おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第51話

しばらく会場内のざわざわした声を聞いていると、何やら派手な格好をしてサングラスをした人がマイクを持って会場内に入って来た。な、なんだあの人。俺の苦手なパリピ系の人間か?・・・ロイドに聞いてみるか。

「なぁ、あの人誰だか分かるか?」

「ん?あぁ、そう言えば九条さんは声しか聞いてなかったね。」

「声しか?・・・もしかして」

俺が思い当たった人物をロイドに言おうとしたら、サングラスの人は俺達に背を向けるように立ち、マイクを使って大きな声で話し始めた。

「さぁ!皆さんお待たせしました!それではこれより、王者を倒したナインティアを称える表彰式を始めたいと思います!」

サングラスの人がそう言った瞬間、観客席から沢山の歓声と拍手が聞こえて来た。あ、やっぱり実況の人か。つうか派手すぎじゃね?この人着てるのアロハシャツだよな?俺が若干引きながら実況の人を見ていると、実況の人は突然こちらに振り返った。

「お二人とも!とても素晴らしい戦いを見せて下さってありがとうございました!それと申し遅れました、私この闘技場で実況と運営を担当している者です!気軽に実況さんと呼んでください!」

「は、はぁ・・・どうも。」

流石試合を実況していただけあって、キャラが濃いなぁ・・・そんな事を考えていると、実況さんがテンション高めに話しかけて来た。

「おや?どうやら試合の後でお疲れの様ですね!ですが、これで最後なので頑張っていきましょう!」

「は、はい。」

「了解です。」

正直このノリは苦手だが、最後だから少し頑張るとするか。そんな風に思っていると、実況さんが突然こちらにマイクを向けて来た。

「それではまずは、九条選手に今回のイベントの感想を頂きたいと思います!いかがでしたか、初参加にして王者を倒すという快挙を成し遂げたご感想は!!」

うわぁテンション高いな・・・ていうか戦っている時は気にならなかったが、改めて会場内を見るとかなりのお客さんがこちらを見ていることに気づいた。やばい・・・緊張してきた・・・だが、ここは大人としてしっかりしている所を見せなければ!

「そ、そうですね!あの、まぁ、ここまで来れたのは隣にいるロイドのおかげだと思っています!はい!あ、なので!王者を倒せたのはロイドがいてくれたからですね!」

・・・情けなくて死にたくなってきた。最初の方声裏返るし、後半カミカミだしもう嫌になっちゃうね!

「なるほど!九条選手はロイド選手にとても感謝をしているという事ですね!
では次に、ロイド選手にご感想を聞かせて頂きたいと思います!いかがででしょうか!王者を倒し頂点に立ったご感想は!」

実況さんが今度はロイドにマイクを向けて質問をする。ロイドはマイクを向けられても、微笑を絶やさず爽やかに質問に答え始めた。

「そうですね・・・私がここまで来れたのは、最後まで諦める事をせず、勝つ事に全力を注いだ九条さんがいたからです。だから、九条さんと一緒にここに立てる事をとても誇らしく思っています。それに、ここまで応援して下さった皆様や、私の友人達にもとても感謝しています、本当にありがとうございました!」

そう言ってロイドは、深々とお辞儀をした。慌てて俺もお辞儀をする。すると、会場内から割れんばかりの拍手が聞こえてきた。それを聞きながらロイドはゆっくりと姿勢を正したので、俺も一緒になって姿勢を正す。

「ロイド選手は九条選手、そして会場内にいる皆様にとても感謝しているんですね!ロイド選手の言葉に、私も胸が熱くなる思いです!そんな中、ナインティアに最後の質問をさせて頂きたいと思います!!」

そう言って実況さんが、俺にマイクを向けて来た!最後の質問?一体何なんだ?

