おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第30話

女の子は一気にロイドに詰め寄ると、ロイドの両手を包むように握り涙目でロイドを見つめた。

「あぁロイド様!お会いしたかったです!」

「いや、つい先日も家の関係で会ったと思うだけど・・・」

「私は毎日でもロイド様にお会いしたいんです!それとどうしても確かめたいことがあります!」

「確かめたい事?」

「はい、風の噂に聞いたのですがロイド様ギルドを結成したとお聞きしたのですが嘘ですよね?今まで私がいくら誘ってもギルドを作って下さらなかったのにギルドを作ったなどと!」

凄い勢いでロイドに聞いている女の子を横目に俺は斡旋所からの脱出を試みようとした。すまないロイド、何やら厄介な匂いがするから知り合い同士で問題を片付けてくれ!と思って外に出ようとしたら、さっきの男たちに立ち塞がれた。
・・・・うん、分かってたよ?チッ。

「いや、ギルドは作ったよ。そこにいる彼と一緒にね。」

そう言ってロイドはこちらを指さしてきた。同時に女の子がこちらの方をギロッとした目でこちらを見てきた。怖い!そして一気に俺の所までやってくると首元を掴み激しく揺さぶってきた!

「どういう事ですの!貴方の様などこの馬の骨とも知らないような男がどうしてロイド様とギルドを結成できますの!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!お願い待って!お願いしますから!」

それからしばらく揺さぶられ続けたが、何とか手を放してもらった俺は地面に突っ伏して吐きそうになっていた・・・・気持ち悪い・・・

「それで?どうして貴方みたいな人がロイド様とギルドを結成できたのか説明いただけますか?まさかロイド様の弱みを握って脅迫しているんじゃ!」

女の子はもの凄い勢いでこちらを睨みつけている。

「違う違う!ロイドからギルドを作ってくれって言ってきたんだよ!」

「そんな言葉信じられません!ロイド様は今まで様々なギルドにお声がけを頂いていたのです!私も何度もギルドの結成をお誘いしました!それなのにそのロイド様がみずから誘うなどと嘘をついて!」

「嘘じゃないって!な?ロイド!嘘じゃないよな!」

俺は地面を這うように移動してロイドの後ろに隠れる。

(ご主人様それはちょっと情けなくありませんか?)

(うるさい!もうあんな勢いで揺さぶられたくないだけだ!)

「ロイド様!本当の事をおっしゃってください!もしもその人に脅されているなら私があらゆる手段を講じて事故に見せかけて!」

「いや、九条さんの言っていることは本当だよ。私が彼を誘ったんだ。」

「いやちょっと待って、事故に見せかけて何?消されるのか?俺は事故で消されるのか?」

「そ、そんな・・・・・」

女の子はそのままふらふらとしながら地面に倒れこんだ。・・・何だかすげぇ疲れる子だな・・・と考えていると受付のお姉さんが困り顔でこっちに来た。

「朝からこの調子で私達も困っていて、それに周りにいる威圧感の強い人たちのせいで今日は人があんまり来なくてクエストがあんまり減らなくて。」

「あぁ、だからいつもよりガラガラなんですか。」

どうりでいつもより人がいないはずだよ。だって怖いもんあのボディーガード。
なんて思っていたら女の子はすっと立ち上がりいきなりこっちを力強く指さしてきた。

「そこの殿方!私とロイド様をかけて決闘をしなさい!」

「・・・・は?」

え?何を言い出してんだ?決闘?え?

「嫌ですけど。」

「な、なんで断りますの?!」

「いや、普通に考えて嫌だろ。ていうか決闘なんてどこでやるんだよ。そもそも認められてるのか?それとロイドの意思も確認しないのはどうかと思うんだが。」

「うぅ・・・!ロ、ロイド様はどうお考えですか!」

「私?私は別に構わないよ、面白そうだしね。私の為に決闘してくれるならって思うと嬉しいしね。それと決闘はきちんと申請すれば問題なく出来るよ。」

「は?え、決闘って申請すれば出来るのか?」

「あぁ、闘技場に申請すれば問題なくできるよ。闘技場なら相手の命を奪う心配もないから、時々そういう意図で使われているしね。でも闘技場以外で人が武器使って戦うと罪に問われるけどね。」

