おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第52話

控室で今日の事を振り返りながら待機していると、部屋の扉がノックされた。

「はい、どうぞ。」

俺が返事をすると扉が開き、サングラスを外した実況さんがずっしりとした感じの綺麗な袋と色紙を持って立っていた。っていうか、素顔は意外と好青年って感じなんだな。

「失礼します。」

そんな印象を抱いていると、実況さんは丁寧にお辞儀をしてから部屋の中へ入ってくる。そして袋と色紙をそっとテーブルの上に置いた。も、もしかしてこれが!

「本日はおめでとうございます。こちら、賞金の50万Gになります。それと、受付でお預かりしていたダブルゴッド様からのサインになります。」

「おぉ、これが・・・」

俺はテーブルに置かれた袋をそっと持ち上げてみる。おぉ、これが汗水垂らして稼いだ賞金か・・・なかなかの重量感だな。それとこれがあの二人のサインか!っていうかキャラクター描いてあるじゃん!すげぇ!

「あの、ありがとうございます。わざわざ持ってきていただいて。」

「いえいえ、これも私の仕事ですから。」

「そうなんですか・・・って言うかちょっと良いですか?」

「はい?どうかしましたか?」

「あの、キャラ違いすぎじゃないですか?」

俺は戸惑いながら実況さんに疑問をぶつけた。だって実況している時と今と違いすぎるだろ。そんな事を思っていると、実況さんは少し申し訳なさそうに俺を見た。

「あ、申し訳ありません。実はこっちが私の素でして・・・もし違和感がおありなら実況する時のキャラクターになりますけども・・・」

「あぁ、大丈夫です!ちょっと不思議に思ったので聞いてみただけなので。」

それに間近であのテンションはかなりキツイからな。・・・っていうか。

「あと他にも気になる事があるんですけど、ロイドと実況さんって知り合いなんですか?」

俺がそう問いかけると、実況さんは不思議そうな顔をしてロイドを見た。

「あれ、ロイドさんまだ説明していなかったんですか?」

「あぁ、貴方が来てからの方が良いと思ってね。」

「・・・え?二人って結構親密な感じなのか?」

なにそれ。おじさんちょっと嫉妬しちゃうよ?・・・おえっ!自分で考えた事とは言え気色悪いな!なんて思っていると、ロイドがニヤッっとした感じで俺の方も見てきた。

「ふふっ、どうだろうね。」

ロイドはそう言って、おかしそうに笑っていた。そんなロイドを見ながら、俺は実況さんに視線をやる。すると、実況さんが慌てた感じでロイドの方を見た。

「ちょ、ちょっとロイドさん!九条さんが困っているではないですか!・・・はぁ、私とロイドさんはウィスリムさんを通じてのお知り合いというだけです。」

「ウィスリムさんって・・・ロイドの親父さんですか?」

「はい。ウィスリムさんが闘技場での仕事を紹介してくれたんです。その時にロイドさんとお知り合いになりました。」

「なるほど、じゃあ別に深い関係って訳では・・・」

「あ、ありませんよ!それに私、結婚していますから!」

そう言って実況さんは、服の下に隠れていたペンダントを取り出し俺の前へ持ってきた。そのペンダントは開くようになっており、中には実況さんと綺麗な女性が一緒に笑っている写真が入っていた。