「それでは、ナインティアのギルドリーダーである九条選手にお聞きしたいと思います!九条選手!ナインティアは闘技場の新たなる王者となるのでしょうか!それとも、王者の座は辞退するのでしょうか!どうかお答えください!」

・・・そう言えばそうだった。王者を倒したんだからその事を聞かれるよな。ってか王者って辞退しても良いのか・・・俺は隣に立っているロイドを見る。
ロイドは俺と顔を見合わせると、ニコリと笑って話しかけて来た。

「ふふっ、どうせ九条さんの中では答えが決まっているんだろ?安心してくれ、私も同じ考えだよ。」

はぁ、色々お見通しって事か・・・だったらもう答えは決まっているな。

「・・・えぇー、私達ナインティアは王者の座を辞退させていただきます!」

俺がそう言った瞬間、会場内から沢山の驚きの声が聞こえて来た。実況さんも俺の答えに少し驚くような素振りを見せ、話しかけて来た。

「おぉっと!まさか王者の座を辞退するとは、私驚いてしまいました!その理由をお尋ねしてもよろしいですか?」

まぁ、ここは嘘言ってもしょうがないし正直に答えるか。

「そうですね。簡単に言ってしまえば、もう痛い思いをしたくない!それだけですね。」

「なるほど!確かに最後、九条選手は腕を貫通されるという我々の想像を絶する痛みを味わっていましたね!」

「えぇ、あんな思いはもう御免なので辞退させていただきます。」

「そうなのですね!ですがよろしいのですか?王者になれば毎週10万Gもの大金を貰えますし、豪邸に住むこともできますが!」

「はい。お金は冒険をして稼げばいいですし、豪邸という物にあまり魅力を感じてはいませんので。」

それに、家ならもうあるしな。結構愛着湧いてきたし、思い出もあるしな。

「なるほど!九条選手は根っからの冒険者という事なのでしょうね!では、ロイド選手にもお聞きしたいと思います!王者の座を辞退という事でよろしいのでしょうか!」

「はい。異論はありませんね。」

「毎週のお金と豪邸に魅力は感じないと!」

「えぇ。それよりも、九条さん達と自由に冒険をする方が楽しいですから。それに私の場合、家の事情などもあるのでイベントに参加できるか怪しいですからね。」

「確かに、ロイド選手はこの街の貴族の娘さんですからね!ご家庭の事情では仕方ありません!」

そう言うと、実況さんは再び俺達に背を向け観客席に大きな声で語り掛ける。

「それでは、今回ギルドナインティアは王者の座を辞退しました!という事は、次回のイベントで決勝を勝ち残ったギルドが、自動的に次の王者という事になります!!
腕に覚えのあるギルドの皆様!次の王者はアナタ達かもしれません!」

実況さんは、観客席を勢いよく指さして大声でそう言った。すると、観客席から大勢の歓声と拍手と雄叫びが聞こえて来た!うわぁ、すげぇ盛り上がりだな。
そんな事を思っていたら、実況さんが突然俺の隣に来た。そしてマイクを使い最後の挨拶を始めた。

「それでは!今回のイベントはここまでとなります!皆さま、楽しんでいただけたでしょうか!次はぜひ、参加者として闘技場に来てみてはいかがでしょうか!本日はご来場ありがとうございました!!」

実況さんは、そう言って深々とお辞儀をし始めた。俺とロイドもそれに合わせてお辞儀をする。その瞬間、会場内から「面白かったぞ!」とか「良い試合だったぞ!」という声が聞こえて来た。・・・はぁ、何とか終わったのか。俺が安堵していると、実況さんがマイクを使わずに話しかけて来た。

「お二人とも、お疲れ様でした。」

「あ、お疲れ様でした。」

「うん、お疲れ様。」

「この後賞金をお渡ししますので、控室で待機をお願いします。」

「了解。それじゃあ後でね。」

「はい、失礼します。」

実況さんは、こちらに軽くお辞儀をすると先に戻って行ってしまった。っていうか。

「あの人、さっきとキャラ違いすぎじゃね?」

「まぁ、それについては後で説明するよ。」

「あぁ、やっぱり知り合いなのか。」

「うん、そうだね。それについても後で控室で説明するよ。彼も賞金を渡しに来るだろうからね。」

「了解。じゃあとっとと戻るか。」

それから俺は、心地よい疲労感を感じながらロイドと共に控室へと戻って行った。

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