「はぁーそんなもんなのか。」

「さぁ!これでロイド様の許可は下りました!どうです、決闘を受けてくださいますか!」

「いや、だから嫌だって。」

「だから何でですの!」

「いや、正直女の子相手に暴力を振るうっていうのが無理。俺の精神的に良くない。」

「私を女と思ってバカにしていますの?!」

「いやいや、バカに何てしてないけども。何て言うかな・・・あきらかに年下の女の子に向けて武器を振るってるおっさん。その光景を見た世間の人はなんて思うか。」

「まぁ、見られたら最悪この街にはいられないだろうね。」

「まぁそう言う事だ。っていうかまずは自己紹介をしてくれないか?あ、まずは自分からしないとだな。初めまして、九条透です。」

「あ、これはご丁寧にどうもですわ。私、この街を治めている貴族の娘で「リリア・ソルティア」と申しますわ。ってどんなタイミングで自己紹介しているのですか!」

(おぉ、この人案外ノリが良いですね!)

(そうだな。結構いい子なのかもな。)

「世間の目が気になるのならば、非公開で決闘すれば良いだけの話ですわ!」

「はぁ・・・何でそんなに決闘したいんだ?貴族って欲しいものがある時は決闘をしたくなる人種なのか?」

「まぁ否定はしないかな。大事な人を賭けて決闘している貴族は今でもたまにいるからね。」

「マジか・・・そこは否定してほしかった・・・・」

「まぁ、決闘で賭けられている本人も私の為にこんなに真剣になってくれてるわ!と言って喜んでいるし、勝者は観衆の前で大事な人が手に入るしで満足しているらしいよ。」

「全く持ってよく分からん世界だな。」

「何をロイド様と楽しそうにお喋りしてますの!きぃーー!!」

(ご主人様ご主人様!私、初めてきぃーー!!っていう人見ました!)

(あぁ、俺も初めて見たよ。出来れば俺に向かって言ってない時に見たかったな。)

「まぁ落ち着いてリリアさん。それじゃあ私からの提案なんだが、ダンジョン攻略で勝負をするのはどうだい?内容は単純、先にダンジョンの最深部に辿り着いて最初に街に着いた方が勝者だ。それなら九条さんがリリアさんに武器を向ける必要もないだろ?」

「まぁそれはそうだが・・・」

「私はそれでも構いませんわ!さぁこれでどうですか九条様!」

(ご主人様、これは断っても無限ループに入る流れだと思うですけど・・・)

(やっぱりそう思うか?はぁ、しょうがないか・・・)

「分かったよ。それじゃあそれにしよう。という事で、何か丁度いいダンジョンありますか?」

「え?あ、あぁ!少々お待ちください!今調べてまいりますので!」

急に話を振られたお姉さんはハッとして急いで受付の奥へと向かった。しばらくして、一枚の紙を持ってお姉さんは戻ってきた。

「それでしたらこのダンジョンはどうでしょうか?昨日内部構造が変動したダンジョンで【森林の迷宮】というダンジョンです。今はまだ誰も挑んでいませんよ。」

「名前で大体想像つく感じのダンジョンですね・・・そのダンジョンの適正レベルはどれくらいですか?」

「レベル6になります。」

「なるほど、リリアさんの今のレベルってどれくらいだ?」

「私は先日レベル7になりましたわ!」

「あぁそれなら丁度良いか。それにロイドと同じレベルだし。」

「まぁそうなんですか!全く同じレベルだなんてこれはまさしく運命ですわね!」

「ふふっ、それならとても嬉しいね。」

(すげぇ・・・笑って流してる。これがイケメンのみが許される行いなのか。)

(ご主人様は生まれ変わっても出来そうにありませんね。)

(余計な一言が多いぞ。)

「って事なら、最悪ボスが出てきても何とかなるレベルだな。まぁ、気を付ければボスなんて出ないだろうけど。」

(ご主人様・・・それはフラグなんじゃ・・・・)

「あぁ!そう言えばロイドさんは先日ダンジョンのボスを倒したんですよね!」

「そう言えば確かにそうでしわたね!その時のボスの素材を誰かにお譲りになったと・・・もしかして九条様にお渡しになったのですか?!」

「・・・・そう言えばそんな事になっていたね。」

ひぃ!ロイドの口が笑っているけど目が笑ってない!こわっ!