「・・・え、じゃあさっきのロイドの意味深な態度は何だったんだ?」

俺がそう言ってロイドの方を見ると、悪戯が成功した子供みたいな表情でこっちを見ていた。

「なに、九条さんを少しからかってみようかと思ってしまってね。驚いてくれたかな?」

「・・・まぁそれなりにはな。」

「ふふっ、なら大成功かな。」

面白そうに笑うロイドを見て、俺は呆れながらため息を吐く。そんな俺達を微笑みながら見ていた実況さんは、腕時計を確認して表情を引き締めた。

「すいません。この後も色々と仕事が残っておりますので、そろそろ失礼させていただきます。」

そう言えば、この人闘技場の偉い人だったな。俺は椅子から立ち上がると、実況さんに小さく頭を下げる。

「すいません、引き留めてしまって。」

「いえいえ、こちらこそお長々とお話をしてすいませんでした。」

二人して同じように謝っていると、ロイドが賞金と色紙を持って立ちあがった。

「ほら二人共、いつまでもそうしていないで、そろそろ控室から出ようじゃないか。」

ロイドがそう言って先に控室の外に出たので、俺と実況さんも後に続いて控室を出た。外に出ると同時に、実況さんがもう一度深々とお辞儀をしてきた。

「お二人とも、本日は素晴らしい試合をありがとうございました。またいつか、参加して下さる日を心待ちにしておりますね。」

「あはは・・・多分、もう参加しないと思いますけどね。かなり痛かったですし。」

「私も九条さんが参加しないなら、遠慮させてもらおうかな。」

俺達の言葉に、実況さんは頭を上げ苦笑いをしながらこっちを見ていた。

「それは残念ですね。なら、次回は参加せずイベントを見に来ていただけると嬉しいです。私も実況を頑張らせもらっていますので。」

そう言って実況さんは、何処からかサングラスを取り出し装着した。そして俺達の方へビシッと人差し指を向けて大声で話しかけて来た。

「それじゃあナインティアのお二人とも!今日はありがとう!次回のイベントも是非ともお楽しみに!」

そう言って実況さんは、通路の奥へ走って消えていった。てかキャラの切り替えすげぇな。そんな関心をしていると、ロイドが俺に色紙と袋を渡してきたので受け取った。

「さて、私達もそろそろ帰るとしようか。」

「そうだな。それにしても50万Gか・・・どうする?今日はお祝いって事で外食でもするか?それにサインも貰ったからマホよろこ・・・ぶ・・・あっ」

し、しまった!すっかり忘れてた!隣を見ると、ロイドも俺と同じ考えに至ったのか、片手で額を抑えてあちゃーという表情をしていた。

「試合の達成感ですっかり忘れていた・・・」

「まずいぞ!あの試合を見たマホがどう思うかなんて簡単に想像できる!急いで受付まで行くぞ!多分、そこで待ってるだろうから!」

「了解だ!」

それから俺達は、受付前まで急いで走っていった。そこで俺達を待っていたのは呆れた表情のリリアさんと、苦笑いをしているライルさん。そして・・・

「おじさん!ロイドさん!」

ほっぺをふくらませ、カンカンに怒っているマホだった・・・ていうか、ちゃんと受付に人がいるからおじさん呼び出来て偉いぞ!まぁ、そんな事を言える雰囲気でもないですけどね。

「ちょっとそこで正座してください!」

「「・・・はい。」」

マホの言葉に当然逆らえるはずもなく・・・俺達は冷たい地面に正座をした。
うわぁーメチャクチャ怒りながらこっちに来た・・・マホは怒りながら俺の前に立つと、仁王立ちでこちらを見てきた。

「もう!どうしておじさんはいつもいつも危ない事ばっかりするんですか!!それを見ている私の気持ちが理解できないんですか!?出来ないんですよね!」

「いや、そんな事はないと思うんですが・・・そ、それにほら!今回は腕とかに全然傷とか無いし!」

「そう言う問題じゃないんです!私がとっても心配させられたって事を言っているんです!」

「はい・・・すいません・・・」

俺が謝ると、今度はロイドの方を見てお説教を始めた。

「ロイドさんもロイドさんです!どうしておじさんの事を止めなかったんですか!」

「いや、勝つ為にはしょうがなかったと言うか・・・それに、私がどうこう言った所で九条さんは止まらないだろう?」

「くっ、確かにおじさんは一度言い出したら突っ走る所がありますけど!そこはロイドさんがもう少し頑張って抑えてくれないと!」

「・・・え、俺ってそんな聞き分けがない子みたいな扱いなの?」

まさかの認識のされ方に驚いて二人を見ると、何を今更・・・的な目で見られた。
あれぇ?もしかして、頼りになる大人とかっていう認識は皆無?

