイドの仲間として見られるんだから、礼儀がなってない奴とか思われたくないし・・・」

それに事件の詳細がロイドのご両親の耳に入っているという事は・・・俺がロイドの家で風呂に入っていた事も耳に入っているはず!その時の話を穏便に済ませる為にも、手土産は必須!

「という訳で、何か喜ばれそうな物を教えてくれ!」

「そうだね・・・確か実家に行く途中に、老舗の菓子屋があるはずだ。そこの菓子はとても美味しくて、両親も好きな物のはずだよ。」

「よし!じゃあそれを買ってから、ロイドの実家に行くぞ!」

「ご主人様!できればそのお菓子、お土産として買って帰ってきてください!私も食べてみたいです!」

「あったり前だろ!マホがお土産の事を言ってくれたおかげなんだからな!」

「わーい!ソフィさん、楽しみですね!」

「うん。楽しみ。」

俺の言葉を聞いて、マホは嬉しそうにしながらソフィにそう言った。ソフィはそんなマホを見て、少しだけ笑顔になっていた。
その後、街へと向かった俺達は斡旋所の前でマホとソフィと別れた。それからロイドに案内されて店に行き、手土産の菓子の詰め合わせを買うとロイドの実家へと向かった。

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