(ご主人様の自業自得ですね。うかつな判断をした自分を恨んでください。)

(お前はもう少し俺に優しくても良いんじゃないか?)

「そ、そんな事より!この勝負、リリアさんが勝ったらどうするんだ!」

「それは勿論、今のギルドを解散していただいて私と新しいギルドを!」

「いや、それは難しいかな。」

「ど、どうしてですか!」

「今回私は色々と下準備してこのギルドを作ったからね。今ギルドを解散されるとこれまでの準備が無駄になってしまう。だから申し訳ないけど解散は無理かな。」

「そ、そうなのですか・・・」

「それ以外の事なら大抵のお願いは聞いてあげるよ。」

「そ、それでしたら!『ロイドファンクラブ』のつどいにご出席してください!」

「ロイドのファンクラブ?そんなのがあるのか。」

「えぇ!この街にいる若い女性の多くが入会しているファンクラブですわ!私が設立いたしましたのでもちろん私が会員№1ですけどね!ロイド様には何度かファンクラブのつどいに来て下さるようにお願いしているのですが一度も来てくれませんでしたもの。」

「それは何でなんだ?ロイドなら喜んで参加しそうなのに。」

「いや、流石に私も3,40人の女性を1人で相手にするのは大変だからね。」

「え!そんなにいんのか?!」

「そうですわね。ロイド様は綺麗で美しく、それでいてお優しい方ですから。心が奪われてしまう女性が多いのも仕方の無い事ですわ。」

(イケメン滅ぶべし。)

(男の嫉妬は見苦しいですよ、ご主人様。)

「それに、最近はボスを倒したという噂も流れ更にファンが増えていますわ!」

「・・・・・」

・・・・・ごめんロイドマジゴメン。

「それよりも、もし九条様が勝った場合はどうなさいますか?」

ふと、リリアさんが俺にそんな事を聞いて来た。俺が勝った時ねぇ・・・

「正直何も無いでもいいんだが。」

「それは駄目ですわ!勝負はお互いに賭ける物があるから本気になれる物。九条様にも本気になって頂きますわ!・・・そうですわね、でしたら私が九条様の言う事を何でも聞くというのはどうでしょうか。」

「な、何でも・・・!」

(ご主人様ぁ~?)

(いや、お約束みたいな物だから。つい・・・)

「・・・まぁ、じゃあそれで。」

「それじゃあ勝負は明日の朝10時頃から始めますわ!しっかりと準備をしていらっしゃってここに来て下さいね!おーっほっほっほっほ!」

そう高笑いしながらリリアさんは扉を思いきり開けて、ボディーガードを引き連れ出て行った。・・・あんな高笑いするお嬢様アニメやゲームだけだと思ったわ。

「なんか嵐みたいな人だったな。」

「彼女は幼い頃からあんな感じでね。とてもいい子なんだよ。ただ、私の事となるとどうも自制が利かないみたいでね。」

「いや、楽しそうにしてないでちゃんと自制するように言い聞かせろよ。」

「まぁまぁ、それじゃあ明日に備えて今日は帰ろうじゃないか。ダンジョン攻略しなきゃいけないからね。」

「そういや、ダンジョン挑むにはパーティじゃなきゃダメなんだっけか。はぁ、また 明日何か言われそうだ。」

「まぁ、退屈した日々を過ごすよりは刺激的な方が楽しいだろ?」

「刺激的すぎるのも嫌なんだが・・・」

そんな事を話しながら、俺達は家に帰っていった。
そして何故だか今晩もロイドが家に泊まる事になった。マホは嬉しそうにしていたが、せっかくロイドが用意した家が少し寂しそうに見えた夜だった。

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