「全くもう!良いですか、お二人はですね!」

「ちょ、ちょっと待ったマホ!」

俺は説教を続けようとしたマホの言葉を遮り、声をかける。

「・・・何ですか?」

マホは怒りながらも、一応はこちらの話を聞いてくれようとしていた。うん、マホが話を聞いてくれる子で助かるよ。

「えっと、説教は家に帰ってからにしないか?ほら、まだ皆さんお仕事があるしさ。ここにいたら邪魔だろ?それにほら!サインもしっかり貰ってきたからさ!今はここまでって事で勘弁してくれないか?」

俺は手に持ったサインをマホに渡して許しを請う。マホはサインを見た瞬間、少しだけ表情が柔らかくなった。

「むぅ・・・分かりました。サインに免じて、お説教は勘弁してあげます。」

「ふぅ。」

「ただ!もし次こんな事があったらもっと怒っちゃいますからね!」

「わ、分かってるって!俺だって今回みたいな痛い思いは二度と御免だ!」

「ロイドさんも、私がいない時はしっかりおじさんを抑えてくださいね。」

「あぁ。いくら傷も残らず血も出ないと言っても、あの作戦は本当に無茶だったからね。次が起きないよう、しっかり私とマホで九条さんを抑えよう。」

うーん、何だか聞き分けの無い子供的な扱いな気がする・・・一応最年長なんですけどね!そんな事を思っていると、リリアさんとライルさんがこちらにやって来た。

「さて、マホさんのお説教も終わったようですし外に出ましょうか。」

「あはは・・・お二人とも、今回はお疲れ様でした。」

「あぁ、リリアさんもライルさんも応援ありがとうね。とても嬉しかったし力にもなったよ。彼女達にもそう伝えておいてくれるかな。」

「・・・てかそうだ!ロイドのファン子達ってどこにいるんだ?!」

俺は慌てて立ち上がると周囲を警戒する!そんな俺を見て、リリアさんが冷静に話しかけて来る。

「ご心配なく、彼女達なら先に帰らせましたわ。試合が終わって疲労がたまっているのに大人数で押しかけては迷惑だと説得して。」

「そうなのか・・・正直、試合が終わった直後にボコボコにされると思ってたから。」

「まぁ、そうしようとした事は否定しませんわ。勝手にロイド様の個人情報を話すなんて万死に値しますもの。」

「ですよね・・・」

「ただ、何かあれば直接ロイド様がおっしゃるでしょうし、最後の方は試合も頑張っていらっしゃったのでそれで勘弁してさしあげますわ。」

「そうか・・・良かったぁ。」

「ただ・・・次はありませんからね?」

そう言ってリリアさんがニッコリと笑うのを、俺はメチャクチャ怖ぇ!と思って見ていた。それから俺達が闘技場の外に出ると、空はもう夕焼け空になっていた。

「もうこんな時間か・・・そうだ、どうせだったら皆で夕飯でも食べに行くか?」

俺がそう提案したら、リリアさんが頬に手を当て残念そうにこちらを見てきた。

「申し訳ありません。私、この後に予定が入っておりますのでご一緒できませんの。」

「そうなのか、ライルさんは?」

「すいません、お誘いは大変ありがたいんですが私も外せない予定が入っておりまして。」

「そっか、じゃあ3人で食べに行くか。そうだ、心配かけたお詫びに今日はマホの食べたい物にするか。それでいいか、ロイド。」

「あぁ、私もそれで構わないよ。じゃあマホ、今日は何が食べたいんだい?」

「そうですね・・・あ!私ハンバーグが食べたいです!」

「ハンバーグか・・・何処が美味いんだろうな・・・」

正直この街のグルメには詳しくないからな・・・そんな事を悩んでいると、リリアさんが話しかけて来た。

「あら、でしたらお勧めのお店がありますわ。少しお高めですが、とても美味しいハンバーグが食べられますのよ。」

「へぇー、じゃあそこにするか。店の名前教えてもらって良いか?」

「えぇ、お店の名前は・・・」

それから俺達は、リリアさんに紹介された店に向かった。道はマホの案内のおかげですんなりと着くことが出来た。しかし、リリアさんの紹介だけあって結構なお値段のするハンバーグだった。まぁ、マホが喜んでいるから良いけどさ。
それから食事を終えて店を出ると、外はもう夜へと変わっていた。それから俺達は魔法で作った光で道を照らしながら家へと帰っていった。だって俺の家への道、住宅街じゃないから真っ暗だしな。
それにしても、さっさと風呂に入りてぇ・・・・マジで今日は疲れたからな、しばらくは家でのんびりニート生活でも楽しもうかな!

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